ー宿命ー

□残酷な運命
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「どうして?」

「確かに平和を乱したのは、相当な罪になります。でも、彼を殺めるなんてそんな酷いこと…」

「あなたは、好きな人はいるの?」

「えぇ」

「その人が大事な人の命を奪ったとしても、平和を乱したとしても許せる?」

そう言うと、一度間をおいて透がこう言った。

「確かに彼女は俺の父親を殺めました。そして俺はこの手で彼女を殺めようとしました。しかし、彼女は俺の父親を殺さなきゃ、妹共々に逆に殺されていたんです。だから…一概に彼女を責めることは出来ません」

「そう…それでも殺さなかったのね。あなたはとても優しい人なのね。私には理解できないほど」

「俺なら、和解を求める」

「和解…。出来ない。彼はもう人間の心を失ったから」

すると、風が吹いた。

「それを取り戻すのはあなたですよ」

「もう手遅れ…よ」

諦めたように言うと、春代は聖なる湖に行った。透は慌てて付いていった。春代は湖の中に入った。透は仕方なく一緒に入ることにした。

「中川君の好きな人はどんな人?」

「がさつで荒っぽくて、男より男らしい人です」

「そう…」

「それに、悪ふざけを言うとすぐに俺のこめかみに銃を向けます」

「なかなかファンキーな人ね」

「でも、本当は俺を一番に心配してくれていて、たまに優しい笑顔を見せてくれます」

「本当に好きなのね」

「えぇ、大好きです」

「その人は君に想われて幸せね」

「だと嬉しいです」

その頃操はくしゃみをしていた。

「誰か私の話をしてるな」

「だと思いますよ」

そして、春代達は湖の深くまで泳いでみた。

(この光は…)

春代は光のある方に向かった。するとダイヤモンドが落ちていた。春代はダイヤモンドを拾うと透に合図して陸に上がった。

「ダイヤモンドがこんなところに…」

「確かに」

「中川君、私殺さずに済む方法が見つかったかも」

「本当ですか!?」

「一か八かだけど、ダイヤモンドで彼の中にある闇を浄化するの。でも、出来る確率は極めて少ない…」

「それでも、その確率に賭けてみましょう」

「えぇ」

春代はそう言うと、2人は洞窟に戻った。すると、漣が駆け付ける。

「このキラキラ光る物はなんですか?」

「これは、ダイヤモンドだよ」

「ダイヤモンド?」

「鉱石の中で1番硬度が高い宝石のことだよ」

「へえ。なんに使うんですか?」

「邪悪な光を浄化するのに使うの」

すると、漣はダイヤモンドを手にとった。

「綺麗だね」

彼はすっかりダイヤモンドに魅入られていた。

「でも、邪悪な光ってなんなんですか?」

「この世界の平和を脅かす脅威よ」

「それが…あの人?」

「ええ」

春代はそう言うと、美希と漣以外の人に別室に移るように言った。

「美希ちゃん」

「なんや、おばちゃん」

「もしものことがあったら、漣をよろしくね」

「おばちゃんは死ぬ気なんやね」

「そうかもしれない」

すると、漣はせつない顔をする。

「死なないで」

「漣…。ごめんね。俊也との約束だから」

「そんな約束しないで!!」

「ごめんね…ごめんね」

春代は涙ながらに漣の手を握った。

「私には、クリスタルキングダムを守る使命があったの。でも国1つすら、守れないなんて国王失格よね。だから、私は落とし前を付けたいの」

「おばちゃんのせいやないのに…」

「お母様…。僕…」

「ん?」

「お母様には血を汚してまで、平和を取り戻して欲しくない。あの人を殺すなら俺がその役目を引き受けるから」

「だめよ。漣。あなたは将来この国の主になる身なのよ。あなたにはさせることは出来ない。これは私の役目だから」

「でも…」

「分かってくれとは言わない。だけど、汚れ役を息子のあなたにはさせたくないの」

「お母様!!」

すると、漣は激しい頭痛を催した。彼は頭を抱えながら言った。

「記憶が戻りそうなんだ…」

「無理しないで」

(記憶が戻れば、またあの冷たい目になるんかな。そして、父親を憎んだことも思い出したりしてまうんかな)

美希は、漣の記憶が戻るのを危惧した。

(でも、今の漣は本来の漣やない。私が好きな漣なんかやないんや)

すると、漣は美希にこう言った。

「美希…」

「なんや?」

「俺が記憶を戻るのがいやなの?」

いきなり核心を付かれたので美希は、何も言うことが出来なかった。

「もしかして、あの人のことで抱く気持ちに関係してる?」

「ううん。ちゃう。またいつもみたく冷たい目をされてしまうのが、不安で不安でたまらないだけなんよ」

「冷たい目?」

「うん。いつも冷めた目してるんや」

「僕が?」

「そうや。人を寄せ付けない程冷酷な目をしてる」

「それが本当の僕なの?」

そう言うと、漣の瞳から一筋の涙が流れた。

「酷いよ、美希。そんなふうに俺を見てたなんて」

「でも、事実なんよ。前のあんたは父親似で冷酷な目をしてた」

「過去のことなんてどうだっていいんだよ!!」

漣は、悲しい目をして言った。

「僕は過去に振り回されたくない。記憶が失ったって関係ないんだよ」

「ごめん。私が悪かった…」

美希は、漣の顔を見た。彼は涙で顔を歪ませていた。

「そんな顔するとは思わんかったんよ。ほんまごめん…。記憶を取り戻したいならそうし」

「美希…。記憶を取り戻して例え、僕が君に冷たい目を向けたとしても、嫌いにならないでくれる?」

(今のは、漣の本心なんか?)

「嫌いになんかならんよ。嫌いになんかなるわけないやん」

「ありがとう。美希」

すると、漣はあまりの頭の痛みに気絶した。美希と春代は急いで、ベッドに漣を寝かせた。春代はみんなを呼んだ。

「漣は?」

「頭痛の酷さで気絶した」

「もしかして、記憶が戻りそうなんですか?」

操の質問に、春代は頷いた。

「まだ一概にそう言うとは言えないけどね」

「そうか…」

「明日になったら行くんですよね?」

「えぇ。えっとーあなたは」

「私は花嶋操です」

「操さんね」

「はい。彼を殺めないで下さい」

「うん。なんとか殺めない方法見つけたから、大丈夫よ」

「本当ですか」

「えぇ、だから安心してね」

「彼を助けてあげて下さいね」

「えぇ」

「お気をつけて」

「ありがとう。中川君、戻れたら好きな人の名前教えてね」

すると、操は透に鉄拳制裁を見舞いした。

「いてて。いきなり叩くなよ」

そう言うと、操は小声でこう言った。

「言いふらすなと言っただろーが!!」

「聞かれたから言っただけだよ」

すると、春代がこう言った。

「操さんって中川君が好きなの?」

「いや、ただの腐れ縁ですけど?」

しかし、赤面する彼女の顔を見れば誰だって一目瞭然だった。

「可哀相に。中川君はがさつで荒っぽくて男らしくて、悪い冗談を言うとこめかみに銃を向けるような彼女が好きなんだって言ってたわよ」

春代は、透が好きな人が操と分かってないのだ。

「お前、馬鹿正直に言ってんじゃねぇ!!」

「でも自分を一番に心配して、時々優しい笑顔を見せてくれるんだって、その彼女」

操は赤く顔を染めた。すると春代はやっと気付いたみたいだ。

「もしかして、その彼女が操さんなの?」

操は小さく頷いた。そして、透は悪びれずにこう言った。

「そして、俺達恋人同士ですから」

「ふうん。なかなか変わったカップルでいいんじゃない?」

「どこがですか?」

「だって中川君は見た目が優男だし、操さんは、男らしいし。はたから見れば、カップルと言うより友人って感じだから」

「そうですか」

「失礼なこと言ったようだけど、気を悪くしないでね」

「気にしてませんから」

操はそう言った。すると辺りが暗くなった。

「ランプが切れたみたいね」

そう言うと、春代はマッチでランプに火を点けた。すると明るくなった。どうやら空も暗くなったようだ。操達は夕食の準備をした。そして、7人は夕食をとった。その後透と操は洞窟を出て、外へ偵察に行った。

「なんで女王に言いふらした!?」

「女王様が聞いてきたからだと言っただろ?」

「言いふらさないでくれ」

「言い降らされるのが嫌なのか?」

「嫌だと言うより、恥ずかしい…」

「シャイな奴だな。付き合ってもう1年が経つんだぞ?」

「それでも恥ずかしいもんは恥ずかしい」

「そういうところ女なんだなと思うよ」

透はそう言うと、操はドキッとした。

「あれは全然本心だからね」

「悪びれず言えるお前が羨ましい…」

「そうか?」

透がそう言うと、2人は聖なる湖に行った。

「偵察じゃなかったのか?」

「悪い?洞窟の中ではなかなか2人きりになれないからね」

「またそう言うことを言う」

操は顔を赤らめる。

「なんでここは綺麗なままなのかな」

「さあな」

「春代さんがあの人との思い出の場所だと言ってたよ」

「ダークナイトとのか?」

「そうだ。俺もここが好きだ」

「落ち着くからか?」

「そうだよ」

すると、操は地べたに座った。

「確かに落ち着く…。心がスッとする」

透も座った。

「春になれば銀色の桜が咲くんだ。2人で見に行こうな」

「生きていればの話だろ?」

「生きてる保障はない?」

「当たり前だ。ミスティは尋常な強さじゃない。みんなで戦ったって勝てるか分からんのだぞ」

「それでも、俺は生きてるほうに賭けるよ」

「じゃあ私もそうしよう」

すると、風が吹いてきた。2人の髪を優しく揺らしている。

「それに、ミスティを倒した後は正式に結婚しよう」

「誰とだ」

「お前に決まってるだろ?」

「私は困る」

「どうして?」

すると、操の体が震えた。そして、彼女は震える体を抱く。

「お前の家族を殺した私を許してもらえるだろうかと…。不安なんだ。淳希さんだって私を憎んでいる…。そして、哲留さんだって私を殺そうとしたのだぞ…」

「もし無理なら、駆け落ちしよう」

「お前、正気か!?」

「至極正気だ。2人きりでジパングに行こう。そして、そこで結婚式を挙げよう」

そう言うと、操は涙を流した。

「そこまでしないでくれ…。私とお前は恋人にはなれても、夫婦になることは許されない…」

すると、透は操の頬を触れる。

「例え、世界中を敵に回しても、お前を離したりはしないし…。お前を幸せに出来る自信はある」

「でも…」

「俺を信じろよ」

「信じられない。だって、私達は敵同士なんだから」

「敵も味方もない。これは男と女の話なんだから」

「透…」

「操が良ければの話だけど…」

「馬鹿。そこは『操が嫌でも、結婚する』だろ?本当に爪が甘いやつ」

「だって嫌だったら元も子もないじゃないか」

「嫌なわけないだろ?馬鹿」

「馬鹿で結構」

透はそう言うと、満面の笑みを操に向けた。

「操も泣かずに笑って」

透がそう言うと、操も笑った。すると、漣がやってきた。

「本当に仲がいいんですね。先輩方は」

透は慌てて操を離した。

「漣!?いつから来てた?」

「結構前からですよ。2人の帰りが遅いから心配で来ちゃいました」

「それは、すまなかった。記憶は戻ったのか?」

「そりゃ記憶は戻りましたよ。先輩達のことや、自分のことも」

「それは良かった」

「でも、1つだけ不都合なことがあるんです」

「え?」

「俺が冷たい目をした理由が分かったからなんです」

「なんなら、洞窟で話したらどうだ」

「そうですね」

漣はそう言うと、3人は洞窟に戻った。漣は早速そのことについて話し始めた。

「俺は、昔から冷たい目をしていると言われてきました。それはある憎しみのせいだったんです」

(やっぱりそうなんやな)

美希はそう思った。

「その憎しみとは、実の父親のことです。お母様を13年間も置き去りにして、淋しい想いをさせてきたからなんです。それで彼に対する怒りが憎しみに変わったんです。確かに、お父様はミスティに捕らえられて、お母様に会えない状況だったと思います。でも連絡すらしないなんて…どこまで冷酷な人だとも思いました。そう思っているうちにいつの間にか、俺の目が冷酷に変わっていくのを感じました」

「そうか…。今でも憎いんだな」

「はい。だから、お母様俺にお父様を落とし前つけさせてほしいんです」

「分かった。ならもう止めはしない。ちゃんと気持ちをぶつけて来るのよ」

「はい」

漣はそう言うと、先に眠ってしまった。透達も眠ることにした。しかし、美希はどうしても眠れなかった。操はそんな美希に海に連れて行った。

「やはり、記憶を戻させたくなかったのか?」

「正直言うとそうなんです。冷たい目されると不安になるから…」

「でも、明日でそれとは決別出来るさ」

「だといいんですけどね」
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