ー龍達の宴ー

□―戦闘へのロード―
1ページ/3ページ

「甘い!!」

俊也の怒声が、決闘室に響く。

「和純、お前それでも男か?」
「………」
「時間はない。それに隙がありすぎる。レバインは、お前より身長も高いし、素早い。それで本気で勝てると思ってるのか」

和純は、何も言わない。

俊也は和純を見た。

「反抗したいなら、ちゃんと目の前で言え。黙ってたら分からん」
「じいちゃん、俺戦士に向いてない」
「ふざけるな!!そう言って俺を打ち負かせたやつがいたんだぞ」
「………」

俊也はいったん休憩を取った。

「今はもう死んだが、田所純平いや徳川純平にな俺は負けたんだよ」
「徳川純平?」
「春代の弟。あいつは戦士を捨てて吟遊詩人になったんだ」
「けど僕とその人は違う。僕には戦士になる資格なんてない!!」

すると俊也は、へたりこむ和純を立ち上がらせた。

「お前…」
「僕は、明らかに戦士向きじゃない。お父さんだって過大評価しすぎなんだよ…」
「けど男は戦わなければならない時が必ず来る。その時も、お前は逃げるのか…」
「………」
「レバインや黒龍に負けた時、お前は何もかも失うのだ。その恐怖が分からないのか?」
「…分からない。僕は得るものがないから」
「つまり失うこともない…。ならば、何もためらう必要はないだろ?」
「………」

俊也は、和純の首筋にナイフを向けた。

「!?」
「怖くないなら、このナイフをあの時のように弾き飛ばせばいい」

和純は深呼吸して、俊也を投げ飛ばした。

俊也は意表を付かれてが、あまり驚いた様子じゃなかった。

「じいちゃんごめん」
「お前は危機的状況になればなるほど、強くなるタイプだな」
「え?」
「命の危険が差し迫った時、お前はとっさの行動に出た。どうやら潜在能力はあるらしい」
「へ?」
「いいから、特訓の続きを始めるぞ」
「はい」


しかし、また俊也はやる気のない和純に怒声を浴びせた。

「危機感を持て!!お前はこの危険な日が迫ると言うのに何故ぼやっとしてる」
「………」
「まさか、俺相手だから本気が出せないのか?」

和純は頷いた。

「なら、やめるか?」
「………」

和純のオーラがどす黒いオーラになった。

「じいちゃん…ごめん」
和純は敢えて非情になるため闇人格になった。

そして俊也のナイフを槍で真っ二つに割った。

「ほう…。お前も俺と同じ匂いがする」
「………」
「ならばそのまま掛かってこい!!」

和純は、一瞬消えた。

俊也は気配だけで和純を捕らえた。

そして和純は背後から俊也目掛けて槍を向けた。

しかし俊也は素手で、槍を弾き飛ばした。

「相変わらず、おおざっぱすぎる。気配を読まれないようにしなきゃな」

しかしその瞬間だった。

和純は真正面から俊也に襲いかかってきた。

そう、和純は自分の残像を、囮にしたのだ。

「うぐっ…」

和純は初めて、俊也に傷を付けたのだ。

俊也はよろけて立て膝を付いた。

既にその時、和純は元の人格に戻っていた。

「じいちゃん…」
「年には勝てないな…。お前ぐらいの年なら、分身を使われたぐらいで、ダメージなど与えさせなかったが…」

和純は、俊也の足を見た。

すぐに手当てをしようとしたが制止した。

「非情になれと言わなかったか?」
「けど、痛そうだから…」
「和純、敵にもそうするか?」
「ううん」
「なら、手当てなどするな。戦う相手はみな敵だと思わなきゃ勝機は見えん」

しかし、俊也の足の傷はあまりにも痛々しい。

和純は、どうしようか迷った。

その隙に俊也は、和純の槍を奪った。

「だから、こういうことになるんだ」
「…う…うん」
「それに死ぬまで、剣を離すな。剣を離すと言うことは死を意味する」
「じゃあ…剣を弾いたのは、相手の命を奪う意味もあるんだね」

俊也は槍を和純に返した。

「実際は、命まで奪わないが、そういう意味になる。だからどんなに劣勢でも剣を握っていろ」
「うん」
「それに、槍はリーチが長いが細かい動きができない」
「でもこれは父さんからもらったやつなんだ」
「……なら、こっちと取り替える」

俊也は、和純に戦士用の剣を渡した。

「戦いに置いて、いかに素早く対処するかで勝負が決まると言っても過言じゃない」
「………」
「レバインは、その点かなり優れている。俺から見れば、攻撃力は大したことはないが、相手の動き、心理状態も読んでくる。だから、気を緩めると即座に剣を弾き飛ばされる」
「随分詳しいんだね…」
「あぁ。あいつは12の時から、俺が剣のことを教えている。それに、レバインは龍王の自覚もあるから一筋縄ではいかない。またオーラだけで相手を怯ませることも出来る」
「なるほど」
「だから、お前に特訓しようと言った。けど、お前はまた違ったタイプの人間だな」

俊也は、和純に拳を向けた。

和純は、直感だけで俊也の拳を止めた。

「上手くは言えないが、お前は本能で戦うタイプだ」
「はい?」
「だから危機的状況にも強い。後ジョブカードを見てみろ」

和純はジョブカードを見た。

「確か、特訓する前のレベルが36だったな」
「…うん」
「今は?」
「45」
「短時間でレベルを上げたか」
「でもモンスター相手となんかしてないよ」
「ジョブカードは、日常生活でも影響が出る」
「なるほど…だからか」
「心あたりはあるのか」
「うん。城内毎日掃除・洗濯かな」
「まさか全員分の?」

これには流石の俊也も驚いた。

「どおりで息を乱してないのか…」
「うん。僕が一番身分が低いからね」
「なら下剋上方式にするか?」
「なにそれ」

俊也はこと細かく説明した。

「なるほど…」
「まあ、やるかやらないかはお前で決めろ」
「うん・・・」

相変わらず、和純は俊也の足の傷が気になる。

「ん・・・。とりあえず、休憩しよう」
「うん」

2人は、決闘室から退出した。

すると、ジュニーが立っていた。

「和純は、剣士向きじゃないのか?」
「聞いてたのか?」
「あぁ、にしても俊也も容赦ないな」
「当然だろ!?あと一ヶ月後には、龍達の宴をするんだから」
「確かにそうだけど」

俊也はジュニーの髪の色を見た。

「これは・・・?」
「地毛。俺、龍人族だから」
「なるほど。でもあんたこそなにもしなくていいのか?」
「・・・。なにかしたところで運命は変わらない」
「自ら死を選ぶのか?」
「あぁ」
「それはあんたの意志か?」
「あぁ。リーが死んでから覚悟してたさ・・・」
「なら、一度和純の相手になってくれないか?」

ジュニーと和純は目を見開いた。

「あんたなら、和純の闘争本能を引き出してくれる」
「保障はないぞ」
「いや、俺と初めてデュエルしたのはあんただ。その時にたくさんのことを教えてもらったからな」
「覚えてたのか?」
「あぁ。あんたがどうして剣豪ダミアス一族を倒したかもな」
「・・・」
「あんたは、もともと吟遊詩人だったから独自のリズムがあったんだ」
「つまり、同じ吟遊詩人同士だから・・・」
「和純にも、習得できる技があるはずだ」

和純は黙って2人の会話を聞いていた。

「短時間では、そう習得できない気がするが・・・」
「やらなければならん。俺にはできない業だからな」
「そうか・・・。和純、どうする!?」

和純は、ジュニーの問いかけに困った。

「・・・」
「俺はしてもいいよ」
「ジュニーさん・・・」
「だって、和純には受け継いでほしいから」
「え?」
「私のすべてをな」

ジュニーは、微笑んだ。

「・・・分かった。僕やるよ」
「よし、じゃあ休憩が終わったらデュエルだな」
「はい」

俊也は、去ってしまった。

「和純」
「はい」
「本気でやるからな」
「うん」
「遠慮しなくていいよ」
「分かってます・・・」
「怖いか?」
「・・・はい、正直言うと怖いです」
「俺も怖い」
「な・・・なんで?」
「仲間同士で争うのは、後味が良くないしな」
「・・・」
「それに、俺もお前ももともとは吟遊詩人だ。本来戦う人間なんかじゃない。でも、戦わざるえないんだ」
「・・・」
「それが、黒龍戦だ。本当なら俺の時代で滅ぼせば、末代のお前を巻き込まずに済んだのに」
「でも、もしもそうだったらあなたに会えなかった」
「それもそうだな」

和純は、腕時計を見た。

「そろそろ、休憩時間が終わります」
「ん」
「ジュニーさんよろしくお願いします」
「分かった」

2人は、決闘室に入った。


さっきまでの穏やかなオーラは完全に消え去った。

ジュニーは、剣を構えた。

和純も剣を構えた。

「やり方は、俊也に聞いたな?」
「はい」
「なら、細かいことは言わない」
「はい」
「じゃあ、構えて」

2人はほぼ同時に剣を真上に構えた。

「1」

2人は、いったん剣を下ろした。

「2」

お互い、剣を相手に向ける。

「始め!!」

ジュニーの合図とともに、2人はお互いの動きを読んでいく。

その瞬間、ジュニーの気配が消えた。

和純は目を閉じて、神経を研ぎ澄ませた。

しかし、和純がジュニーの気配に気づいた頃には、剣を弾き飛ばされた。

「ん・・・」

和純は、何が起こったか把握できなかった。

何度か、デュエルをするのだが、全部負けてしまった。

ジュニーは困惑する和純にこう言った。

「気配を消すからって背後に消えてるわけじゃないよ」
「え!?」
「実は、高速移動で真正面にお前に向かってるだよ」
「じゃあ・・気配を消してるんじゃないの!?」
「消えたように見せてるの。俊也ならすぐに見破るんだが」
「うん・・・」
「でも、反応がだんだん早くなったよ」
「でも、勝てないよ」
「負けなければいいんだよ」

和純はますます、困惑して頭を抱え込んだ。

「要するに、剣を離したらだめなんだよ」
「じいちゃんにも言われた」
「うん・・・それとお前の場合は深刻だな」
「え!?」

ジュニーは、和純の目を見た。

「戦う以前に、人の目を見れないんだな・・・」
「うん」
「トラウマ的なこともあるしな・・・」
「うん・・」
「なら、目隠しして稽古するか!?」

ジュニーのとんでもない提案に和純は驚きを隠せなかった。

「気配だけで、相手の動きを読むんだよ」
「そんなことできるの!?」
「あぁ。短時間で出来るかどうかは分からんけどな」
「うん・・・」
「お前に向いた特訓法なんだと思うけどな」
「僕に向いた特訓法?」
「お前は、俺の気配だけで反応した。だからその長所を最大限に生かすために、この方法を提案したんだが」

和純は考え込んだ。

そして、結論に達した。

「分かった。やってみる」
「よし。今動くなよ」
「う・・・うん」

ジュニーは自分のバンダナで、和純を、目隠しした。

「どう?」
「全然見えないよ・・・」
「剣構えてみな」
「うん」

和純は、いつもどおり剣を構えた。

「フォームのズレはないな」
「はい」

「1」

ジュニーの声で、和純は剣をいったん下ろした。

「2」

次の声で、ジュニーに剣を向けた。

「始め!!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ