ー龍達の宴ー

□―操られた遼―
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一方、デーモンロードにいる衛は、玲奈と対峙していた。


2人は今回が初対面である。


しかも玲奈は、黒装束を着ているため、衛から彼女の顔は全く分からないのだ。

また玲奈も突然現れた衛を父親とは認識できていない。

よって衛達は、お互い誰か分からずに対峙しているのだ。

しかも衛の目的は遼を連れて帰ることのみに絞られている。

それに玲奈は遼を守るため衛を自分の敵だと見なしている。

よって、いつまでも決着が付かないのだ。


そんな日が1週間も続いた。



そして、衛は埒が開かないと思い、思い切って玲奈にあることを聞いた。

「黒龍は?」
「居場所を知りたい?」
「あぁ、それとあんたの正体も」
「じゃあどちらかを教えてあげるわ」

衛は迷わず、彼女の名前を聞いた。

「私はリトルミスティレディよ」
「それは愛称だ。本当の名前を教えてくれ」
「何故?」
「それは…俺の実の娘がここにいると和純から聞いたからだ」
「まさか…兄さんの知り合いなの?」

玲奈は目を見開いた。

「あぁ。知り合いどころか、俺達は親子だ」
「つまり…私のお父さん?」
「そうなるよ」

すると玲奈の目付きが冷酷なものに変わった。

「お母さんを見捨てた裏切り者!!」

玲奈はとっさに衛に切りかかろうとした。

しかし衛はその剣を受け止めてこう言った。

「確かにあんたが玲奈なら、俺は裏切り者だ」
「……そうよ。私は佐伯玲奈よ!!じゃああなたは誰よ!!自分が父親だと名乗ってるけど…」

玲奈は衛から離れた。

「俺は門谷衛。加えて言うならジュニー・スタンス・エッジ・Y世だ」
「つまり私はデーモン一族の血とジュニー王族の混血なの?」
「あぁ」

すると遼が、衛の目の前に現れた。

「遼!!」

彼はめいっぱい彼女の名を叫んだが、遼は無反応だった。

「玲奈、あの男を殺せ」

衛は絶句した。

かつて会った時の彼女とは、あまりにも変わり果てていたからだ。

玲奈は、剣を衛に向けようとするが良心が痛んでなかなか、振り下ろせない。

「なにを迷っている!?」
「お母さん…この人、私のお父さんだって名乗るの。本当なの?」

衛は遼の背後に黒龍がいることを気付いた。

そしてすぐに玲奈のみぞおちを殴って気絶させた。

「なにをする!!」
「遼。この子には何も罪はない。それに…俺の娘にそんな危険な光景なんて見せたくないんでね」「…好きにしろ」

衛は玲奈を安全な場所に安置した。

そして遼と衛は、デーモン王室に入った。

「これが…例の黒龍か」

すると黒龍は衛に反応した。

『お前があいつの父親か』
「まさか、会ったのか?」
『残念ながら、あいつは息絶えた』
「デタラメ言わないでくれ」

すると遼が暗黒水晶を衛に見せた。

「あいつは、死んだ。今、治療をしてはいるが、無理だろう」
「………」
「残念だが、この世界は私達が支配する」
「待てよ」

衛は遼の目を見た。

「和純は生半可なことでは死なん。それに、瑠宇ちゃんや雅也がいる」
「ほぅ。だからなんだ?私達の世界の支配の邪魔をする人間は抹殺させてもらうつもりだが?」
「何故その必要がある?」
「それは、デーモン一族は末代まで他の一族に貶められ、蔑まれ、忌み嫌われていたからだ。そして、和純のあの傷は明らかにリンチかなんかだ。」
「…まさかあの時の傷が…」
「まあ、そんなことはどうでもいい。まずは貴様から、死ぬか?」

遼は、衛に剣を向けた。
「遼、聞いたか?」
「何をだ?」
「和純が死んだって」
「聞いたがなにか?」
「信じるのか?」

すると僅かに残った良心が痛んだのか、遼は何も言えなかった。

「俺は、和純を見殺しにした…。それで殺すなら構わない。だが玲奈の手を血で汚させないでくれ」
「つまり私の手で殺されたいんだな」
「…構わない」

2人は剣を向けた。

黒龍は2人の様子を静かに見守った。

「遼、変わり果ててしまったんだな」
「当然だ。私はもうお前など忘れたからな」
「なら、玲奈を預けてくれないか?」
「断る。あの子は私のたった一人の娘だ。お前なんかに渡すか」

衛は、剣を置いて遼に土下座した。

「頼む。遼、あの子は俺の子でもあるんだ!!」
「なら16年間の間一度も会わなかった?自分の身の危険を感じたからか?結局お前は自分が可愛いだけじゃないか。和純だって和純だって…」

遼は、衛の首を切りかかろうとした。

『やめて!!お母さん!!』

2人は辺りを見渡した。

玲奈はまだ眠っている。

『お母さん、お父さんを責めないで』
「その声はまさか…」

振り返ると和純の姿があった。

「和純…死んじゃったんじゃないのか?」
『うん…死んだって分かってる』
「じゃあ何故ここにいる!?」
『お母さん心配だもん。お父さん、いつもお母さんのこと心配してた』

遼は目を見開いた。

「まさか和純、霊体の身でここまで来たのか」
『うん。雅也が『遼さんが危ない』って』
「違うだろ?和純…」

遼は、いつの間に我に返っていた。

「帰るべきところに帰れ」
『え?』
「お前は、世界を救う使命があるだろ」

衛は、遼が元に戻ったことを感じた。

「遼!!」
「衛…ごめんなさい」
「いや、謝るのは俺の方だ。後、地上世界に戻ってこないか?」
「それはできない…」
「頼む。世界の命運が掛かってるんだ」
「でも私はもうあの世界には戻れない…」
「頼む…」
「衛」

衛は遼を見た。

「衛、玲奈を頼んだ」
「遼、お前はこれからどうするんだ?」
『俺様と共に世界を破滅するだけさ』

黒龍の答えに衛は、憤りを感じた。しかし和純が制した。

「和純…」
『今、戦っても勝てないよ』
「まさか戦ったのか?」
『ううん。黒龍は霊体のひとつなんだ。だから今は戦っても無駄だ』
「和純…」
『僕、もう時間がないから』
「逝ってしまうのか?」

和純は否定した。

『逝かないよ。守りたい人がいる。だから僕はまだ逝かない』

そう言うと和純は消えてしまった。

衛が見た彼の目は何かを決意したような強いまなざしだった。







一方、クリスタルキングダムにいる雅也達は、会議室で黒龍戦の対策を練っていた。

瑠宇を除いて…。

「瑠宇には、精神的ダメージも大きいはずだ」
「確かにそうですわ。目の前で和純が亡くなってしもうたから」
「………」

春代は涙を堪えていた。

「春代…」
「ごめんなさい。私、まだ和純が死んだの信じられないの」
「けどもう2週間も…」
「分かってる。でも割り切れない…」
「春代、瑠宇を頼んだ」
「分かった」

春代は瑠宇のいる医務室に行った。

瑠宇はもう動かない和純の手を、両手で握り締めていた。

「瑠宇ちゃん…」
「春代さん…」

春代は瑠宇がいたたまれなくて、彼女を抱き締めた。

「和純…動かないね」
「うん」
「悲しい…」


しかし瑠宇は、意外な言葉を残した。

「でもまだ和純の手あったかいぞ」
「えっ…!?」

春代は急いで、和純に触れた。

「本当だわ…」
「和純は死んじゃあいない。ただ、意識が回復しないだけだ」
「こんなことってあるかしら…」


すると、誰かが現れて、春代の喉元にナイフを向けた。

「!?」
「久し振りですね。ジュニーW世」
「その声は…!?」

春代は恐る恐る声の主の方に顔を向けた。

「遼!!」

瑠宇が目を見開いた。

「まさか、和純の母親!?」
「いかにもそうだ。ジュニーW世。あなたには死んでもらいますよ」

遼は、春代の喉元にナイフを突き刺そうとした。

その瞬間、瑠宇は、遼にスピアを向けた。

「訳を言え!!」
「訳?それはだな。私を時空追放したからだ!!」
「やはりあの時のこと恨んでたんだね…」
「当然でしょ?あんなに尽くしてきたのに、酷い扱いをあなたは平気でした」
「ごめんなさい。あれは、城の決まりなの」
「なら何故ダークナイトと結婚したとき、時空移動をしなかったんですか!?」


その瞬間だった。

遼の握られたナイフは、何者かによって弾き飛ばされた。

「何者!?」

そこには会議から帰ってきた俊也と雅也がいた。

「話を聞かせてもらった」
「盗み聞きとは、悪趣味ですね」
「遼、お前何者かに操られてるな」
「操られる?そんなことないですよ」
「本当の遼なら、春代にナイフなんて向けない」
「じゃあ答えてくださいよ。あの時何故貴方方は時空移動をしなかったんだ」
「あの時、俺はお前を身籠もった妹と、13年の年月デーモンキングダムにいたからだ」
「まさか…」

春代は、遼の目を見た。

「俊也にそのことを聞いたわ。とても時空移動できる状況じゃなかったの」
「じゃあ、あなただけでもしなかったのは何故?」
「それは、俊也に見放されたのが悲しすぎて、7年間も眠ってしまったからよ」
「他人から時空移動させられる手段もあったはずでしょ?」
「ない。時空移動を使えるのは、ごく限られた人間だ。テレポートも自分が生きている現世界しか映れないからな」
「それは、仕方ないとしましょう。けど再会したら何故すぐに行かなかった?」

春代は、遼を諭すようにこう言った。

「あなたが一番大切にした、私が衛を身籠もったからよ」
「…じゃあ、どうしてその子まで追放した?」
「それは…」

春代は言葉を詰まらせた。

代わりに俊也が話した。

「黒龍が君臨する今のことを、純平から教えられたからだ」
「それは理由になりませんよ」
「…時空追放されるほど、お前達はリスクをおかした。そして春代も自ら時空移動しようとしたんだ」
「じゃあ…」
「春代と俺も、みんなに言われる前に時空移動した。いやさせられたと言ったほうが正しいな」
「そいつは誰ですか」
「漣。お前がかつて忠誠を誓った5代目のジュニー王だ」
「漣は死んだと聞きましたが」
「確かに、瀕死の重症を負った。だが、漣は生きている…。あと…衛は?」
「あいつはいま玲奈をデーモンロードから連れに帰ってる」
「そうか。遼、ひとつだけ聞きたいことがある」
「なんですか?」
「何故、春代にナイフを向けた」

俊也の怜悧な瞳が遼を映す。

「だから言ったでしょう?私を時空追放したから」
「なら、殺す必要はない」
「どうして?」
「理論的に合ってるからだ。それに春代もそれを強く後悔しているから」
「ダークナイトもそこまで変わるとは」
「確かにな。けど人って変わるものなんだ」
「だけどジュニーW世だけは許せない」


すると遼は落ちていたナイフを拾い、春代の喉元に再びナイフを向けた。

「やめろ!!」
「そこから1歩でも動けば、彼女の命はありません」
「…くっ」
「安心してください。彼女を殺したら、あなたも逝かせてあげますよ」
「断る」
「ほう。また見放すんですか」
「違う。春代を死なせたら俺がお前を殺す」

隣りで聞いていた雅也は、絶句した。

「流石デーモン一族の考え」
「確かにな。だが、春代を死なせることに関しては、許さないからな」
「けどこの状況下、ダークナイトの方が不利ですよ」

俊也は、瑠宇と雅也に和純を安全なところに運ぶよう命じた。
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