ー龍達の宴ー
□―Another story いつか還る場所―
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黒龍が消えた途端、俺の役目は終わった。
そしてジュニーU世も天空へ帰ってしまった。
俺は、俺達が生きた世代はみないなくなった。
俊也も姉さんもいなくなった。
この世界で、俺は生きれる勇気なんてなかった。
気がつくと、白百合の花畑に戻っていた。
そこには、俊也や姉さんの眠る墓がある。俺は死に遅れたのだろうか。
本当に一人になるなんて夢にも思わなかった。だが、実際一人になるとこの世界は広すぎてやりきれなくなる。
俺は、彼らの墓の前で座り込んだ。
どうして俺はこの時代に何の疑いもなく行ってしまったのだろう。
最後にみたあいつの涙が忘れられない。きっと、もう会えないことを暗示していたのだろう。
だが幸い俺は生きている。俊也と姉さんの命と代償に生かされてる。
そういえばダイヤモンド返してなかった。俺はとっさにダイヤモンドを姉さんの墓前に置いた。
途端に空間が歪んで見えた。もう一度見渡すとそこは、浜辺だった。
俺は帰る宛もなく、浜辺を歩いていた。ただ寂しいという気持ちを押し込めて。
なのに歩いても歩いても、寂しさは紛れない。そして、俺は疲労困憊で砂浜に倒れた。
俺も死ぬのかな
そうぼんやりと考えていた。俊也達がいた1000年後の時代、俺はほとんど眠れなかった。
俊也や姉さんの死が誰よりも受け入れることが出来ず、いつかしたら帰ってくるんじゃないかって思い、寝る間さえ待ち続けた。
けど、もう彼らはいないのだ。
そこで、意識は途切れた。
気がついたのは、夜になってからだった。
死に切れなかったのかな…。
俺は辺りを見渡した。すると壁に掛けられたカレンダーが見えた。
『20××年8月3日』
わが目を疑った。自分のテレポーションは片道切符だったはずだ。もう一度カレンダーを見た。
だがやはり21世紀なのだ。
俺は途方にくれた。気を失う前は確か砂浜にいたはずなのに。いったい誰が、俺をここまで運んできたのだろうか。
すると、額に冷たいものを当てられた。
「っ!?」
「あんた、こんな真夏かつ厚着で砂浜で寝るアホおるか。」
「え…え?」
どうやら日射病で倒れたらしいのだ。そういえば白百合の花畑にいた時も、頭がクラクラしていたが。
「純平あんた、帰ってきたんやったらはよ言って。心配したで〜」
俺は目を見開いた。そして目が合った。
「でも良かったわ。あんたが戻ってきて」
なんとそこには、俺の妻がいたのだ。ということは、妻が俺を運んだってこと?
けど、俺を助けてなんのためになるの?
「良くないよ」
妻は、いや『春代』は複雑な顔をした。
「良くないって、なんかあったんか?」
俺は答える前に涙があふれた。『春代』は俺を抱き締めた。
「俊也と姉さんがあの時代で亡くなったっ」
彼女は絶句した。
「黒龍戦で2人は一緒に亡くなったんだ。俺が来た時はもう遅かった」
「あんたのせいやない…」
「でも、もっと早くに着けば、最悪の事態は免れたはず…」
「だからって、自分を責めても、俊也らは戻らん」
「………」
「それに俊也らは、あんたのことなんか責めへん」
涙が止まらない。どうして『春代』の前だと、素の脆い自分が出てしまうのだろう。
「どうして俺だけが生き残ったのかな…」
その言葉を聞いた途端、彼女はよりキツく俺を抱き締めた。
「どうして俺は生きてるの?」
「そんなん…そんなん簡単やん。私があんたを必要としてるからやろ!!」
「でも、俺はたくさんの嘘を吐いて、俊也の背中に傷を着けたのも俺。なのになんでおとがめなしなの?おかしいでしょ?」
すると『春代』は一端放して、俺の肩を持った。
「あんたが俊也止めへんかったら、俊也はあのまま闇に染まって良心さえ奪われてた。だから悪くない」
「じゃあどうして『偽善者』なんて言ったの?あれからずっと悩んでた…」
「あの頃は何も知らんかった。純平の気持ちも俊也の気持ちも…」
「ねぇ…どうして、俺を助けたの?」
本当はこれが聞きたかった。彼女は苦笑した。
「助けて欲しくなかったんか?」
「………」
「そりゃ、あんたの妻やし、笑顔で待つと約束したからやろ?なんでそない死にたがるような言葉ばかり言うん?」
「だって…俺なんて生きていても意味がないから」
「そんなことないで?あんたがおったから、私待てたんや。それに、淳希もあんたの帰り待ってた」
「淳希が」
「そうだよ。何辛気臭い話してんだよ」
「淳希!?」
すると、淳希が俺のそばにやってきた。
「おかえり純平」
「え…えっと…」
状況を把握できずにいた俺に、淳希が説明した。
「浜辺で倒れてるって『春代』さんが言ったから、運んだまでさ。まさか純平だとは思わなかったけどな」
「淳希…」
「春代と俊也の件は責めるなって言っただろ?あいつらはあいつらで判断したことなんだから」
「…あぁ」
「それに、お前には伴侶もいるんだし、簡単に死んだら一生恨まれるぞ」
冗談まじりで言う、淳希の言葉に救われた。
「ありがとう淳希…」
「俺達は俺達でこの時代に生きるんだよ」
「うん」
すると『春代』が、あるものを渡した。
「これ、大切なダイヤの指輪やろ?」
まさかあの時の?
「う…うん」
「壊れてしもたな…」
もしかしたらこの指輪が俺を元の世界に戻したのかもしれない。
「結局は俊也達に助けられたのかもな」
「やろな」
突然淳希は俺の左腕を見た。
「お前、印がないぞ」
「多分そんな気がした」「何か禁じ手使ったとか?」
「あぁジョイントだよ」
「やっぱり。じゃあ俊也としたのか」
「うん」
あの時、俊也は確かにこう言った。
『平和になったら、元の世界へ戻れ』
無意識のうちに、俺達は約束を交わしていた。
「まあ印がなくなったところで、ジパングではなんの意味もないけどな」
「うん」
淳希はしばらくして、帰ってしまった。
「『春代』」
「どうしたん?純平」
「俺に帰る場所があって良かったよ」
「私もや。あんた帰ってこーへんかったら、どないしよかって思った」
「『春代』」
「ん?」
「待ってくれてありがとう。ただいま」
「おかえり純平」
俺達はキツく抱き締め合った。
もう彼女を離さないと心に決めて、俺はキツく抱き締めた。
俺達の帰る場所は、2人の居場所だったのだと、改めて実感した。
姉さんと俊也が、託してくれたダイヤモンドだけが、俺達を照らしていた。