ー宿命ー
□悪夢のはじまり
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「ハルク君は、『騎士』で花嶋さんは、『すっぴん』かぁ」
「何?『すっぴん』って」
「何にも属していないんだ。しかし、武器や防具やアクセサリーが自由に着けられるから利点もある。ところで王子と王女とマリアは?」
「俺は『剣士』で、美希は『具現化師』だよ。ちなみにマリアさんは『呪解魔導士』」
「ということは、攻撃型が3人で魔法型が2人になるな」
「何勝手にパーティー組んでんのや?」
「勝手じゃないさ。私達は必然的に同じパーティーになっている。いや、なったと言うべきかな」
「どういうことなん?」
「実は、ルーク先生から指令が降りていたのだ。まあパーティーに関してだが、今回の実技考査を参考にした。王子は、剣技で満点だし。ハルクもそれに近い。マリアは、呪解魔法で満点だし。王女は、具現化魔法が使うことが出来るからな」
「そうか。でも俺ジョブとしては、初心者なんだけど」
漣は冴子にカードを見せた。
「なーに。気にするな。これからいやでもレベルは上がる」
「やっぱり、他にもモンスターはいるってこと?」
「そうなるな。今日は2ヶ所だけで済んだが、いずれいろんな所で現われるだろう」
「そうなったらどうするん?5人だけやったら足りへんのとちゃう?」
「それは、大丈夫だ。他の生徒もパーティーを組んでいるからな」
「ふうん。じゃあ生徒会長は?」
「中川先輩は、多分姉貴と組んでいる。あそこのパーティーは、学校内では一番強いからな」
「レベルとか分かる?」
「姉貴は、『ガンマスター』でレベルは確か30だったな」
「すごいな」
「まぁ、1年生の時からやってたらしいからな」
「そんな長くやってるんだ」
「まあな」
すると、ハリルの墓を発見した。
「ハリル・トニー?」
「王子のご先祖様です」
「どんな人だったんだろうね」
「優しい心の持ち主だったらしいよ」
ハルクがそう言うと、冴子がこう言った。
「何話題から離れてんだよ!」
「王子が…」
「人のせいにすんなよ。このボンクラが」
「すいませんすいません」
何度も、頭を下げるハルク。
「悪いが、私は忙しいので行かせてもらう。行くぞ、ボンクラ!」
そう言うと、冴子はハルクを引っ張って行った。
「なんか、顔と口調が一致せぇへん人やったな」
「そうね。ハルク君は、彼女に尻に敷かれてるしね」
「ハルクってあんな人と付き合ってるんだ」
「まだ付き合ってるとは、言えないんじゃない?」
「うん…」
「にしても、学校にもモンスターが発生するなんて…。明らかにおかしいな」
「こんなこと前代未聞よ」
「そやね」
「マリアさん、ルーク先生に聞きに行ってくれないか?」
「いいわよ。早速行ってくるわ」
マリアはそう言うと、去って行った。漣は、ハリルの墓を掃除した。美希は、一輪の白ユリをちぎって墓の前に置いた。そして、静かに手を合わせた。
「ハリルさんがいた時も、こんなことあったのかな」
「親父が言うには、約100年前には、デーモン一族に支配されてたらしいねんよ」
「そうか…。いずれ誰かが支配するのかな」
「まだそうと決まったわけちゃうし、それを食い止めるんが私らの役目や」
「でもさ、あんまりよく分からないんだけど」
「花嶋さんが言ってた通り場数を踏めば、嫌でもわかるんとちゃう?」
「そうかな」
すると、漣は時計を見た。
「ごめん。帰らなくっちゃいけないみたい」
「しゃあないな。また明日な」
「うん」
漣はそう言うと、城に戻った。すると、ハルクが先に戻っていた。
「おかえりなさい。王子」
「花嶋さんは?」
「さっき帰った所です。全く俺への扱い方がなってない」
「惚れた弱みだろ?」
すると、ハルクの顔が真っ赤になった。
「俺は、あんな乱暴な女なんて…惚れるわけないでしょ!?」
「そんな赤い顔して言われても説得力ないよ。まあ、花嶋さんは、かなり美人だとは思うけどね」
「そんなこと言って、惚れたのは王子の方では?」
「俺は、パスだな。美人な人って苦手なの」
「じゃあどんなのがいいんだよ」
すると、漣は言葉が詰まった。
「それは…」
「マリアさんか?いや待てよ。マリアさんも冴子さんと違うタイプだけど、美人だしな。残るはあのじゃじゃ馬娘か」
「誰のことだよ」
すると、ハルクは漣の耳元でこう囁いた。
「戸川美希」
すると、漣は出来るだけ平静を装ってこう言った。
「美希はただの幼馴染みだ。恋愛感情なんか抱いたことは無い」
「ふうん。まあ王子は顔と精神年齢が一致してるから、恋愛沙汰なんてないんだろうな」
「それってお子様だって言いたいのか。俺にだってあるさ」
「誰に?」
「それは…見れば分かる」
すると、ハルクは漣に近付いた。
「まさか王子の好きな人は、俺ですか?」
すると、漣は冷たい目をしてこう言った。
「どうしたら、そんな発想が出てくるんだよ?それに男に恋愛感情抱くほど、俺はアブノーマルじゃない。しかも、お前なんかに恋愛感情抱く奴の気持ちが分からん」
「それはないですよ。王子」
すると、春代がやってきた。
「漣、おかえり。いままで何してたの?」少し怒り口調だ。ハルクは慌ててこう言った。
「美希王女から、緊急の話があって、王子は白ユリの…」
「あなたはいいから黙って。とにかく漣、遅くなった理由を言いなさい」
「美希から白ユリの花畑に、モンスターが発生したと聞いて駆け付けた」
「それ本当?」
「はい。この散ったユリの花びらが証拠だよ」
漣は、花びらを見せた。
「そう。あなたはまだジョブを受け取ってから、間もない。今日は無事に済んだから良かったけど…」
「ごめんなさい」
「分かればいいのよ。漣、渡したいものがあるの」
すると、春代は首飾りを漣に渡した。
「これは?」
「この世界を司るクリスタルの内の1つよ。もう1つは、トニーズキャッスルの王様が持っています。最後の1つは分からないけど…。とにかく、3つのクリスタルが集まれば、敵の根源とも言えるタワーズキングダムへ行けるわ」
「お母様、どこでそんな情報を?」
「トニーズキャッスルの王様から、聞いたわ。まだそこに行くのは早い。せめてジョブレベルを30以上にしてから、行きなさい」
「分かった」
漣は首にクリスタルの首飾りをかけた。
「お母様…」
「何?」
「さっきは、どうして悲しい顔をしてたの?」
「それは、昔のことを思い出したからよ。もう13年も経つのにね」
春代はそう言うと、苦笑した。
「今でも、お父様のことを愛してるの?」
「えぇ。あなたと同じように愛してるわ」
「でも…いなくなった人を愛すること程、悲しくて空しくならないの?決して届かない想いを抱き続けるなんて」
すると、春代は一筋の涙を流す。それを見た漣は狼狽する。
「ごめん、言い過ぎた。まさか、そんなに傷つくなんて思ってなかったから」
すると、春代は漣に近付いた。
「なんか、その言葉聞くと嫌でも、あの人を思い出すのよね。あの人も、樹里おばあちゃんがリリアンおじいちゃんを想っていたことに対して、同じことを言ってたわ。本当に漣は俊也に似ているわ」
「お父様も、言ってたの?それで、お母様はなんて返したの」
春代は漣の手を両手で握る。
「忘れたわ。でも、私はこう思うの。自分がその人を忘れない限り、自分の中で生き続けるわ」
漣は冷たい瞳を向ける。
「それは、お母様の独り善がりだよ。だっていないのには、変わりないんだから」
すると、春代は崩れ落ちた。漣は、それでも冷たい瞳をしていた。
「そうやって、現実に背いて生きてきたの?いい加減目を覚ませば?」
漣の問い掛けに春代は何も言えなかった。すると、純平がやってきた。
「姉さん?」
春代は俯いたまま何も言わない。
「漣、姉さんに何か言ったのか」
しかし、漣も言わないのだ。
「黙ってないで教えてよ。2人とも」
すると、春代がこう言った。
「いなくなった人を想うのは、空しくて悲しいの?それと、自分の中で生き続けていると思うのは、独り善がり?」
「漣がそう言ったのか?」
漣は、黙って頷いた。
「そうか。漣はまだそういう感情を知らないから言えるんだ。きっと失った時に始めて、姉さんの気持ちが分かるだろう」
純平は、漣を怒ることはしなかった。彼を怒ったとしても、彼が理解出来ないと思ったからだ。
「俺には、お母様の気持ちが分からない。いなくなった人を愛することほど報われないことはないのに…」
漣は、吐き捨てるように言った後、自分の部屋に行った。春代は何も言わなかった。
「姉さん、大丈夫?」
「大丈夫なわけない…。そうやって淋しい気持ちを紛らしてきたのに。あの子の口からはっきりと現実に背いて生きているって言われて…。そうかもしれなくて、何も言えなかった」
「姉さん…。俺もそうだと思う。もう13年も経つのに」
目を見開いた後、諦めたように笑う春代。
「純平もそう思うんだね」
「俊也はいないのに…。どうして、それを受け止めないか疑問にさえ思ったよ。現実を受け入れるのは、辛いかもしれないけど、向き合うことに逃げた姉さんは卑怯だとも思う」
「私は…」
「でも俊也が羨ましいよ。そこまでして、想ってもらえてるなんて。早く帰ってきてくれたらいいのに」
「そしたら手放しで抱きしめてあげたい」
純平はゆっくりと頷いてこう言った。「今漣は姉さんの気持ちが分からないと思う。でも大切な人が出来たら、分かるだろう」
「なら、いいんだけどね」
春代と純平は、バルコニーに出た。
「樹里おばあちゃんのように、花を育てたら、もっとあの人のことが想えたかな」
「さあね。まあ、人それぞれだと思うけど」
春代は、パンジーを眺めた。
「今は、誰が育ててるの?」
「漣だよ。なんだか気に入ったみたいで」
「漣が?」
「休憩がてら見に行ったら、漣が水をやってた」
「意外ね」
「だろ?でも、その時の顔は、優しい笑顔だったよ」
「私の前でも、めったに笑わないのに…」
「まぁ、性格が俊也似だからね」
「そうね」
自然と2人は、笑った。すると、漣がやってきた。
「何してるの?」
「漣の話してたの」
「何を話してたの?」
「漣のめったに見せない笑顔について」
純平は、意地悪く笑う。
「あの時、見たんでしょ?」
「えぇ。ばっちりと。でも、どうしてその時だけ微笑むんだ?」
「そんなの…。ほっといてよ!」
「まさか、誰かに贈るとか…」
「そんなんじゃない」
「恋か?」
「誰に?」
「5月生まれの女の子に。と言うことは、トニーズキャッスルの王女に恋してるのか」
「ばっ馬鹿。美希はだだの幼馴染みだよ」
「とか言って、キスぐらいはしたんじゃないの?最近は進んでるみたいだし」
純平の顔がますます意地悪くなっていく。
「まだだし。付き合ってもない。それに、あいつは俺のこと『冷たい』って言うから、むしろ嫌われてる」
すると、純平は漣の肩をポンと叩いてこう言った。
「そういう不器用な所も、本当お前の父親に、にそっくりだな」
「煩いっ!!」
漣は、声を荒げて自分の部屋に戻った。
「からかいすぎよ。純平」
「だって、いつもの漣と違うから」
「たくっ。大人気ないんだから」
「ははは。姉さんはどう思う?」
「確かに漣は恋してるけど…。そういう素振りは見せないな」
「必死に隠してるのかもな」
「思春期って難しいよね」
「まあな」
王室に戻ると、由希が来ていた。心なしか焦っているように見える。
「どうしました?ハルW世」
「実は、美希が行方不明なんやわ」
「なんですって!?」
「マリアさんから聞いたら、漣君と一緒にいたらしんやけど」
「漣は、何か言ってましたか?」
「いいえ。なんも」
「そう、漣を呼ぶわ」
春代は、漣を呼んで王室に連れて来た。
「美希ちゃんが行方不明なんだけど、心あたりない?」
「行方不明!?確か、2人でいましたけど別れた後は分かりません」
「そうか…。美希が他に行きそうなとこない?」
「国立図書館はもう行きましたし…」
「そうか」
「もしかしたら、学校に行ったかもしれません」
「なんでや?」
「彼女のことです。きっとモンスターの根源を探しに行ったんでしょ」
「分かった。漣君もついてきて」
頷くと由希と漣は、聖クリスタルスクールに急いで行った。すると、美希がいた。
「美希どしたんや」
「お父様?」
「はあ?いつもは『親父』とか『おとん』のくせにどしたん」』
「だって私、王家の娘ですもの当たり前でしょ?」
そんな美希に漣は、不審に思った。
(普段より、女らしい。明らかに操られてるか、誰かが変装してるかだ)
「あら、レン王子じゃありませんか。どうしましたの?こんなところで」
すると漣は剣を構えた。