ー龍達の宴ー

□ー過去・そして迫り来る影ー
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ジュニーは深呼吸してこう言った。

「長くなるけどいいか?」

3人は頷いた。

「私がまだ人間として生きていたころだ…」

ジュニーは、1000年前の話をし出した。


当時、彼の娘の樹里を亡くして間もないころだった。

彼は、王位を復位した。
これで、落ち着いた生活がやっと出来るとジュニーは安心していた。

しかしその矢先、彼の妻である春樹が、突然離婚届を差し出して来たのだ。

「ジュニー。別れましょう」

もちろん彼はこう言った。

「どうして??」

春樹はこう言った。

「樹里もいないし、美里はジパングに帰ったからもう、私達も一緒にいる意味ないと思う」
「どうして?私への愛は冷めたの?」

すると、春樹はこう言った。

「それは私のセリフ。結婚して何十年も経つのに。あなたハリルさんばかり見てた…」

ジュニーは図星を付かれて、何も言えなくなった。

「だってそうでしょう?未だに毎年のクリスマスはここにはいない。あの人との思い出のため、白百合の花畑に行く」
「それは、リーの祥月命日だからだよ」
「でも、あの白百合の花畑は、元々荒れ地だったのよ?あなたが白百合の花を一から育てたことも知ってます。ハリルさんのことまだ愛してるじゃない…」
「…でもリーは亡くなった。だから、君を愛したんだ」
「それは、私がハリルさんに似ているから?」
「……違う。私を救ってくれると思ったからだ」

ジュニーはそう言うと、春樹は、リボンと指輪をジュニーに返した。

「もう、あなたに振り回されたくない。それにハリルさんは死ぬ前、私にジュニーを頼むって言ってた。でも、私はもうたくさんなの!!」

春樹は、そう言うとジュニーは一筋の涙を流して真実を話した。

「すまない、君が言うとおり私は、君とハリルを重ねて見ていたんだ…」
「やっぱり…。ちゃんと私として見てくれなかった。私ね、トニー君に一度結婚を申し込まれたの」
「あのハルに?」
「えぇ。あの人はちゃんと私として見てくれた。あなたのようにハリルさんと重ねて見なかった…。けど、私はあの時、確かにあなたを愛した。もしかしたら私として見てくれると思った。でも、あなたは私の気持ちを何度も裏切った…」
「すまない……」
「私ね、あなたを選んで後悔はしなかった。でもずっと淋しかった。樹里や美里が生まれても、私は淋しい気持ちでいっぱいだった…」
「春樹…」
「だから、もうやめて。あなたは、ハリルさんを見ていいから。私はもうあなたのそばにはいられない…」

春樹はそう言うと、魔法の鍵を天に翳した。

「待ってくれ!!」

ジュニーは叫ぶと、春樹はこう言った。

「さようなら、ジュニー。そして長い間ありがとう」

すると、春樹はジパングにテレポートしてしまった。

「春樹ー!!!」


この叫び声を聞いていた、執事長つまり純平が、ジュニーにこう言った。

「王様、早く春樹さんのところに行ってください」
「どういうことだ?純平」
「彼女…このところ体調がよくなくて…もしかしたら老衰しきっている」
「でも、もう…」
「もう二度と会えなくなりますよ?それで王様はいいんですか?ハリルさんのときのように後悔しませんか?」
「分かった。すぐ行く。純平、城のこと頼んだぞ」
「はい」

ジュニーは、春樹が返したリボンを使ってテレポートした。


するとそこは、春樹と初めて出会った新徳川屋敷だった。

ジュニーは、すぐさま屋敷に入った。


春樹は、娘の美里に看病されていた。

「お母様…なんでお父様と別れるなんて言ったんですか…」
「それはね……」

その瞬間だった。

ジュニーは襖を思い切り開けてこう言った。

「春樹!!」

春樹は、驚いてこう言った。

「どうして…来たの…」「執事長から、すぐ行ってくれって…」
「純平ったらお節介ね…」

美里が割り込んでこう言った。

「お父様!!」
「久し振りだね。美里。春樹と話をしたいから、別の部屋に行ってほしい」
「分かりました」

美里は、別室に向かった。

「春樹」

ジュニーは、恐ろしく低い声をした。

春樹は、ジュニーの方を向けなかった。

「春樹」

もう一度、ジュニーは彼女の名前を呼ぶ。

それでも春樹は振り向かない。

「お前は、私に嘘をついた」
「嘘?」
「離婚届を見たが、君は離婚する気など全くなかったのだろ?」
「あったわよ。あなたに愛想がついたって言ったじゃない」
「じゃあ、なんで偽名を書いた」

ジュニーは、春樹を無理矢理自分の方へ向かせた。

「お前の名前は『徳川春樹』でもここに書いたのは、『徳山春樹』。明らかに違う名前だ。訳を話してくれるか」

春樹は、ジュニーの方を向いてこう言った。

「だって…ハリルさんが死ぬ前、私にこう言ったの」
「『ジュニーを頼んだ』か?」
「違うの『彼を取らないで…。約束したの…。だから、ジュニーを…返して』」
「譲ったわけじゃないの?」
「当たり前よ…。ハリルさんだって私に嫉妬してた。それに…私は長い間、あなたに嘘をついた。だから別れたら、言わなくても済むんじゃないかなって思ったの…」
「春樹、どうしてリーがそう言ったか、教えて」
「分かった。ハリルさんは紅龍だった。そしてあなたの正体は聖龍だった。だから、龍人族同士が結ばれば良かったって」
「つまり、ハリルは…」
「あなたを愛してたわよ。でも、未来に何かが起こる気がして、私にそう言ったの」
「まさか、100年前の悲劇がまた?」


これが、黒龍の君臨だとジュニーは気付いた。


「だからハリルさんは、あなたを呼び戻してる。あなた、やらなきゃいけないことあるでしょ?」「『天空で会いたい』はそういう意味だったわけだな。でも春樹を置いては行けない」
「馬鹿…」

春樹は、ジュニーの頬を触って言った。

「私が離婚を口実にしたもう1つの理由はね、私がもう長くないからよ」「老衰…?」
「そう。龍人族のあなたとは違って、私は人間だから…。もう長くない」
「じゃあなんで、正直に言わなかった?」
「心配かけたくなかったから」
「………」
「それに、ずっとジュニーを独り占めしたくて、あのことも言わなかった…。だから、ハリルさんの元へ戻れるように離婚届を出したの」

ジュニーは、それを聞いて悲しい顔をした。

「今まで黙ってて、ごめんなさい。それに…」
「もう何も言わないでくれ。もう何も言わなくていいから…」
「ジュニー…」
「あの名前呼んで。私の本当の名前を」
「ケリー…」
「春樹。私を愛してくれてありがとう」
「ううん。私こそ…」
「それにリーには本名のこと言わなかった」
「どうして…」
「だって、リーが死ぬまで、私はジュニーT世の子だと信じていたから。けど、春樹なら話せたんだ…」
「ケリー。確か、あなたのお父さんも龍人族だったわね」
「あぁ、だから、私も龍人なんだ」

すると、春樹は最後のトランスをした。

「急にどうしたんだ!?」
「能力者は、死ぬ前に他の能力者に『印』を託すことが出来るんだよ…」
「でも…そんなことしたら本当に君が死んでしまう!!」

ジュニーは大粒の涙を流した。

春樹はジュニーの涙を拭いた。

「泣かないで…」
「だって、ずっと一緒だったのに…なんで…」
「私も悲しくなる。ちゃんと笑ってくれなきゃ、託せない」

ジュニーは精一杯笑顔になった。

「それに、ジュニーは一人じゃない。私の肉体は滅びるけど、あなたが覚えてる限り、心の中で生きているから…」

春樹は、ジュニーに『聖』を託した。

「それにね…デーモン戦の時、他のみんなじゃなく私を選んでくれた…。すごく嬉しかった……」
「………」
「それに、私でなかったらあなたは龍としての本来の姿には戻れなかったよね…。だから、もう一度世界のために私の『印』を役立てて…」
「君はそれでいいのか?」
「もちろんよ…。だからハリルさんとの約束を守って……」

春樹がそう言う前に、ジュニーは彼女を抱き締めてキスをした。

「春樹、愛してる」
「ケリー、私も愛してる…。ハリルさんによろしくって言ってね……」

そう言うと、春樹は静かに眠った。

そしてそのまま、彼女は永眠した。

享年85歳だった。

ジュニーは美里と2人で、お通夜をした。

美里曰く、春樹の病気は衰弱だったらしい。

2人はその夜、静かに泣いた。

「お母様は、本当にお父様のこと愛していたんですね」
「あぁ、最初出会った時は、半ば強制的にクリスタルキングダムに連れていったからびっくりしてたと思うよ」
「でも、お母様って、好奇心旺盛だったのよって言ってました」
「あぁ、でなきゃ私の国は滅んでただろうな」

すると、美里は話を変えてこう言った。

「明日のお葬式が終わったら、お父様はどうするんですか?」
「……春樹を見送ってから、天空に行くよ。彼女の遺言だからね」
「分かったわ。じゃあ私ともお別れなんですね?」
「すまない…」
「樹里お姉さんが死んでから、お父様も後を追って死ぬとばかり思ってました」
「私もそうだと思ってた。けど結局後を追って死んだのは春樹の方だった…」
「………でも、お母様は後悔してない。死顔がすごく安らかだったから…」
「あぁ…」



お葬式が終わった。そして春樹は灰になった。

美里は、小さな硝子瓶に春樹の灰を入れて、ジュニーに渡した。

「ありがとう。美里」
「お父様、いってらっしゃい!!」

すると、ジュニーは美里の額にキスをして、天空の世界に行った。


(ここがハリルが言っていた、天空の世界かぁ)

地上世界とは全く別の世界だった。

色とりどりの花々や、のどかな町に天空の城がそびえていた。

すると、若い女性と年老いた男性がいた。

その2人が誰だと彼は一発で気付いた。

「リー!ハル!!」

2人はジュニーの声に気付いてこう言った。

「あなたまさか死んだの?」
「へ?まだ死んでないけど…」

ハリルは、彼の印を見て何かを気付いた。

「春樹さんが死んだのね」
「あぁ。老衰だ。それと…リー。長い間待たせて済まなかった。お陰でこんな耄碌じじいの姿になってしまった」
「ううん。約束果たしてくれたから嬉しい。でも…春樹さんが気の毒…」

すると、ジュニーは硝子瓶を見せた。

「春樹がハリルの元へ行けと言ってくれたんだ」
「春樹さんが?」
「私は、結局春樹もハリルも守れなかった死に損ないだ……」
「馬鹿。誰もあなたをそう見てないわ。それに私の子も死んでしまったけど…俊也君生きてるから」
「俺達が亡くなっても、子孫が生きてるもんな…」

ハルは、ジュニーにこう言った。

「たくっ、春樹さんがいなくなったら淋しいじゃん」
「未だに好きなのか?」
「当たり前でしょ?結婚しても、春樹さんは忘れられなかったし」
「男性ってそういうことあるよね。女性からしたらたまったもんじゃないわよ」
「春樹もそう言ってた」
「本当、ジュニーって悪い人ねぇ。結婚しても私の名前ばかり呼ぶし…。春樹さんよく耐えたわね…」
「全くだ」

そしてその日、彼は聖龍としての洗礼を受けたのだ。



「というわけだ」

彼は話し終えると、和純がこう言った。

「春樹さんも、まだあなたの心の中に生きてますか?」
「あぁ。時々彼女を思い出すよ」

すると、瑠宇がこう言った。
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