ー宿命ー

□俺達の13年間
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春代が桜蘭通りの故郷で意識不明の重態に見舞われたと、純平から聞いた。

俺はすぐに春代の家に向かった。

生憎春代の両親はいなかった。

俺はあいつが眠る3階の寝室に向かった。

すると純平が春代の手を握ったままそばに眠っていた。

俺は純平の背中に毛布をかけてやった。

すると、彼は俺の気配に気付いたのかこう言ってきた。

「ごめんね。俺うとうとしてた…」

彼は、眠たい目をこすりつつ俺の顔を見た。

そして俺はこう言った。

「春代の様子は?」
「お医者さんに聞いたところ、どこにも異常はないって。でも姉さんは、植物状態なんだ」
「目を覚まさないのか?」
「うん。それに、姉さんのお腹の中には新しい生命が宿っている」
「春代…まさか…」
「そのまさかだよ」

俺は春代の相手の名前を聞きたがらなかった。

何故なら、そいつは俺の恋敵だからだ。

まさか春代とそんな関係まで発展してたなんて…

「淳希…」

純平は俺を心配して、顔を見上げた。

「そんな顔するなよ。お前らしくもない」
「だって、悔しそうな顔してたから」

あぁ、そうだよ。
春代はずっと俺と一緒にこの町に育てきたんだから

なのに奴が春代を奪った。いや春代が惹かれたんだ。

なんで奴なんだよ。

よりによってお前の敵である奴に惚れたりなんかしたんだ。


そう思うと、涙が出てきそうだった。

純平はそんな俺を見てこう言った。

「俊也はずるいよ。姉さんを奪って…それなのに、さようならだなんて」
「俊也はどうしたんだ」
「闇の世界に残留した。もっと残酷に言えば、姉さんの差し出した手を握ろうとしなかったんだ…」
「なんて酷い奴なんだよ」
「確かにね。でも、俊也は命懸けで姉さんを守ったんだ」
「…でも春代がこんな状態になったのは、間違なくあいつのせいだ」

すると、純平はこう言った。

「クリスタルキャッスルの城医なら治療法を知っているかもしれない」
「本当か?」
「あくまでも知ってる確率が桜蘭病院より高いだけどなんだけどね」
「じゃあ、いますぐ行こう」
「でも…どうやって行くの?テレポートなんかできないよ?」

すると俺は、春代の右腕を見た。

「このブレスレット…」
「由希さんのだって。ミスティ戦の時にしてたやつだよ」
「白魔法ならテレポートが使えるよな?」
「うん。じゃあ姉さんのブレスレットを外して」

俺は春代のブレスレットを外して、自分の腕にはめた。

「淳希、テレポートする前にこのことをメウルさん達に話そう」
「あぁ。その方がいい」

その後、春代の母のメウルさんと、父のスタイナーさんに事情を話した。

2人共、絶句した。

また、お腹の子をどうするかを相談した。

するとメウルさんが、春代と純平を産んだ日のことを話してくれた。

「私ね、春代と純平を産む時意識不明になったのよ。それでね田所さんの家で養子に純平を出したのよ。ちょうど田所さんの奥さんも妊娠してたけど、夫と俊輔さんが兄弟だったから頼んだらしいわ。私は反対したけど、あの日、私も峠を越すか越さないかの瀬戸際だったから夫に強くは言えなかった」
「そうだったんですか…」
「だけど、春代と純平が産みたかった。だって大切な子ですもの。だから、春代が意識不明のままで子供を産むとしても、助けてあげてね。純平、あっくん」
「はい」

今思えば、メウルさんの言葉があったから、春代の意識が戻らなくても漣を産ませた。

俺の心はかなり複雑だったが、漣に罪はない。



春代が眠ってから3年が経った。

俺は、クリスタルキャッスルの城医になり、純平はクリスタルキャッスル最高執事長兼音楽セラピストになった。

漣は、大きくなって純平に懐いてる。

しかし、純平は結婚したはずの女と離婚したらしい。

どうやら執事長の仕事に熱中しすぎて、嫁さんが我慢できなくなっただそうだ。

当の本人は、涼しい顔している。

「向こうとは見合い結婚だったし、恋愛感情もなかったから未練はないよ」

そんなこと嫁さんが聞いたら、間違なく怒られるに決まってる。

だが、純平はさらにとんでもない発言をした。

「俺さぁ、ジパングに恋人置いてきたんだよ」
「はぁ?お前二股してたのかよ」
「結果的にはそうなる」

すると漣がこう言った。

「じゃあ、その恋人さんに会いにいけばいいじゃないですか」
「ん…。けど向こうも忙しいみたいだし。音信不通だしね」

よし、ならばそいつのところに行かせてやろうじゃないか。

そう思った俺は、城務大臣に相談して純平に長期休暇を与えてやった。

どうやら漣も、日本に行きたそうだ。

俺は2人に日本行きのチケットを渡した。

翌日、2人は日本へ発った。


その日、俺は春代の定期診断をした。

しかし、相変わらず春代は目を覚まさない。

ちなみに俊也の消息も分かっていない。

漣も3歳になったので、そろそろ自分の母親や父親のことを聞いてくる。

春代のことは、理解させるのに時間は掛からなかったが、俊也のことはまるで他人だという顔をされる。

それに、俊也と春代は我が子を抱いたことがない。

このまま春代を放置しては、将来漣にとっても支障をきたす。

純平達が休暇をとったその日から俺は、食べる時と寝る時と急患以外はすべて春代に付き添い、経過のレポートを記し出した。

自分でも信じられないほど、事細かく書いたつもりだ。

しかし、春代の様子は一向もよくならなかった。

そしてさらに3年が過ぎた。

相変わらず春代は目を覚まさない。

また漣も物心がついたので、時折春代を心配して病室に入る。

ある日、漣は俺にこう言った。

「淳希おじさん…」
「ん?どうした漣」
「お母様…寝言を言ってる」
「なんだって」

俺はすぐに春代のもとに駆け付けた。

しかし春代の意識はまだない。

「漣…嘘付いたのか」

彼は首を横に振ってこう言った。

「違う。ちゃんと聞こえた」
「なんて言ってた?」
「えっと…『俊也…ごめんなさい…』って。俊也ってボクのお父様の名前だよね?」
「あぁ。でもどうして春代はそんなこと言ったんだろうな…」
「分からないよ…。でも、お母様はちゃんとそう言った」

漣の言ってた春代の寝言は、最初、1ヶ月に1回の間隔でしか聞こえなかった。

しかし、冬から春に近付くにつれ、その間隔は一週間に1回になり、新年度になると2日に1回寝言を言うようになった。

また、寝言だけでなく動作も時たま見られるようになった。

そして運命の日がやってきた。

その日は、漣の7才の誕生日だった。

漣が初めて自分からプレゼントを受け取らなかった。

何故そんなことをしたと聞けば、彼はこう言った。

「お母様が大変な時期にボクだけが浮かれてはいけないからです」
「でも、今日は漣の誕生日なんだぜ?すこしぐらいはめを外したって構わないじゃないか」

俺がそう言っても、漣は断固としてプレゼントを受け取らなかった。

そして静まり返った夜に、純平と俺は春代の元に向かった。

春代はまだ眠っていたが、今日は様子がおかしかった。

彼女の閉じられた目から、一筋の涙が流れた。

純平はすぐさま春代の手を握った。

「姉さん!!」

彼が叫んだ瞬間、奇跡が起こった。

長い年月眠り続けた春代が、ゆっくりと目を覚ましたのだ。


しかし春代は物憂げな顔をした。

どうやら7年前の事件を自分のせいにしているらしい。

俺達は何度も春代のせいじゃないと言い聞かせた。

しかし、春代は全く俺達の言葉に耳を傾けてはくれなかった。


そして最悪な事態が起こった。

春代は、俺達が眠っている間に聖なる湖に行ってしまった。

散歩なら良かったが、春代はそこに着くと、何かを思い出してしまい倒れて意識を無くしてしまった。

俺は春代のもとに駆け付けた。

すると、彼女の頬はいつもより冷たくて生きている感じがしなかった。


もしかしたら7年間の間に衰弱してるに違いないと思った。

しかし、彼女が眠っている間、俺は毎日点滴を取り替え、状態をレポートに記した時、全く異常は見られなかった。


ならば、どこに支障をきたしたのだと言うのか。

まさか…あのことをまだ引きずっていたのだろうか。

そのことを後日純平に聞くと、こう話してくれた。

「多分、姉さん達はミスティ戦の前夜に聖なる湖に行ったんだと思う。だから、今日姉さんはあそこに行ったんだ。もしかしたら、俊也はここにいるんじゃないかって」
「確証なんてないのに…」
「いや、俊也は時々姉さんに会いに来ている。でも、ここまでは流石に来れないみたい…」
「何故」
「さあね」


その後、春代と俺はそのことで口論になった。

あの日春代は、俺との絶交宣言を言って、自分の部屋に入れないように言われた。


その後、さらに悲劇が起こった。

俺が急患で手を離せなかった日、春代は自殺を図ったのだ。


急いで、春代の落下した現場に向かった。


すると春代は誰かに抱き抱えられていた。

俺はその人物を目の当たりして、絶句した。


もう既に亡くなったと噂された俊也が目の前にいたからだ。

奴は、春代を抱き抱えながらこう言った。

「淳希…春代を頼む」

俺は我慢出来なくなってこう返した。

「ふざけるな!!なにが淳希頼んだだと?春代はな…お前があの時手を握らなかったからこんなにも気を病んで、自殺を計画したんだぞ」
「…手を握らなかったのはな…」

俊也がそう言いかけると、春代は寝言でこう言った。

『俊也…俊也…』

彼女はまだ、奴の名前を呼ぶ。

「春代…」
「お前、どれだけ春代や漣に辛い思いをさせてるか分かってんのかよ」
「漣?」
「お前とこいつの間に出来た子だ。今年で7才になったばかりだ」
「………」
「で、戻る気はないのか」

すると奴の口から衝撃発言がされた。

「妹との約束がある」
「妹?」
「ミスティのことだ。和名はミチル」
「まさか俊也もデーモン一族なのか」
「あぁ。そうなる」
「なら何故、同じデーモン一族であるミスティを倒した?」
「倒せていない。あれはあくまでも生霊だ」
「本体が残っているのか」
「あぁ。俺は妹に罠に掛けられたのだ。それは昔の言葉で言うと『封印』」
「まさか俊也も『封印』されるのか」
「あぁ。だから春代には…」
「会いたかったんだろ。純平から目撃情報が入ってたんでな」
「それもあるが、このことは春代に言わないでくれ」
「分かった。けど漣にも会わないのか」
「会ったところで、なんになる?」

確かに漣は父親の存在には否定的だ。

しかしこのまま会わないなら、これからも会わずに生きていくかもしれない。

それはあまりにも酷過ぎる。

俺はこう言った。

「なら、春代のことも忘れろ。そして俺に譲れ」

すると俊也の目付きが変わった。

「それだけは、断る。春代は俺の女だ」
「春代はお前の所有物なんかじゃねぇ。それに、お前がいなくなったせいで…春代は元の明るい笑顔を見せなくなった。あの春代がだぞ?」

俊也は、悲痛な顔をした。

しかし俺は、奴が許せなくてあの時のことも言った。

春代が拉致された日、俺はどれだけ彼女を心配したかも伝えた。
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