ー龍達の宴ー

□ー龍達の宴ー
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龍達の宴当日。

早朝に俊也は、眠っている和純を呼び出した。

「おはよう。和純」

和純は眠たい目をこすって、ゆっくりと体を起こした。

「おはよう。じいちゃん。いつもより早いんだね」
「今日が龍達の宴なんだろ?だから最終試験として、これから俺と本気でデュエルしてもらう。いいな?遠慮は一切無用だから」
「うん」

和純は、軽装に着替えた。

2人は、黙って和純の部屋から、決闘室に入った。

和純は、慎重に剣を選んでいく。

剣1つで勝負が決まるとも言われている。

ただし重ければ重いほど良いとは限らない。弾き飛ばされにくい代わりに、攻撃速度が鈍るのだ。

このことを和純はこの特訓を通して、学び、体感した。


一方、俊也は昔から愛用している剣を念入りに研いている。

剣の錆もこれまた致命傷になりかねない。


そして2人はデュエル用の正装に着替えた。

和純は初めて着る正装に少々戸惑っていた。

「初めてだったな。この服を身に纏うのは」
「はい」
「気後れしなくていい。いつも通りにすればいいから」
「はい!」

強く頷いて、和純は悩みに悩んだ末、いつも使っている一般用の剣を選んだ。

剣を構えた。

俊也もそれを見計らって、剣を構えた。

『1』

俊也の合図と共に、2人は剣の刃先を真上に向けた。

『2』

そしてお互いの胸元に剣を向ける。

『始め!』

俊也の合図と共に静かにデュエルは、始まった。

しかし双方、微々とも動かない。

どうやら、2人とも相手の出方を待っている。

しかし、頭の中で2人は互いに駆け引きをしていた。

どちらが先に仕掛けるか…。そしてどうやって迎撃するか。


最初にしかけたのは、和純だ。

彼は、剣を振り上げた。

容赦なく俊也の剣を弾こうとする。

だが、俊也は最初から和純の出方を想定していたのだ。

すぐに剣で和純の攻撃を防いだ。

攻撃を防がれた和純は、たいして動揺せずに、いったん俊也から離れた。


その瞬間だった。


俊也は、和純目掛けて真正面に猛スピードで向かってくる。

(ジュニーさんも、この方法をしてた!!)

和純はジュニーとの練習をふと思い出した。

そして自分の剣を弾き飛ばされる前に、剣を盾として使った。

当然、彼らの剣は激しくぶつかりあう。

また、弾こうとするため、お互い振り上げようとするが、相殺されてしまうのだ。

埒が開かないと思った俊也は、すぐさま和純に離れた。

その間のわずかな時間で、和純は俊也の後ろを先回りして、背後から剣を弾こうとした。


しかし俊也にまたしても先読みされた。

和純の攻撃は、またしても阻止されてしまった。

(じいちゃんも本気なんだ!けど僕も負けられない)

この時、2人はまだトランスも技も出していない。

どうやら、自分自身の生身の力だけで戦うつもりなのだ。


しかし、未だにどちらにも勝機が見えない。

つまり、和純がそれだけ俊也と引けを取らない能力を短期間で、身に着けたことを意味する。

俊也は、それを実感した。

その証拠に、和純はいくら攻撃を受けても冷静に対処するのだ。

さらに、練習時とは違って剣に迷いが無くなっていたのだ。

(やはり和純は戦士としての資質が、十二分にあったわけだ)

2人の拮抗する攻防戦は、2時間もの時間を及んだ。

流石に、そこまでやると集中力が切れてしまう。
俊也は和純の様子を見た。

いくらスタミナのある和純でさえ、肩で息をするほど、疲れている。

また、俊也にも疲労の色が隠せなかった。

俊也は、それを感じたのか剣を置く前に、こう言った。

「一度休憩をする」
「な…なんで」
「長時間やると、集中力が途切れてしまうからな。それに、朝食の時間だ」
「は…はい…」

2人は同時に剣を置いた。

そして決闘室から、出てすぐに風呂に入った。

俊也は和純の体を見て、驚きを隠せなかった。

前2年前に見た時は、いかにもひ弱で華奢な体つきをしていたが、ここ一か月で、見事に均整の取れた体つきになっていた。

和純は、長い髪をゴムで束ねて、体を洗っている。

俊也の視線に気付いたのか、こう言った。

「どうかしたの?じいちゃん」
「いや…」
「だって、ずっと見てるから」
「あぁ。さっきデュエルした時にやっと納得した。前よりお前の剣を振り下ろす重力が、重たく感じたからな」
「へ?」
「それだけ筋力が増えたわけだ。それにお前は頭も切れる。多分、デュエルでは」
「デュエルでは?」
「他の行動は、まだ年相応かそれより下だが。デュエル戦は、16とは思えない頭脳が働いてるし、行動力にも長けている」
「そうかな…」

和純は、俊也に褒められて、くすぐったい気持ちになった。

俊也は、ふと和純に微笑んだ。

「例え、今日のデュエルがどのような結果になっても、和純は自分に自信を持てばいい」
「う…うん」
「さて、風呂上がるぞ」

俊也は湯船から上がった。

和純は俊也の体を見た。

俊也は確か今年で、76なはずだ。

しかし彼の体付きは明らかにその年にしては若過ぎる。

ふと和純は疑問を抱いた。

「じいちゃん年いくつ?」
「たしか…タイムスリップしたのが、36の時だから、52だ」
「72じゃないの?」
「衛とずっといたわけじゃないからな」
「確か時空追放…」
「そうそう。その話は、黒龍を倒してからゆっくりと話してやる」
「うん」

和純は、体を洗い流した。

2人は、大浴場から出た。

すると雅也がやってきた。

「おはようさん2人とも」
「おはよう」
「お…おはよう」
「いよいよ龍達の宴やろ?俺と衛さんで、玲奈ちゃん達助けに行くから」「頼むぞ。雅也」
「はい。にしても俊也さんいつ見ても綺麗な体してますな」
「そうか?」

俊也は首を傾げた。

「だって無駄な筋肉ないでしょ?とても初老には見えんて」
「初老かぁ」
「気に障りました?」
「いや、年老いたんだなって」

俊也は苦笑した。そして和純と俊也は髪を乾かした。

「お前も随分髪の毛伸びたんだな」
「うん…」
「髪の毛うっとうしくないか?」
「ううん。こっちのほうが都合がいいよ」

雅也は、和純の背後にいた。

「どうしたの雅也…」
「今日、天空の城の宴やろ?フォーマルな感じでいくで」
「へ?」

雅也は、和純からドライヤーを取り上げた。

「ま…待って朝食取ったらデュエルの続きするから、髪型崩れちゃう」
「そっか。じゃあゴムだけ括るわ」

雅也は器用に、和純の髪を乾かした。

俊也は雅也の器用さに感心した。

「雅也、手の動きが繊細なんだが?」
「当たり前ですよ。和純の髪質考えたら、荒く扱ったらだめなんですわ」
「将来は美容師になるのか?」
「それに近いもんになるんですわ。スタイリストです」
「両親は反対しないのか?雅也は第一王子だろ?」
「確かにそやけど、妹もおるし。それに放任主義のおとんや。文句は言わんやろ」
「母親は?」
「どうやろな…」
「なるほど。えっと和純はなんになりたいのだ?」

突然話を振られた和純は、何を答えていいのか分からなかった。

「何も考えてないんか?」
「…将来なんて考えたことないんだ。瑠宇はローレ・ハンスのような龍使いになりたいと言ったけどね」
「待て。ローレは聖龍の方だぞ。本物の龍使いは、アリアの方だ」
「アリア?」
「じじいの実母だよ」
「ジュニーさんのお母さん?」
「そ。だから瑠宇がそのことを言った時は、訂正してやれよ」
「うん…」


ドライヤーの音が止んだ。

「出来たで〜」
「ありがとう」
「鏡見てみぃ?」

和純は鏡を見た。

いつもよりスッキリした感じがする。

それに、素顔がはっきり見える。

「どや?」
「恥ずかしい…こんなに、顔見せたくない」
「そっかぁ?偉いカッコようなったで」
「綺麗じゃなくて?」
「綺麗な面に加えて、カッコよくなった。瑠宇が見たら二度惚れするわ」
「そ…そうかな」

俊也は先に、着替えて王室に行っていた。

「あれ?おじいちゃんは」
「王室向かったんやろな。眼鏡しとく?」
「うん」

雅也は、伊達眼鏡を和純に渡した。

「あれ…」
「どないしたん」
「一か月全然掛けてなかったから、すごく違和感感じる…」
「ほんまか!!」
「でも、どうしよう。素顔がバレたら…」
「大丈夫やて、朝やしみんなまだ寝とる」
「分かった」

2人も、王室に向かった。

王室には中央に衛、右からジュニー、俊也、瑠宇がいた。

「おはよう和純」
「おはよう。お父さん」
「スッキリしたな…」
「あぁ、これ雅也がしてくれたの」
「なかなか似合ってるぞ」
「あ…ありがとう」

雅也と和純はお互い向かい合わせに座った。

すると瑠宇が、和純を凝視した。

「な…なに?」
「私には『おはよう』言ってくれないのか?」
「…おはよう」
「ん…おはよう」
「瑠宇、一ヶ月何してたの?」
「それはこっちのセリフ」
「じいちゃんに稽古付けてもらったの」
「なんだ。そうか。私は、龍達の宴に着る服を地上世界で探してたんだ」「見つかったの?」
「龍達の宴が始まるまで、秘密な」

すると和純はレバインのことが気になった。

「あの…」
「レバインなら、ずっと鍛練してたみたいだぞ。天空の城を守れるのはあいつだけだからな」
「そうなんだ…」
「和純、もしレバインとデュエルするようなことになったら…」
「なったら?」
「油断するなよ。いくら強くなったとしても、レバインはそれには動じないからな」
「ご忠告ありがとう」
「さてご飯にしよう」

衛が話を遮る。

全員手を合わせた。

「いただきます!」

今日のメニューは、フレンチトーストとオニオンサラダだ。

「えらい質素なんですなぁ」
「父さんは、庶民暮らしが長かったから、こっちのほうがいいんだって」「なるほど…」
「嫌か?雅也くん」
「いや…むしろ親近感沸きましたわ」

その間、俊也とジュニーU世は黙々と食べている。


「じいちゃん?」
「どうかしたか?」
「ううん。さっきから何にも話さないから」
「食事の時は黙って食べるんだよ」
「う…うん」
「食べたら続きな」
「うん!」


するとジュニーは先に、食べ終わってバルコニーに行ってしまった。

俊也と和純は食べ終わると、決闘室に向かった。

和純は、決闘室に向かう途中、急にジュニーが心配になった。

「あの…じいちゃん」
「ん?」
「ジュニーさん…」
「今日が彼の最期の日だな」
「やっぱり…」
「黒龍を倒せる龍は、存在しないに近いからな」
「そうだよね」
「和純は、じじいがいなくなると悲しいか?」
「悲しいより淋しいかな」
「そうだな。俺も淋しいな。もう『じじい』呼びができなくなる」
「………うん」
「着いたぞ」
「うん」

2人は決闘室に入った。

そしてすぐに、デュエルの準備を再会した。

「けど、今は感傷に浸ってる場合じゃないぞ」
「うん」
「デュエルだけに集中しろ」
「うん」
「ベストを尽くして、俺にかかって来い」
「はい!!」

2人はお互い剣を構えた。
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