ー龍達の宴ー

□ー黒龍の過去ー
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レバインは和純の名前を呼んだ。

だが、彼の声に返事がない。

(まさか、私がいない間に、黒龍の手によって殺められたのか?)

それは違った。

彼は生きている。だが、黒龍の翼の中で眠っていたのだ。

「黒龍、貴様!!和純に何をした」
「残念だが和純は、とっくに我が一族に入った」
「なんだって!?悪い冗談はよせ」
「こいつの意識はすでに私の中にある」
「…意識交信か?」
「さよう。同じデーモン族だという証だからな」
「ならば、その意識ごと分離させてやる」

レバインは剣を構えた

すると、黒龍は自分の爪を和純の胸に当てた。

「おっと、もしお前がそれを実行しようというものならば、こいつの命は無い。それでもいいのかな?」

レバインは構えた剣を下ろし、下唇を噛んだ。

「心配しなくとも、すでにこの世界は我が手中にある。そして、今日からこの国は正式にデーモンキングダムとなるのだ。ふはははははは」

黒龍の高笑いだけが響く。

レバインは、ただ自分の無力さを嘆いた。








一方、和純はデーモンの意識世界にいた。

そう、黒龍が彼にとどめを刺すその直前に、ジュニーが教えたあの魔法を唱えたのだ。

つまり和純のいる世界は、黒龍つまりデーモンの若かりし頃の世界だ。

そこには、今と違い平和で青空が見える。

「ハリルちゃん!!」

ある町にいた1人の青年が少女の名前を呼ぶ。

(ハリルちゃん?まさか彼女がいた過去??)

少女は青年の方に振り向いて、可愛い笑顔を浮かべた。

「どうしたの?サピエルお兄さん」

(サピエル?まさか、この青年がサピエル!?)

和純がみた青年は、いかにも俊也を若返らせた姿そのものだ。

だが俊也と明らかに違うとすぐに分かった。それは瞳の色が碧ではなく、漆黒だったからだ。


(だから、あの時じいちゃんに似てるって思ったんだ)

すると、ハリルは誰かを呼んだ。

「ハルー!!サピエルお兄さんが、一緒に遊んでくれるって」
「本当?嬉しい!!」

(ハル…?ということは、黒龍はトニー族と仲が良かったのか?)

和純は、3人の跡を追った。

しかし、彼等はすぐに消えてしまった。

(いったいなんなんだ?この世界は)


和純が途方にくれると、突風が吹いた。

その風とともに風景がガラリと変わった。

「ハリルちゃん」

この声はまたしても、あの青年だ。いやこの声色だと、もう壮年期に入ったと考えられる。

「どうかなされたんですか?サピエルさん」

ハリルと呼ばれた彼女も、少女から女性へと変貌している。

「大事な話がある。聞いてほしい」
「大事な話なの?」
「ああ、すごく大事な話だよ」


2人は、寝室に入った。

「ハリルちゃん。いやハリル。俺はあんたが大好きだ」
「突然なんですか?冗談はよして下さいよ」
「冗談なんかじゃない。幽閉された俺を助けてくれたのもあんた。そして、蔑まれた俺を普通の人間としてくれたのもあんた。だからこそ俺はハリルちゃんが好きなんだ。年の差なんて関係ない。だから結婚を前提に付き合ってくれ」

彼は至って真剣だった。

だが、ハリルにはすでに恋人がいた。当然、答えはNOだった。

「ごめんなさい。サピエルさんの気持ちはすごく嬉しいです。でも私は、愛を交わした人がいるんです」
「俺より先に関係をもってしまったのか?」
「はい」

それを聞いたデーモンの顔が豹変した。

そして、彼女を無理矢理押し倒してしまった。

「やめて!!サピエルさん!!」
「誰だよ!!誰がハリルちゃんと…」
「クリスタルキャッスルのジュニー王です」
「なんだと…。まだ20にもならぬあの若僧だと!!」

彼はハリルをブンブン振り回す。

「やめてください。今日のサピエルさん変ですよ?」
「変なんかじゃない!!ずっとずっと、抱えてた想いが…なんであの若僧なんかに!!」
「離してください!!」

ハリルはデーモンを思いっきり突き飛ばした。
彼女は乱れた服を調えた。

「あの方は、私を本当に愛して下さってます。それに私も彼を王様としてではなく、一人の男性として愛してるのです。だから貴方の気持ちには応えることはできません。本当にごめんなさい」
「俺はそんな返事を望んでいない!!」

デーモンの瞳から涙があふれた。

「じゃあ何故、優しくした。何故…何故だ!!」
「それは、お父様がどんな人であっても慈悲の心を忘れてはならないと教えて下さったからです。他意はありません」
「ならば、力ずくでも!!」

デーモンは、ハリルをもう一度押し倒して、衣服を破こうとした。

その瞬間、ハリルは胸から短剣を取り出して、彼の胸をを切り付けた。

「…なんで?」

ハリルも泣きながら答えた。

「ごめんなさい。あなたの正体を見てしまったの。だから彼に相談したら、『君に何かの危険があれば、迷わずこの短剣を使え』って…。本当はこんなことしたくなかった!!」
「分かってたさいずれは。でも、あんたの優しさに縋りたかった。居場所のなかった俺には、あんたが唯一の救いだった。なのに…全部あいつが持っていった!!」

デーモンは、ハリルを抱き締めた。

「だから、許せない。今度会う時は、俺とハリルちゃんは敵同士だ。だからもう会わないでいよう」
「………」
「さようなら。俺の小さな天使…」

デーモンはそう言うと、寝室から去っていった。

(彼が、ジュニーさんを憎んでいたのは、こういうことだったのか。でも、なんでそれだけで世界を闇に葬る思考が出て来てしまったのだろう)

和純は、デーモンの血の跡を辿った。


すると、彼はホーリーウエディングの下で横たわっていた。

「はははは。ついに俺も死ぬのか。失恋した挙げ句に刺された。なんで…なんで…俺は報われなかった?あの子に精一杯優しくした。なのになんで…」

彼は涙を浮かべた。

「結局俺は、1人で誰にも看取られずに死ぬのかな…。ならば、この世界を道連れにしてやる。例え、俺が死んでしまったとしても」

すると、彼の体は闇トランス独特な黒いオーラに包まれた。

―ならば、その力を貸そう。誰にも愛されず、誰にも愛せないお前へ―

和純は衝撃的事実を目の当たりにした。

青空だった天空か、一気に闇化した。

そして、デーモンの体は完全に闇に染まった。

―今日からお前はデーモン・サピエルだ。サピエル・スタンスの名前は葬り去った―

闇の雲にある声は、天空が青空になると、消えてしまった。


(これが俗に言う、闇への契約なのか…)

和純はただ驚愕していた。


「ふははははは!!最強にして最凶の闇の力をついに手に入れたぞ!これでジュニーなど捻りつぶしてやるわ!!」

デーモンの不気味と言える高らかな笑いはホール中響いていた。


和純がデーモンに近付こうとした時、また突風が吹いた。

すると今度は城の中だった。

ハリルは、要塞カプセルに封印されている。

その前にいる銀髪の青年がハリルにこう言った。

「どうして、そこまで彼を想えるのですか?」

ハリルは答えない。

「彼は必ずあなたを助けにここへ来るでしょう。だけど、私の手にかかれば赤子同然ですよ」

すると、デーモンがやってきた。

「デーモン様」
「うむ。シノンピー、あいつらはいまどこまで来ている?」
「ポカポカマウンテンのふもとです。ここまで来るのに後1週間は掛かるでしょう」
「そうかそうか。にしても、ハリルちゃんも諦めの悪い女だ。あの若僧なぞ、俺様には到底敵わないというのに」
「そうかしら?」
「何?」

ハリルは要塞カプセルの中で目を開けてハッキリと次のことを述べた。

「確かに、彼は貴方に劣るかもしれない。だけど、彼には仲間もいる。また世界と私を救うという重大な使命を受けている。だから背負うものは、貴方とは度が違うし、彼ならきっとやるわ」
「ほほう。随分と彼を過大評価してるのだな」
「過大評価?それはここに来てから言ってもらおうじゃないの」

デーモンは心底悔しそうな顔をした。隣りにいたシノンピーは、そんなハリルを見てこう言った。

「貴女が信じたところで、彼がここに来ても、私が仕留める。そして彼の亡骸を持ってきますよ」
「それはどうかしら?彼はそんなヤワな人じゃない」
「そう言ってられるのも今のうちです」
「そう」

ハリルはそう言うと、それ以上何も言わずに、目を閉じた。


その後、ジュニーU世はハリルを助けた。だがハリルの人間としての寿命はほとんどないことを知った。

デーモン戦の時、ハリルは死んでしまった。

その時、彼は微かにハリルに希望を抱いた。だが、彼女は徳川春樹にこう言ったのだ。

『彼が死ぬまで、頼んだわよ』

だが、本当の意味を和純は一瞬で分かってしまったのだ。

それは、ジュニーU世が死んだら、返してほしいという意味だ。ハリルはそこまでジュニーを愛していた。

またジュニーも、ハリルを想っていたのだ。

傍で見ていた春樹に、和純は同情してしまった。

(彼女は、単なる代わりでしかなかったんだ。だからこそ、デーモンもジュニーを許せなかったんだ)

その後、デーモンは悪霊となり、ことあるごとにクリスタルワールドを破滅に導いたのだ。

(待てよ。じゃあこの僕何故潜在意識の中に入れた?まさか僕の中にも憎しみや怒りがあったから?)

和純は自問自答した。

すると人間の姿をしたデーモンが和純に近付いた。

「俺の過去を知って何がしたい?」
「理由が知りたいんです。なんで一人の女性のためにこんなことをしたのか…」

デーモンは、和純をじっと見た。

「お前の祖父さん…」
「俊也じいちゃん?」
「奴も、俺様と同じ気持ちになったことがある」
「ジュニーさんに憎しみを抱いたこと?」
「そればかりじゃない。人よりずば抜けて能力を持つがために、彼は常に孤独と戦っていた。そう俺様も元々、強大な力を持つゆえに幽閉された。その時幽閉したのがジュニーT世。そして、不義の子を幽閉したのがジュニーU世…」
「違う!ジュニーさんは、ハリルさんの娘だからこそ、大事にしたんだよ。確かに方法は間違ったかもしれない。でも、彼はマリアさんを愛していた」
「ふざけるな!!ハリルちゃんの子であるマリアは、幽閉され蔑まれ、終いに監守のルーカスと結婚させられたのだぞ!!」

すると、女性の霊が浮かんだ。

「違います。私は彼を愛していました。監守だったけど、ルーカスを愛してました」
「誰だお前は!!」
「私はジュニーU世のもう1人の娘。マリア・ハンスです」
「何故今頃出てきた!!」
「それは貴方が潜在的に私の記憶があるからです。それにもうこの子達の世界を壊すのはやめてください」
「断る!!」

デーモンは、マリアの霊をインサイトだけで消した。

「酷い!!」
「酷いだと?俺様が過去にされた仕打ちに比べれば、なんともないわ!!」

すると、俊也の霊が浮かんだ。

「じいちゃん!!」
「ついに使ってしまったんだな」
「………」
「和純。お前もやはり闇に染まってしまったのか?」
「違う!僕は知りたかっただけなんだ…」

必死に否定する和純。

(僕は闇なんか染まらない!!)

俊也は、苦笑した。

「優しすぎて、人の気持ちに押しつぶされて和純が和純じゃなくなると、俺は悲しい」
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