ー宿命ー
□約束のあの場所で
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「着替えたんだな…」
「動き辛いからね。今助けてあげるから」すると、俊也は春代の手を握った。
「暖かい…春代の手」
「そりゃ、俊也の手すごく冷たいもん」
俊也は自力で起き上がった。雪まみれの彼は、くしゃみを1回した。
「風邪引いた…」
「そりゃそうよ。城に戻ったら、着替えて温かいココアを作ってあげる」
「うん」
2人はクリスタルキャッスルに戻った。春代はすぐに俊也の服を脱がせた。
「相変わらず、華奢な体ね」
「いいから、服」
「はいはい」
春代はそう言うと、パジャマを着せた。
「パジャマ?」
「もう外に出ないでしょ?」
「くしゅん。そうだな」
「しばらく、横になってて」
「ん」
俊也はそう言うと、再び眠ってしまった。春代はその間にスケッチブックを開けた。すると、優しい笑顔をした春代と白い桜の木が描かれていた。
「描いたことないって言ったくせに、上手いじゃない」
不意に涙が出そうになった。それでもなんとかココアをカップに入れて、俊也の部屋に入った。春代は、俊也を起こそうとした。しかし彼は寝息を立てていた。
「気疲れしたのかな…」
春代はそう言うと、ココアの入ったカップを彼の机に置いて、椅子に座った。すると、俊也は起きた。
「ココアできたよ」
春代はそう言うと、俊也にカップを渡した。
「ありがとう」
俊也はそう言うと、ココアを飲み出した。
「美味しい…」
「そう。あのね、スケッチブック見たよ」
すると、俊也は急に顔を赤らめた。
「やっぱり、変だった?」
「ううん、そんなことない。ちゃんと私だって分かったし、上手かった」
「そうか…」
「俊也、私からのクリスマスプレゼントは…」
「ん?」
「ごめん。忙しくて思い付かなかった」
春代はそう言うと、すごく悲しい顔をした。
「いい。そんなの。悲しい顔するな。クリスマスプレゼントならもうもらった」
「へ?」
すると、俊也は起き上がて、春代にキスをした。
「お前」
春代は思いっきり動揺した。
「私?」
「そ。お前を嫁にな」
「じゃあ、私も」
すると、俊也は顔を赤らめた。
「そうなるな…。やっぱり、恥ずかしい」
「俊也だって充分初じゃない」
「ふんっ」
すると、漣がやってきた。
「お母様、お父様」
「なに?漣」
「俺…」
「ん?どうした」
「弟がほしい」
「急にどうしたの?」
「いやぁ、兄弟がいないとどうも寂しくてね。だから俺へのクリスマスプレゼントはそれで」
すると、春代はこう言った。
「あなたねぇ、私が大変なのよ?」
「分かってるよ。だって俺もそうやって生まれたんでしょ」
すると、2人の顔は湯でタコ状態になった。そして、俊也がこう言った。
「春代と相談する」
「本当?お父様」
「あぁ」
すると、春代はこう言った。
「漣、その行為は見ちゃだめよ。何があっても」
「分かってるって。『聖なる儀式』なんでしょ?」
「聖なる儀式?」
「操さんが言ってました」
「操さんがねぇ。まぁ確かに儀式と言えば、儀式だけど…」
「じゃあ、俺はこれから美希の城で、みんなとクリスマスパーティーに行ってくるね。ちなみに、今日は泊まるからご飯いらないよ」
「分かった」
「じゃあ、行ってきます」
漣はそう言うと、行ってしまった。
「いやぁ、さっきは不意打ちだったわ。まさかあの子、弟がほしかったなんてね」
「春代…」
「したい?」
「…したい」
「じゃあ、体治してから私の部屋に来てね」
「ん」
「それと、明日から危険日だから」
「そうなのか?」
「なるべく早く治してね。漣へのクリスマスプレゼント間に合わなくなっちゃう」「そうだな。ねぇ、春代」
「なに?」
「その時はよろしくお願いします」
そう言うと、俊也は土下座をした。
「いえいえ、こちらもお手柔らかによろしくお願いします」
そして、2ヶ月が経った。漣は本格的にトニーズキャッスルで由希達と、ピースオールキャッスルの新設の会議を行っていた。
ある日、春代は城務中に気分が悪くなった。そして、春代は手洗い場に吐いた。すぐに医務室にいる中川淳希に病状を説明した。すると、淳希はこう言った。
「ご懐妊されています。春、まさかやったの?」
「漣が弟ほしいって言ったから…。つい」
「そうか。俊也には言ったのか?」
「まだ言ってない」
「そうか。俊也呼んでくるね」
淳希はそう言うと、俊也に連絡した。
「もしもし、医務室の中川淳希ですが、至急来てください」
俊也はすごい形相をしながら猛スピードで医務室にやってきた。
「春代?」
「ご懐妊のことですよ」
「へ?妊娠したのか?」
「うん。漣にも教えてあげないとね」
「やったな。春代」
「うん」
「これから、体きつくなるから無理するなぞ」
「ありがとう」
すると、淳希はこう言った。
「毎週日曜日にここに来て下さい。定期検診をしますんで」
「はい」
2人は王室に戻った。そして、そこにいたハルクに春代がこう言った。
「私、妊娠致しました」
「本当ですか?」
「えぇ」
「第二王子の誕生ですね」
「まだ男の子か女の子かは分からないの」
「そうですか…」
すると、漣がグッドタイミングで帰ってきた。
「漣?もう帰ってきたの」
「今日は、ハル王と美影王妃の結婚記念日だから、帰らされたの」
すると、春代は彼を見据える。
「漣、よく聞いてね」
「はい」
「私、あなたの兄弟を身籠もったの」
「本当ですか?お母様」
「今日、気分が悪くなって医務室に行ったら、淳希先生に懐妊してるって言われて…」
「じゃあ、本当に兄弟が出来るんだね」
「そうよ。良かったわね。漣」
「ありがとう。俺のために」
そして、さらに2ヶ月が過ぎた。春代のお腹は少し膨らみ出した頃だ。漣はクリスタルキャッスルで、ピースオールキャッスルの戴冠式を行った。
「今日からクリスタルキングダムとトニーズキングダムは新しくピースオールキングダムとして合併します。そして、今日初代として私が王になることになりました。至らない点は多々ごさいますが、皆さんと共にこの国の恒久の平和と秩序と発展を目指して頑張っていきます」
そう言うと、国民はみんな拍手した。そして、漣は由希が王冠を受け取った。
「漣、いやレンT世。これからはあなたがこの国の時代を築き上げていくのですよ」
「はい」
「頑張って下さいね」
そして、戴冠式が終わると漣は、ピースオールキャッスルの国王として、城務を開始した。その頃、春代と俊也は聖なる湖で銀色の桜の木の花見をしていた。
「今日は漣が王様になった記念すべき日ね」
「そうだな。そして、お前の34回目の誕生日でもあるんだな」
「忘れてたけど」
「目を閉じて、手を開いて」
「こう?」
すると、俊也は何かを春代の手に置いた。
「目、開けていい?」
「まだ」
そして、俊也はこう言った。
「これは、俺からの気持ちだ。さぁ、開けて」
すると、春代は目をゆっくりと開けた。
「パンジーの花の香りがするんだけど…」
「バルコニーに咲いていたパンジーを1輪だけ摘んだ」
春代は手を開くとパンジーの花の栞があった。
「実はさぁ、ジュニーV世の栞があってさ、生前に渡してほしいって言われてたんだよ」
「おばあちゃんが?」
「きっと、春代が読書家って知っていたからだな」
「本当…」
「ごめん。大したプレゼントやれなくて」
すると、春代は顔を横に振った。
「ううん。そんなことない。すごく嬉しい」
すると、桜の花びらが風で舞い散っていく。
「綺麗…」
「久し振りだよな」
「うん」
すると、俊也はこう言った。
「春代、ゆっくりと目を閉じて。そして、顎を少しだけ上げて?」
「うん」
春代はそう言うと、ゆっくり目を閉じて、顎を上げた。そして、俊也は春代の顎に優しく手を添えて、春代の唇に自分の唇を重ねた。その時、銀色の桜の花びらが2人を包んだ。そして、風が優しく2人の髪を揺らした。
彼らは決して、平坦な道を歩んできたわけではない。13年間の悲しい空白…。しかし、これだけは言える。彼らはいつだって、お互いを愛していた。そして、その愛は永久に変わらないでいることを。ただ2人のこれからの幸多からんことを願おう。
ー完ー