ー宿命ー
□つかの間の休日・操の過去
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「もしかして漣ですか!?」
透は頷く。
「白きクリスタルの意味は『純粋』。闇属性の『ダークナイト』が唯一弱点とする光属性が白きクリスタルに込められてる。でも…父と子の戦いなんてむごすぎる」
「蓮なら迷わず、やります。だって、自分の父親が世界で一番許せない人ですから」
「でも…」
「まず俺達は、徳川を助けるのが先だ」
「そうだな」
「しっかし、黄砂がきついな。明日は視界が良くなるのか?」
「分からない。でも休息は大切だ」
そう言うと、透はソファに座った。そして、淳希に電話した。
「もしもし、伯父さん」
「どうした?透」
「今どこにいる?」
「ヘリコプターの中だ。クリスタルキングダムの町はほとんど灰にまみれてしまった。それに国立図書館と城下町は、燃えて消えてしまった」
「なんだって…」
「お前らは、トニーズキングダムにいると聞いたから安心した。じゃあな」
透は電話を切った。すると、マリアは泣き崩れた。
「お父さん…」
「俺達が助かったのはルーク先生のおかげなんだ…」
「どうしてお父さんも逃げなかったのかしら…」
「先生は、死んでなんかいない。生きてる」
「でも…」
「信じられないなら、電話をかけろ」
操がそう言うと、マリアはルークに電話をかけた。
「もしもし、マリア?」
「良かったぁ」
ルークの声に安堵するマリア。
「どうしたんだよ」
「国立図書館が燃えて消えたって聞いたから、心配したの」
「あの時俺は、自分でテレポートしたの」
「今どこにいるの?」
すると、ルークが目の前に現われた。
「ここにいる」
そう言うと、マリアは電話を切ってルークに抱き付いた。
「良かったぁ。生きてたんだぁ」
「当たり前だろ?でも、心配かけて悪かったな」
「でも、もういい」
そう言うとマリアはルークから離れた。
「しかし、黄砂がきついな」
「しばらく、クリスタルキングダムには帰れないしな」
すると、外の視界が開けた。操は、王室にあった双眼鏡で周りを見渡した。
「なんて、むごい光景なんだ」
「国は、ほとんど壊滅状態だ。しかも要となるクリスタルキャッスルが無くなった今、クリスタルキングダムの名前は、消えたも同然だ」
操達は、絶句した。
「自然の力に対して人間は無力なんだな。それに今回で帰る家を失った人が、沢山できてしまった。しばらく、難民としてここにとどまざるえないだろう」
「でも、クリスタルはちゃんと避難させたから大丈夫や。白きクリスタルは漣君、昏きクリスタルは美希、そして、紅きクリスタルは俊也はんの手にある。クリスタルキングダムへの行く手は阻まれたけど、タワーズキングダムなら行ける」
「確かにな。しかし生半可なレベルでは、死を意味する。だから、明日からトニーズマウンテンで、モンスター退治を任務と課す。目標は、全モンスターを倒すこと。ただそれだけだ」
「はい」
すると、由希は話題を変えた。
「良かったらな、海行かへんか?黄砂もなくなったことやし、気分転換に」
「でも、モンスター達が潜んでいるかもしれません」
「そんときはそんときや。いざとなったら戦ってもらうで」
「えぇ」
そう言うと透達は海に行った。
「綺麗な色してる」
「本当だ」
美希とマリアはパラソルとテーブルを用意した。
「ここは、いつでも暑い気候ですから毎日観光地としてにぎわってます。でも、ここ最近モンスター達がやってきてからお客さんは、全然来なくなりました」
「確かにモンスターがいれば、誰だって行きたくないだろうよ」
その瞬間だった。海から半魚人モンスターが現われたのだ。
「なによもう!せっかくの休みの日なのに…」
「人間共め!殺してやる」
(どないしょ…。杖持ってきてへんけど)
美希がそう思ったと同時に、操は銃をモンスターに向けた。
「操!持ってきたのか」
「モンスターハンターの職業病が身に着いてんだよ。美希!なんでもいいからこの銃の玉に魔法をかけてくれ」
「了解」
美希は、『スパーク』を操の銃の玉にかけた。
「覚悟しろ!半魚人」
操は『ライジングショット』を放った。しかし、半魚人は思いの外素早くてよけてしまった。
「透!なんとかしてくれ」
「分かった」
透がそう言うと、『ストップ』を半魚人にかけた。しかし全く効かないのだ。
「愚かな人間供よ。俺の体には魔法耐性がついてるから、どんな魔法をかけたって無駄なんだよ!!」
そう言うと、6人めがけて水鉄砲を放った。操は銃を放って、水の塊を壊した。
「ほぅ。なかなかやるな。ねぇちゃんよぉ」
半魚人はそう言うと、操めがけて砂吹雪を放った。操はよけ切れずに、命中してしまった。ダメージ自体は、あまりなかったが致命的なことになってしまった。
「操?」
透が、操に駆け寄った。
「大丈夫か?操」
すると、操は衝撃的なことを言った。
「透、お前どこにいる?」
近くにいるはずの彼の姿が見えていないのだ。
「さっきの攻撃でやられたのか?」
「多分そうだ。どうすればいい?」
「目をこするな。じっとしろ」
「分かった」
操がそう言うと、透は他の4人に指示をした。
「とにかく、美希とマリアは俺達の剣を持ってくること。冴子とハルクはやつの気をむかせてくれ」
「分かりました」
そう言うと、美希とマリアは城に戻って透達の剣と自分達の杖をとりに行った。そして、冴子とハルクはなるべく長い時間を稼ぐために、モンスターの周りをチョコマカと動いた。
「えぇい!小賢しいわ!」
半魚人は、そう言うと津波を発生させた。しかし、冴子とハルクはよけてしまった。そして、美希達が戻ってきた。
「持ってきました」
そう言うと、美希は透達に各自の武器を渡した。
「行くぞ!冴子、ハルク」
透の合図で、3人は半魚人モンスターを三角形で囲むように動いた。そして、透のウィンクを合図に3人は、『高速移動』をし始めた。すると、モンスターは3人を目で追って行くうちに目を回してしまった。透はこう叫んだ。
「今だ!操」
しかし、操は動こうとしない。
「どうした?操」
透がそう言うと操は、こう言った。
「透達に当たるかもしれないと思うと、怖くて撃つことができない」
「お前なら出来る。操、モンスターを心眼で見るんだ。分かったか?」
「分かった」
操は、銃を構えた。そして、神経を極限まで研ぎ澄ました。すると、微かに何かが光っているのを感じる。
(向こうにいる暖かい光は、3人の光だな。それと対照的に邪悪な光を放っているのが、モンスターか)
そして、操は深呼吸した。次の瞬間半魚人モンスターが我に返って、操に向かって猛ダッシュしたのだ。
(近付いてくる)
「迷うな。操、撃て!!」
透の叫び声が操をつき動かした。操は、『ニードルショット』を高速で放った。すると半魚人モンスターは、操の体を乗りかかるように倒れた。操は、よけきれずに、半魚人モンスターの下敷きになった。透はすぐに、操の体からモンスターを放した。そして、操の体を強く揺らした。しかし、全く反応をしめさなかったのだ。とりあえず、美希が操に『ケアルガ』を唱えた。
「俺は、操を看るから、みんなは気にせずに遊んでいてくれ」
透がそう言うと、4人は何も無かったかのように、遊び始めた。そして、透は操の背中についた砂を綺麗に払って、トニーズキャッスルに向かった。そして、すぐに和室の鍵を借りて、操を置いた。透は敷布団を敷いて操を寝かせた。透は、操の手を握った。
(いつもいつもお前に危険な目ばかり遭わせてしまう…。守ってやろうと何度も何度も心に誓ったのに)
いつの間にか透は一筋の涙を流していた。彼は、激務のモンスター退治をしていたあの頃だって涙は出なかったのに、今は彼女を守ることが出来なかった言い様の無い悔しさで涙が自然と流してしまったのだ。
「ごめん…操…ごめん…だから目を覚まして…」
透は縋るような目で操を見た。しかし全く目を覚まさないのだ。すると、由希が入って来た。
「操どう?」
「まだ…」
「そうか。でも、操ならきっと目ぇ覚ますわ」
「どこにそんな根拠があるんですか!?」
「操ちゃんの瞳は、生命に執念を持つ瞳や。決して死なへん」
「そんなこと…保障できない」
「透、彼女のこと愛してるんやろ?そうやったら操のこと信じてあげてもえぇんとちゃう?」
「…そうですね」
「じゃあわいは、2人のお邪魔虫やし出るわな」
「ハル王、ありがとうございました」
「照れるわその言い方。由希で構わへんよ」
そう言うと由希は、和室から出た。すると、操が目を覚ましてこう言った。
「不安そうな顔をするな」
「見えるようになったみたいだな。でも誰だって…大切な人を失う時は、不安になる」
透がそう言うと、操は透の瞳についた涙を拭いた。
「透、悲しかったのか?」
「違う…。お前を守れなかったのが悔しくて泣いてた」
「そんなことない。お前が叫ばなかったら私は撃てなかった」
「操…」
「だからもうそんな悲しい顔するな。いつものように笑って」
「分かった」
透がそう言うと、涙を拭って笑った
。「透が笑うと私も優しい気持ちになれる。過去だって忘れられる気がするんだ」
「過去を忘れられる?」
透がそう言うと操は体を起こした。そして、いつになく曇った表情になる。
「私は、昔…一度だけ生身の人間を殺したことがある」
「モンスターじゃなくて?」
「あぁ…。未だにあの忌まわしき過去を思い出す時がある。お前だけには伝えておきたい。これを聞いて軽蔑しても構わない。嫌いになってくれても構わない。だけど、お前と共に生きるにはこれを隠すわけにはいかない。だから全部聞いてほしい」
「聞きたい…。お前をもっと知りたいから」
「分かった」
操はゆっくりと自分の過去を話した。
当時彼女は5才だった。
「お母さん」
「なーに?操」
「妹が欲しいなぁ」
「じゃあ操が、いい子にしてたら妹を作ってあげるからね」
「約束だからね」
操は、普段からとてもいい子だったが、この時はもっといい子になった。そして、操の母親は妊娠したのだ。
「お母さん〜お腹おっきいね。後、どれぐらいしたら赤ちゃんが、生まれてくるの?」
「あと6ヶ月はかかるわ。操もお姉さんになるのよ。お母さんの手伝いたくさんしてね」
「うん」
操は花のような笑顔で笑った。無事に操の母親は冴子を産んだ。幸せは永遠に続くものだと、操は幼心に思っていた。しかし、そんな幸せはすぐに終わりを告げてしまったのだ。
ある夏の日だった。操が保育園から帰った時、操の母親は誰かに銃殺されてしまったのだ。操は、必死で母親の体を揺らした。
「お母さん起きて。起きてよ〜」
しかし、操の母親の体はすでに冷たくなっていた。そして、彼女の体の下には、冴子がいた。操は冴子を抱いてこう言った。
「お母さん死んじゃったよぉ〜」
すると、黒ずくめの彼女の家に侵入した。彼は操に銃を向けた。
「殺されたくなかったら大人しくするんだな」
操は直感的は、自分の母親を殺した人物だと分かった。
(このおじさんがお母さんを殺したんだ)
操は、強盗犯を憎悪と憤怒の瞳で見た。
「なんだその瞳は!?」
「おじさんが、お母さんを殺したんでしょ?すぐに警察よぶよ」
男は思いの外動揺した。そして、銃の針金を抜いた。操は危険を感じたのか素早く彼から、体を離れた。
「そうとなれば、死んでもらおうか。お嬢ちゃん」
(私が死んだら、冴子は誰が見るの?そんなの嫌だ!!)
操はとっさに高く飛び上がって、強盗犯の銃を蹴り落とした。そして、無意識のうちに強盗犯の頭に銃を向けて放った。気がつくと強盗犯は、大量の血を流して死んでいたし、彼女にもその血が飛び散っていた。その時から、操は男言葉を使うようになり、最年少のガンナーとしてモンスターハンターを志望したのだ。
「あの時、私は自分が恐ろしくなって警察署へ自首しに行った。だけど誰も信じてくれなかった。5才の幼子に拳銃は扱えないからだと…。私は今でもあの時の行動が良かったことなのか、悪かったことなのかはっきり分からないのだ。軽蔑しただろ」
操はそう言うと、透は何も言わずに出ていった。操は自分に嘲笑した。
(そりゃそうだよな。軽蔑されるに決まってるよな。話した私が馬鹿だった)
彼女は、声を押し殺して泣いた。