ー宿命ー

□残酷な運命
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「クリスタルキングダムの白ユリの花畑の洞窟の中だ」

「あの…あなた達は?」

「忘れたのか?前に一度会ったじゃないか」

「忘れたというより、記憶にないんです。それに自分の名前さえ分からない…」

頭を抱える漣。

(頭のダメージが相当酷くて、記憶喪失になってしまったみたいだな)

冴子はそう思うと、こう言った。

「私は、花嶋冴子だ。こちらは私の姉貴の花嶋操だ」

「花嶋冴子さんと操さんですね?」

「そうだ漣」

「『レン』?誰の名前ですか?」

「お前の名前だ」

操はそう言うと、漣はしばらく考え込んだ。

「俺の名前は『レン』っていうんですね?」

「さんずいに連絡の連がついた字の『レン』だ」

「へぇ。ところでどうして皆さん洞窟の中にいるんですか?」

「外の世界は焼け野原なんだ。唯一の避難場所がここだったわけだ」

操はそう言うと、透が起きた。

「徳川おはよう。目が覚めたみたいだな」

「『徳川』?『レン』?どっちが俺の名前なんですか?」

「はあ?」

透は訳が分からないという顔をした。冴子は彼の耳元でこう言った。

「昨日の頭のダメージが相当酷くて、記憶喪失になったみたいなんです」

「そうか」

すると、操が漣に説明した。

「お前の名字が徳川で、名前が漣だ。続けていうと徳川漣だ」

「とくがわれん?」

「そうだ。ついでに言うと、聖クリスタルスクールの城務科1年生で、学年首席だった」

「俺って頭いいんですか?」

「あぁ、半端なくな」

漣は、寝てる美希を見遣る。

「この子は?」

「美希が気になるか?」

「ミキ?」

「この子の名前だ。戸川美希。トニーズキャッスルの王女様だ」

「トニーズキャッスル?王女?」

漣は初めて聞いたような顔をしている。操は根気よく説明した。

「この国がクリスタルキングダムだ。そして、トニーズキャッスルはクリスタルキングダムの南にある、トニーズキングダムの中央部にあるお城のことだ」

「へぇ」

すると、美希が起き出した。

「漣?目ぇ覚ましたん」

「あっうん。美希さん」

「なんかよそよそしいな漣。美希っていつもみたいに呼んでや」

「でも、初対面相手に対して失礼です」

「はぁ!?初対面な訳ないやろ?何回も会ってたやん」

「会っていた?僕達が?」

「そう、学校に行く時とかいつも一緒やったやん」

すると、操は美希にこう言った。

「漣は、頭のダメージが相当酷くて、記憶喪失になったみたいだ」

「本当なんですか?」

「あぁ。だから、みんなのことも自分の名前さえも覚えていない…」

(確かに、いつもみたく冷たさがないし…。むしろ、穏やかな目してるな)

「あの、俺美希さんと前に会ったんですか?」

「そうや。何回も何回も会ってる」

「ごめんなさい…。思い出せないんです」

「無理して思い出そうとするな。時間をかけて思い出せばいい」

するとマリア達も起き出した。操はマリア達にも事情を説明した。最初はみんな驚きのあまり絶句していたが、なんとなく理解したようだ。透は、今後のことを話した。

「これからは、ここが拠点となる。しかし、いつモンスターが襲いかかるかは分からない。それと多くの情報を得たい。だから、偵察班に操と美希に指名する」

「分かった。美希行こうか」

「はい」

美希がそう言うと、2人は洞窟の外に出た。辺りは闇の雲で覆われていて、光が差すところはみな赤く染まっていた。

「焼け野原だな…」

「この白ユリの花畑の花達もみんな枯れてしまってるし…」

「とにかく、聖クリスタルスクールに行こう」

操はそう言うと、聖クリスタルスクールに美希と向かった。建物自体は壊れていなかったが、あまりにも閑散としていた。2人は体育館に入った。

「前までここで透が、全体集会で話をしてた所とは思えない程、酷い有様だな」

周りには、壊れた機材があちこちに置かれていた。すると誰かがやってきた。操は条件反射で銃を構えた。

「誰だ!?」

するとその人物は彼女達に近付いた。

「動くな!」

「相変わらず物騒な生徒だな。操」

なんとルークだった。

「ルーク先生!?無事だったんですか」

操はそう言うとルークはこう言った。

「なんとかね。ジュニーW世とハルW世も無事だ。しかし、2人はどこにいるのかは分からない」

「そうなんですか…」

「他のみんなは?」

「白ユリの花畑の地下洞窟にいます」

「そうか。無事でなによりだ」

「それに、徳川漣が天空の城で見つかりました」

「本当か!?」

「でも、見つかった時は頭たから大量の血を流していて、非常に危険な状態だったんです。一応治療をしたので外傷はなくなりましたが、頭の衝撃が強かったらしく、記憶喪失になってしまいました」

「そうか…。とにかく俺も洞窟に行こう」

3人は白ユリの花畑の地下洞窟に向かった。

「ただいま」

美希がそう言うと、漣が柔和な笑みでこう言った。

「おかえり。美希さん、操さん」

「記憶喪失じゃないのか?」

「いや、記憶喪失です。名前は各自彼に教えました。それに目覚めた時は自分の名前さえ覚えてなかったんですから」

「あの…この人は?」

「俺は、国立図書館のルーク・ケイスだ。今ここにいるセミロングの女の子の父親でもある」

「ルークさんですね」

「そうだ。前は聖クリスタルスクールで先生をしていた」

「私、ここにいますからみんなは春代おばちゃんとおとんを探しに行って下さい」

「一人では危険だからハルクもいてやれ」

「はい」

ハルクはそう言うと、5人は洞窟の外に出た。

「どうしてあんなこと言ったんですか?美希さん」

「う〜ん。やっぱ調子狂うよな。敬語やし、美希さんって言われるし」

「じゃあなんと呼べばいいんですか?」

「美希や。さん付けせんといて」

「どうして?」

「幼馴染みやからや」

「幼馴染み?」

首を傾げる漣に、ハルクがこう説明した。

「王子、彼女は昔からの幼馴染みなんです」

「王子??」

「あんたは、クリスタルキャッスルの王子なんや。それすら覚えてないんか?」

美希は半ば呆れ顔で言った。

「はい。あの…そのクリスタルキャッスルってどこですか?」

「ここの北に位置しています。ですが、クリスタルマウンテンの噴火で全壊してしまいした」

「美希さん、いや美希」

「なんや」

「俺は、以前どこで何をしていたのですか?」

考え込む美希。そして、こう言った。

「あんたはミスティっていう悪者にさらわれたんや。それで父親のダークナイトの要塞を必死に破こうとしてた。それから、ダークナイトと戦っていたわけや」

「ダークナイト?」

「ジョブの名前です。彼は田所俊也です。あなたの父親にあたります」

「田所俊也??」

「そうです」

すると、漣は激しい頭痛に襲われる。

「いぐっ」

「大丈夫か?漣」

「何か引っ掛かるみたいなんです」

「そうなんか?」

「記憶の断片が蘇りそうで…」

(やはり、父親のことを聞くと無意識のうちに不快になるんか)

「思い出したいんか?」

「思い出したい…です。でも、思い出してはいけない気が、します」

「そうか…」

それっきり彼は何も話さなかった。すると透達が帰ってきた。

「お疲れ様です」

「あちこち探し回ったけど2人ともいなかった」

「そうですか…」

「彼の様子は?」

「相変わらずです。しかし、自分の父親の名前を聞いた途端、激しい頭痛を催したんです」

「やはり…記憶が消えても、本能が覚えているか」

「無理に思い出さないほうがいいな」

「とにかく、昼食にしよう」

透はそう言うと、缶詰を開けた。

「しばらくは缶詰と乾パンの生活になるが、我慢してくれ」

透がそう言うと、7人は頷いた。そして昼食をとった。美希と操は、ある場所に行った。

「良かった…」

「へ?」

「ここの湖だけは碧色のままだ」

そこは聖なる湖だった。すると、操は倒れている女性を発見した。彼女はフードを被ってて、誰だか分からなかった。とにかく、2人はその女性を運んで、洞窟に戻った。

「どうしたんだ?この人は」

「聖なる湖で倒れていた。酷く疲れているみたいだ」

「分かった。水筒の水でこの人の顔を綺麗にしてやりな」

美希は彼女のフードを外して、水筒の水で彼女の顔を洗った。

「ジュニーW世!?」

ルークは彼女の顔に驚愕する。

「おばちゃんなん?」

春代は寝息を立てている。

「間違いない。でもどうして聖なる湖にいたんだろう」

すると、漣がこう言った。

「僕とそっくりな顔してる…」

「当たり前だ。お前の母親だからな」

「母親??」

「徳川春代さんだ」

「春代さん?」

すると、美希はこう言った。

「いつも、漣はおばちゃんのこと、お母様って言ってるんよ」

「お母様?」

「そうや」

「なら彼女は、田所俊也と関係ありますか?」

美希は言葉が出なかった。

(本当のことを言えば、頭のいい漣のことやし絶対思い出すんや。でも、本人は思い出したくなさそうやったし…)

美希は言おうか言うまいか悩んでいた。

「美希…」

「なんや」

「それは、聞いてはいけないこと?」

漣がそう言うと美希はますます困った。

「まだ話すんは早い」

「そう?」

「うん」

すると、春代が起きた。

「おばちゃん大丈夫?」

「大丈夫よ。ここは?」

「白ユリの花畑の地下洞窟や。おばちゃんは聖なる湖で倒れてたんよ」

「…」

「なんであんなところにいたん?」

「そこに来たら、あの人に会える気がしたの。でも、冷静に考えたらこの世界にはいないもの…」

「おばちゃんにとっての思い出の場所なんやな」

「えぇ。あの人との秘密の場所なの。春になると銀色の桜が咲くのよ。それを2人で見ていたわ…」

「あの人って?」

「漣?漣なのね?」

「うっうん」

春代は漣を抱き締めた。

「良かった。無事で」

「うん。もう一回聞いていい?あの人って誰?」

「田所俊也よ。あなたの父親」

すると、漣はまた激しい頭痛に襲われる。

「やめて…。その人の名前を呼ばないで」

「どういうこと?」

「実は、漣は記憶喪失なんよ」

「なんですって!?」

「それで記憶には、ないものの自分の父親の名前を聞くと、潜在的に不快になるんよ。だから、極力言わんといたって」

「分かったわ。漣、ごめんなさい。もう言わないから」

「本当?」

「本当よ」

すると、頭痛が治まった。

「漣、私のこと覚えてる?」

「徳川春代さんですよね。それしか分からない…」

「そう…。じゃあ1つだけ言うわ。漣、すべてを思い出した時にあの人を恨まないでね」

「また、あの人の話!?」

「これを言うのは酷だと思うけど…」

「俺は聞きたくない!彼の話なんて」

漣の顔が怒りに満ちている。

「あなたの血には、あの人のも流れてるの」

「それは分かってる…」

「それに、彼は完全に闇に染まったの…。だから、私が始末しなきゃならない」

それを聞いた誰もが絶句した。

「彼との約束なの…。完全に闇に染まった時は私の手で彼の命を断つことを…」

「そんな…」

「自分の手で彼を殺めることは、どうしても避けたかった…。でも、彼を倒さなければ、この世界には未来はないの」

「おばちゃんやめて…」

「ごめんね…美希ちゃん」

「ジュニー女王…」

「ハルク、漣を最後まで頼んだわよ」

「えぇ…。てまさか、死ぬ気ですか!?」

「どちらにしても、死は避けられないわね」

「いつ行くのですか?」

「明日の夜に封印されし塔に行きます」

「待って。彼はそこにはいません。天空の城にいます」

「そう…。ルークみんなを頼んだわよ」

「えぇ。止めても無駄みたいだし」

「はい。これは私達の問題ですから」

そう言うと、春代は外に出た。

(この荒れた世界を元の世界に戻すには、この方法しかない…)

そして透がやってきた。

「ジュニー女王…」

「中川君よね。淳希の甥の」

「はい」

「ダークナイトは私がやるわ。だからミスティの方をお願いしたい」

「はい…。つまりそれは、彼を抹殺することですよね。でも、どうして彼を殺める方法しかなかったんですか?」

「それは…。彼が闇の世界の象徴であり、クリスタルキングダムの平和を乱したからよ。だから、国の主として許せないの…」

「愛していたのに?」

「愛していたのに?か…。愛で片付けられる程簡単なことじゃないの」

「長い間、会えなくて淋しかったのに?」

「えぇ…」

「俺は反対です」

その発言に目を見開く春代。
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