ー宿命ー
□初恋の歌
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風そよぐある初夏に、漣とハルクは城内のバルコニーで他愛もない会話を交わしていた。
「にしても、ハルクって本当冴子さんが好きなんだな…」
「はい、もちろんですよ」
ハルクの顔が綻んだ。
すると春代がバルコニーにやってきた。
「お母様!!」
「相変わらず仲がいいのね。漣とハルクは」
「やだなー。ただの幼馴染みだってばー」
「そうかな。ねぇ、みんなの初恋話って気にならない?」
「全然」
たいして興味なさげな、漣とは対照的にハルクは、身を乗り出した。
「おおいにあります。えっと…春代様の初恋は?」
「みんなが来たら話してあげるわ」
春代は、同世代のメンバーと、漣を助けてくれたメンバーを集めて客室で、初恋話を始めようともちかけた。
「えっと…」
「なんだよ。いきなり。初恋なんてな、そんなの覚えてるわけない」
俊也は明らかに不機嫌そうだ。
「まあまあ落ち着いて。初恋のメモリーって甘酸っぱいからさみんなで味わおうよ」
純平が俊也をなだめていた。
主催者の春代はくじ引きで初恋話を話す順を決めた。
「じゃあまずは、由希さん」
由希は、照れくさそうにこう言った。
「わいは美影が初恋やで」
「えー本当なんー?」
「そやで。まあ、美影は知らんけどな」
「で、どうして美影さんに恋したんですか?」
すると由希は頭を掻いた。
「えっと、15年前にクリスタルキャッスル向かう矢先わいは大怪我してて。えらい世話になったしなぁ。それ以前はただの幼馴染みにしか見られへんかった」
美影もうんうんと頷いている。
春代は、またくじ引きを引いた。
「えっとルーク」
ルークは、恥ずかしそうにこう言った。
「俺は、春代さん。ちなみにいまいる春代さんじゃなくて、ハル王の妹の春代さん」
「嘘だろー。あの変人のどこがいいんだよー」
純平が妙につっかかった。春代は気になった。
「純平、その人のこと知ってるの?」
「う…うん、昔の学生時代のクラスメイト」
「で、ルークはどこに惹かれたの?」
「そうだな…」
ルークは考え込んだ。
「あぁ。あの型破りなキャラが新鮮で惚れたんだよ。でも彼女には彼氏がいたみたいだ」
「お父さん気の毒…」
マリアがルークを可哀相な目で見た。
次に引いたのは、美影だった。
「美影は?」
「あっちゃんだよ」
となりにいた淳希は、突然の発言に絶句した。
由希は、少しがっかりした。
美影はそんな由希を見て訂正した。
「といっても、春ちゃんとあっちゃんのコンビが良かったの。あっちゃんって見た目突っ込みキャラだけどすごく優しいの。で春ちゃんがすごく羨ましかった」
「全くだぜ」
淳希は春代を見た。
しかし当の本人は、淳希を置いて話を進めた。
次は、マリアの番だった。
「マリアさんは?」
「生憎、恋すらしてません」
「そう。じゃああこがれの人は?」
「えっと…お父さんです」
「ルーク??」
「お父さんみたいな教師になりたいから…お父さんにあまり無理させたくないのもあります」
マリアの話に一同こう思った。
(なんてお父さん思いな子!!)
「へぇ。なれるといいね」
「はい!!」
次は、淳希の番だった。
しかし俊也がこう言った。
「こいつの話は聞かなくとも分かるだろ」
「相変わらずひでぇ奴。いいじゃん初恋の話なんだからさ〜まさかヤキモチ?」
「はぁ?誰がお前相手にヤキモチなど妬くか」
その会話を見てた、透はこう言った。
「にしては説得力ないですよ?俊也さん。顔真っ赤だし」
「…分かってるさ」
(中川家ってみんな大物なんだな)
純平は一人感心していた。
「気を取り直して。淳希言ってみて」
「はいはい。俺は春代だよ。好きになった理由は…純真無垢なところかな?」
「じゃあいまでも好きなんですか〜」
冴子はハルクの発言を聞いてげんこつを1回した。
「いたっ」
「失礼だろーが!!仮にも春代さんには旦那がいるんだぞ。言っていいことと悪いことがあるんだよ!!」
「すみません…」
ハルクはションボリしていた。
「気にしないでいいから。えっと、いまでもすきだよ。でも愛してるとは違う感情だからな」
それを聞いて俊也は何故か安堵した。