ー龍達の宴ー

□序章―運命のコドウ―
3ページ/9ページ

「寂しいのか?」
「うん」
「なんで?」
「・・・お母さんを知らないから」
「そう言えば、お前のお父さんって・・・」
「クリスタルキングダムのジュニーY世だけど」
「ジュニーの・・・」
「玄孫だよ」
「そうか・・・だからジュニーも気に入ったのか」
「え?」
「ジュニーは、人嫌いなんだ」
「え!?」

和純は驚いてしまった。

「だから、威嚇するような顔を他の子供にした」
「なるほど」
「でも、お前、本当に怖くなかったのか?」
「全然」
「お前、意外と大物になれそうだ」
「そうかな・・・」
「それにジュニーは昔お前と同じ笛を吹いては、この世界の争いを鎮めてきた」
「あのジュニーさんも」
「本名は、ケリー・ハンス。彼は偽名を使っていた」
「なんで?」
「さあな。そこまでは彼からは教えてくれなかった」
「言いたくないことって誰にでもあるんだね」
「まあな」
「僕・・・」
「どうした?」
「僕の名前は佐伯和純と君に言った。果たして本当にそうなのかな・・・」
「佐伯はどうか知らないけど、和純は本物だと思う」
「どうして?」
「私の勘」
「直感力に優れているんだね」
「それしかないけどな」
「すごいじゃない」
「そうか?でも・・・」
「瑠宇は自分の本名を知らないんだね」
「そうだ・・・」
「だけど、瑠宇は瑠宇だよ」
「え?」
「名前がたとえわからなくったって、気にせずに自分らしくいればいいよ」
「うん。ありがとう」
「うん・・・。本当はお父さんが佐伯って付けてくれたんだ」
「でも、お前の父親は」
「門谷衛。だからお母さんの苗字から佐伯を取ったんだ」
「ふうん。なら、さみしいことなんかないじゃない」
「そうだけど、一度も会ったことがないんだ」
「そうか。会えるといいな」
「瑠宇もね」
「私は、あまり気にしない」
「そうか。じゃあ、もう寝よ?」
「そうだな」

そう言うと、和純は瑠宇を招いて2人でベットに入った。

「いつも、お兄さんと寝るの?」
「ううん。兄ちゃんとは別室」
「どうして?」
「兄ちゃんは夜に鍛錬しにいくから」
「鍛錬?」
「いつ敵の襲撃が来ても向かい討てる様に」
「ここじゃ来ないんじゃない?」
「それはそうなんだけど、兄ちゃんはとにかくストイックなんだ」
「だから、厳しい顔を常にしているんだ」
「そうだな。もう少し穏やかになればいいのだが」
「人それぞれだよ」
「そうかもな」

すると、和純は部屋の明かりを暗くした。

「初めて友達になれて嬉しかったのに、明日になれば別れなきゃいけないのは寂しいことだね」
「そうだな。私も寂しい」

すると、和純はなにか思いついたようにこう言った。

「笛で君のために歌うよ?」
「笛は歌うものじゃないだろ?」
「例えだよ。でも、吟遊詩人は歌うように笛を吹くんだ」
「和純は吟遊詩人になりたいのか?」
「うん」
「和純なら、なれそうだ」
「瑠宇は?」
「龍使いだ。あらゆるドラゴンと共に世界を回りたい」
「すごいね」
「でも、レバイン兄ちゃんが許してくれない」
「そうなんだ」
「レバイン兄ちゃんは、忍者なんだ」
「忍者?とてもそういう風には見えなかったけど?」
「まあ、とにかく見た目で判断しちゃだめってことだ」

そう言うと瑠宇は眠ってしまった。

和純は、瑠宇にこう言って眠った。

「瑠宇・・・また会いたい」


そして、日が昇った。
和純は、聖龍と共にクリスタルキャッスルに帰ろうとしていた。

すると、瑠宇がこう言った。

「和純!!また会おうな。絶対だよ!!」
「瑠宇、僕も絶対に会いに行く!!」
「それまで、元気にしてろ!!」
「瑠宇もだよ!!」

そう言うと、聖龍は飛びだった。

瑠宇はいつまでも、手を振っていた。

和純も手を振っていた。

和純と聖龍はクリスタルキャッスルに着くまで、何も言葉を交わさなかった
交わしてしまうと、名残惜しくなってしまうからだ。

そして、クリスタルキャッスル前まで着いた。

『和純』

聖龍は突然そう言った。

「はい」
『レバインのことは気にするな。だがしばらく私達もお前に会いにいけない』
「どうして?」
『訳は聞かないでくれ』
「・・・」
『元気でな』
「はい・・・」
『寂しくなったら、笛を吹くと良い』
「え!?」

和純は驚いた。

(一言もジュニーさんに笛を吹いていることを言ってはいないはずなのにどうして知っているのだろう)

『あの笛の音色はジュニー一族・・・・。厳密に言うと私の家系しか吹けない音色だ』
「でも僕のお父さんは吹けないよ?」
『まあ、そういう人もいる』
「だから、僕達気が合ったんだね」
『まあな。お前は本当に昔の私にそっくりだ』
「ジュニーさんも内向的だったの?」
『まあ、仲間達と出会うまではな。おっといけない長話は禁物だった』
「帰るの?」
『まあな。でもまた気まぐれにくるかもな』
「嬉しい」
『良かった。最後に笑ってくれて』
「え?」
『だって、和純は私の子孫だからな』
「うん」

そう言うと、聖龍は何も言わずに飛び去ってしまった。


これが、和純と瑠宇とレバインとジュニー達の最初の出会いだった。


しかしそれが、世界の運命を揺るがす序章だと、ある1人を除いて誰も思いもしなかった。













和純と瑠宇は、8年後まで再会出来なかった。

それは言うまでもなく、レバインが瑠宇を和純に会わせなかったからである。


ある日の夜だった。
ドラゴンキャッスルの住民が寝静まった時だ。

その日の月は、優しい月明りではなく、悪魔の血のような赤黒い不気味な満月が見えていた。

レバインは鍛練の際中だった。しかし、不吉な予感がしたのか、彼は鍛練を早めに切り上げた。


レバインは、地下室の訓練場から、ドラゴンキャッスルの門に向かった。


「やはり、時が来てしまったか…」

その日、彼は恐ろしい悪夢にうなされていた。

瑠宇は、レバインの元に駆け付けた。

「兄ちゃん!!」

その声で、レバインは目を冷ました。

「瑠宇…」
「どうしたの?すごくうなされてたよ」
「…夢を見ていた」
「悪い夢?」
「この上なく悪い夢だ」
「教えて?」
「もう瑠宇も16だ。教えておこう。私は黒龍が蘇った夢を見た」
「………」
「そしてその黒龍は、クリスタルキングダムを滅ぼし、このドラゴンキングダムのドラゴン達を惨殺するんだ…」
「それは予知夢か?」
「分からない。だがこの全世界が間もなく破滅へ向かっているのは確かだ」
「私に出来ることはないか?」
「瑠宇…」
「レバイン兄ちゃん、私も一応印がある」

そう言うと、瑠宇は手のひらを見せた。

「『統』か…。お前は、クリスタルをここに持ってこい」
「今はダイヤモンドに合体してるはずだ」
「いや…不具合をきたし、あのダイヤモンドは分裂する。確か和純は、クリスタルキャッスルの第一王子だったな」
「まさか、和純を利用するのか?」
「その通りだ。彼が私に持ってくれれば、疑ったことをなしにしてやる」
「まだ…疑っていたの?」
「当然だ」
「レバイン兄ちゃん…。ごめんなさい」
「どうした?急に」
「私、やっぱり和純に会いに行くよ」
「だめだ。私が和純に会う」
「もう子供じゃないんだ。私だって自分で決めたい」
「なぜ?」
「あの笛の音色が私を呼んでいる。必要としてるから」
「罠かもしれないぞ?」
「もしかしたら、兄ちゃんが私を拾ったのも、罠をかけるためだったりして…」
「違う!!私は…私はお前が好きなんだ」
「どの好きなの?」
「………恋愛感情の」
「ごめんなさい。私には兄ちゃんの気持ちが理解できない」
「……あの少年のところへは…」
「行くな…でしょ。でも、私は和純が必要だ。そして和純も私が必要だ」
「何故それが言える?」
「初めての友達だからだ」
「そうか…。だからなんだ」
「え」
「私の気持ちが分からないと言ったのは」
「私はまだ恋を知らないからな。和純のは友情だからな」
「ならば、その友情を踏みつぶす」
「その権利は、あんたなんかにない」
「え!?今まで『兄ちゃん』と呼んでいたのに」
「それがいけなかったんだレバイン。私はもともと束縛を嫌う女だ。だが、恩義もあってそれを言わなかった。だからいまからここを出て行く」
「帰る場所がないのに、よくも言えたな」
「帰る場所ならあるよ。ただ、私は定住を好まない」
「まさか、今まで騙していたのは瑠宇のほうだったのか!?」
「騙す?人聞きの悪いことを言う王様だな。騙してたんじゃない。レバインが私のことを知らなさすぎただけの話だ」
「あの優しい瑠宇は演技だったのか?」
「そうとってもらっても構わない。それに私の本当の名前はルウ・カール」
「自分の名前を知らないと言っていたのに何故?」
「昔を思い出した。レバインと会う前のころ」
「…置いてゆくのか?一人にするのか?私を」
「レバイン、私は出て行くが、あんたにはドラゴン達がいるじゃないか」
「でも…」
「…じゃあな。長い間世話になった。後…いろいろとありがとう」
「………」
「永遠に会わないわけじゃない。だから暗い顔をするな」
「………」
「あんたはここの君主だろ?そんな顔していたら、ドラゴン達に心配されるぞ」
「分かっている。…瑠宇の本当の気持ちが分かった。だから、もう引き止めることもできない…」
「レバイン…」
「けど、笑ってさようならも言えない」
「ごめんなさい」
「だから、もう行くんだ」

そう言うと、ドラゴンが瑠宇の元へやってきた。

「ジュニー…」
『和純の元へ行くなら、私も行こう』
「違うんだ」
『どうして?』
「私は地上に降りるけど、クリスタルキャッスルの位置を知らないんだ」
『私なら知っているが?』
「でも、和純が待っているとは限らない」
『いや、あの笛の音色はお前に会いたいと歌っていた』
「取り敢えず、聖なる湖まで行こう」
『分かった』


するとレバインは、こう言った。

「瑠宇…長い間すまなかったな」
「ううん。こちらこそわがままでごめんな」
「元気でな」
「レバインも」

そう言うと、レバインは瑠宇にひざまずいて、彼女の手の甲にキスをした。

「今度戻ってくるときは素敵なレディとして、戻ってこい」
「レディになれるかは分からんよ。だけど会いにいくから」
「分かった。じゃあな。ジュニー、瑠宇を頼む」
『分かりました。レバイン竜王』

すると瑠宇は聖龍に乗って、ドラゴンキャッスルから地上に向かった。

『良かったのか』
「ああ、いずれはこうしなきゃいけなかったんだ」
『それは勘か?』
「さあな。私の夢はドラゴンとともに世界を横断することだからな」
『壮大な夢だな』
「だから、抜け出て正解だった。あの城にいたらいつまでたっても夢が叶わないからな」
『なるほど、瑠宇も自分の考えをレバインに言えるようになったんだな』
「もちろんだ。なんせあの人は、束縛したがるから」

そう言うと瑠宇は苦笑した。

『好きだからじゃないのか』
「それをあの人からも聞いた」
『まだ分からないか』
「今のところはな」
『そうか』


瑠宇と聖龍が話しているうちに、夜が明けた。

そして、朝日が昇った。

瑠宇は聖龍の上で眠った。
しばらくして、聖なる湖に着いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ