ー龍達の宴ー

□−受け継がれていく奥義−
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一方、ジュニーと和純はあの決闘室ではなく、屋上にいた。

「和純」
「はい」
「俊也や春代が死んで、辛いか?」
「え?」


ジュニーは和純の顔を覗き込んだ。

和純は慌ててジュニーから離れた。

「すまない…」
「いえ」
「俊也達が亡くなり俺だけがまた生き残ってしまった…」

2人の髪が、風によって揺れる。


和純はジュニーの顔を見た。

「ジュニーさんこそ辛い顔してる…」
「そうか…」
「どうして、悲しいのに涙が出ないんだろう」

和純が言った言葉にジュニーは、はっとした。

それはかつて俊也が、ジュニーに投げ掛けた言葉だったからだ。

「過去に俊也も同じようなことを私に漏らしてたな」
「じいちゃんも?」
「悲しいときほど涙は出ない。これは理にかなってる…。私も、悲しいのに現に今、涙が出なかった」
「ジュニーさん、どうしたらこの悲しみに涙が出るんでしょうか…」


ジュニーは突然の問い掛けに戸惑った。

しかし、出来るだけ和純の前では冷静になって答えた。

「黒龍が完全消滅して、何もかもが終わったら、涙が流れてるだろうね」
「その時はジュニーさんも僕と一緒に泣いてくれますか?」


ジュニーに承認してもらえると思って微かな期待を抱いた和純。

しかし返ってきたジュニーの言葉はあまりにも残酷だった。

「できない。私も黒龍が死ねば、死ぬ運命にあるのだから」
「どうして!?嘘ですよね?」


和純はその言葉を否定してほしいがために、ジュニーにすがりついた。

「私は平和になるまでしか生きられない身なんだ。そう、ハリルにも春樹にも約束した。だから全てが終われば、私も消える運命にある」
「そんな…」
「だから、お前には私の全てを受け継いでほしい」
「できません。なんで僕なんかに頼むんですか?お父さんだっているのに…なんで」
「和純だから」
「僕だから?」
「和純が最後に希望をくれたから」
「希望?」


ジュニーは和純を一旦離してから彼の両腕を掴んだ。

「和純は最期まで生きろとこの私に言ってくれた。だから、最期に私の力を授けたい。真の力を」
「真の力?」
「あぁ。ただし並大抵な努力では、その力を得ることは不可能だ。時には死ぬ可能性もある」
「死ぬ可能性!?」

和純の目は、一気に見開かれた。

「力が強大すぎて、体の許容範囲を超えた場合、自らの体を滅ぼす恐れがある。だから非常にリスクのかかることをお前に強いるのだ」
「そんな危険な技を、こともあろうかこの僕に受け継がせるんですか?」
「お前が、『聖』の力を持ってるからだ。だから、お前に受け継いでもらいたい」

和純は、目を閉じた。

「和純」
「はい」
「私の最後の特訓についてこれるか?」
「………」
「目を開けろ」

和純はうっすら目を開けた。

「もっとはっきり私を見ろ」

和純は、ジュニーを見た。

そこには今まで見たことのない威圧感で包まれたジュニーがいた。

そう、かつてさかのぼること1100年前、彼がこのクリスタルキャッスルに君主として生きたあのキングとして彼の威厳が和純を萎縮させたのだ。


「俊也は天空ボケしたと言っていたが、この若い姿なら、本来の力が出せる」
「でもあの時は…」
「あの時はあの時だ。もう二度同じ失敗は繰り返さない。そして、いまの俺なら全盛期の俊也をも凌ぐ」

和純はその言葉に驚愕した。

ジュニーのオーラが急激に青白く光り出した。


「今日からここがお前と俺のデュエルの場所だ。死ぬ気で掛かってこい!!」
「はい!!」


ジュニーはダイヤモンドソードを構えた。


和純は、クリスタルソードを構えた。


2人はデュエルの合図もせずにいきなり相手を切り掛かった。


するとすぐにジュニーが和純の剣を自分の剣で真っ二つにした。


和純はあまりの速さに、ただ唖然としている。

ジュニーは王としての余裕の笑みを和純に向けた。

「どうした?続けないのか?」
「だってソードが…」
「剣を離さない限り、戦いは終わらない。もっと言えばお互いが死なない限りこのデスマッチは終止符を永遠に打たないのだ」


和純は立ち上がって、短くなった剣を構えた。


ジュニーは容赦なく和純の剣を弾こうとする。

和純はなんとか弾かれないように短くなった剣で防御している。

「甘いなっ。防御ばかりしていては勝機など見えんぞ」
「くっ…」


和純は割れた剣の切れ端を利き手と反対の手に持った。

つまり二刀流で、ジュニーの攻撃に応戦するつもりだ。


和純は、精神を落ち着かせるため精神統一しようとした。

しかしジュニーが彼の目の前に現れた。

「精神統一してる暇があれば、攻撃してこい!!」
「ならば、させてもらいます」


和純の言葉が終わるまでに、彼は分身をした。

「なるほど、分身で攻撃をかわすのか。ならば技を使わせてもらう」

ジュニーは、目を閉じて、呪文を唱えた。

『無効化』

この間、僅か0.3秒しかかかってない。

しかもその間に和純の分身は消えてしまった。

「魔法を使うなんて…」
「反則だと言いたいか?しかしこのルールに魔法を使うななどとは一行も書かれてない」


すると和純は両手を思いっきり下ろした。

すると辺りの重力が通常の2倍の重さになった。

しかし相手側のジュニーは全く効いていない。

「残念だが、重力の耐性は付いている。それにその技中途半端に使うと身を滅ぼすだけだ」
「まさかじいちゃんもそれで…」
「それだけとは言わない。だが、無闇にその技を頼るのはよせ」


するとジュニーの剣が和純の喉元に向けられた。

しかも、和純は壁にまで追いやられてしまい動くことも封じられた。

つまり絶体絶命の危機にさらされたわけだ。

「和純、抵抗しないのか?このまま死ぬか?」
「………」
「ならば遠慮なく斬るぞ」

ジュニーは和純の喉元に剣を徐々に差し込んだ。

和純は不敵に笑った。


「悪足掻きはよせ」
「悪足掻き?何がですか?」
「痛くないのか」
「痛い?確かに痛いですよ。どうしたんです、あなたぐらいの方なら僕など、簡単に刺せるはずでしょ?」

ジュニーは力を加えた。

しかし奥に進まないのだ。


なんと、和純は自分の剣を持ちながら、ジュニーの剣だけをいともたやすく、折ったのだ。


そして、和純は自分の喉元にある血を舐めてから、ジュニーに攻撃を仕掛けたのだ。


しかしジュニーは和純の行動パターンが手にとるように分かるので、すぐに見切ってしまうのだ。

お互いは使い物にならなくなった剣を『瞬間錬成』したのだ。

「流石私の血を引く者だな」
「…」

すると和純は、闇トランスをし始めたのだ。

彼の体が黒い光で包まれる。


ジュニーは、かつて俊也とデュエルした時を思い出した。


(確か、俊也もデュエル時に闇トランスを発動したことがあった)

彼は急いで、和純のトランスを解こうとした。


しかし、和純のオーラは小さくなるどころかどんどん大きくなるのだ。

「ふふふふ…」

和純の人格までもが闇人格へ変貌していく。

「ふふふふ…」
「和純!!よせ!!」


ジュニーの言葉はもはや届かない。

『ふははははは!!』


彼は盛大に笑い出した。

『ジュニーさん、俺に死ぬ気で掛かってこいって言いましたね』
「確かにそう言った」
『なら死んでもらいましょうか?』
「っ…!?」


和純は瞬時にジュニーの背後に現れた。

そしてジュニーの首筋に、短剣を当てた。

「和純」
『………』
「それが本来のお前の姿なのか?」
『えぇ。気弱な青年を演じるのも飽きましたしね』
「なにがお前をそうさせた」
『知らないんですか?俺は、あなたに初めて会った日瀕死の重傷を負ったんですよ』


ジュニーはいったん瞬間移動して、和純から離れた。

『逃げても無駄ですよ。ジュニーさん。あなたにはちゃんと聞いてもらわないといけない話なんですから』

すると和純は暗黒玉を剣に溜め込んだ。

「分かった」

ジュニーは和純の話を聞くことにした。

『あの日、俺は森の中に父さんといた。そしてはぐれた。その後、デーモン一族ということだけで、何人の子供に石をぶつけられ、俺が抵抗をしないことをいいことに何度も蹴る、殴る、暴行を加えられた』
「………」

和純はジュニーの剣を弾こうと剣を振り下ろした。

『それに、俺はデーモン一族であるがために、ジュニーY世の第一王子でありながら、掃除婦という屈辱的なこともやらされた!!』

和純の顔が怨念を宿している。

『元々王族だったあなたにその気持ちなんて分かりますか?俺が受けてきた屈辱的なこの今を!』

和純はジュニーの喉元に剣をあてた。

『どうせ分からないでしょうね。生粋のボンボンて実の父親すら分からなくても平和的に過ごしてたんだから』
「ふざけるな!!」

ジュニーは、憤怒に満ちた目を彼に向けた。

「自分だけが不幸だと言いたいのか!?そうやっていれば誰かが同情するとでも思ってるのか!!」

ジュニーはオーラだけで和純を吹き飛ばした。

しかし和純は全く驚いていない。

ジュニーは仰向けに倒れた和純の喉元に剣をあてた。

「私だって人に言えない過去があるんだ!生まれた時、私はドラゴンだった。人間じゃなかった」
『それがどうかしましたか?もともとローレさんが龍だったんだから』
「とにかく黙って聞け。私は13になるまで、このクリスタルキャッスルのジュニーT世に、囚われた。そして、自分の母親はジュニーT世と強制的に結婚させられた」
『………』
「それすらも知らず、私はただ自分の運命を呪った。どうして人から人外の者として生まれたのだろう。そして自分の本当の父親を知る前は、ジュニーT世が本当の父親だと…」


和純は観念したように、力を抜いた。

「和純、お前の気持ちは痛いほど分かる。私もかつては人外の者として、周りの者から好奇の目にさらされ、牢から一度も出ずに過ごした」
『じゃあ何故人間として生きようと…』
「ある日、ジュニーT世の友人の息子が、私を見て物珍しさに連れて帰りたいと言った。そして私は封印の腕輪をその息子に外され、初めて人間になった」
『でもそれからは、何事もなかったんでしょ?』

ジュニーは和純の問いかけに全否定した。

「私は、外界を知らなかった。そしてスクールに行った。その時初めて自分がジュニーT世の息子だったと聞かされた。実際は嘘だが。そしてジュニーT世の直属の臣下のシノンピーが次の王座を確定されてたことを知る」

和純は闇人格から、普段の人格に戻っていた。

「そしてジュニーT世が失踪した時、跡継ぎの論争があった。国王の推薦であるシノンピーが、ジュニーU世になれば、私達、ハンス一家は末代まで永遠に幽閉される身になる。私自身はそれでも構わなかった。けどすでに恋人がいた」
「それがハリルさんですか?」
「あぁ。ハリルに会えなくなるのが当時は、かなりの精神的ダメージに繋がる。だから私はシノンピーにデュエルを申し込んだ」

ジュニーは話していくうちに和純が元の人格に戻ったことを感じた。

「和純、このままの体勢ですまないがもう少し聞いてくれるか」
「断ります」
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