ー宿命ー

□俊也の過去
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俊也が私に初めて話してくれた過去は、凄惨すぎて言葉にならなかった。

彼は、0歳の時から家族に忌み嫌われていた。

そう、俊也は『物の怪の子』と呼ばれていた。

「俺は、誰にも愛されずに20年間生きてきた」

愛情一杯に育った私とは、全く正反対の人生を生きてきたのだ。

後で知った話だが、純平は養子として、田所夫妻に可愛がられた。
しかも実の子、俊也を差し置いて・・・

だから、人もみな信じることが出来なくなった。人一倍感受性豊かだった彼は
自ら心を閉ざすことで人との交流を避けていた。

対照的に人懐っこい純平は、みんなに愛されて気さくな少年に育った。

俊也はいつしか、純平も憎んでしまったのだ。

純平は明るくて太陽のようだったと、俊也が言った。

「でも、俺にとっては邪魔だった」


そして、再会した13年後に続きを話してくれた。

それは私に深く関係していた。

「俺が小学生の時、クラスメイトの奴らにいじめられてて・・・」
「それは、前に聞いたわ」
「続きがある・・・。聞いてくれるか春代」
「いいわよ?」

すると、俊也はゆっくりとこう話した。

「あの時・・・」
「あの時?」
「お前と淳希が漫才の練習をしてる時」
「え!!なんでそんな過去まで・・・」
「俺は、前から春代を知っていた」
「・・・。ということは・・・前から怨んでたの?」
「紅龍の本を読んでからの話だ」
「うん。で、私達は会話したの?」
「した。お前が漫才の練習中断して・・・」
「淳希に怒られたな・・・」
「そうそう、明日が本番なのにな・・・」
「え?てことは同じクラスだったの?」

俊也は頷いた。

「お前は純平とよく似てた。ただ違っていたのは・・・」
「性別?」
「俺の話を聞いてくれた」
「でも、忘れちゃった・・・」
「だから、もう一度話した・・・」

俊也はそう言うと、バルコニーに出た。

私は彼のあとを追った。

「じゃあ、私達は」
「巡り会うために生まれた」
「でなきゃ、あなたは・・・」
「この世に絶望して自殺をしてたかもな」

・・・あのころの私と同じだ・・・

「春代?」

私は涙が止まらない。

「俊也・・・」
「お前も、死にたい時期があったんだな?」
「うん・・・」
「もし、俺が止めていなかったら」
「あなたが生きているのも知らずに死んでいたね」
「・・・春代」

俊也は私の隣でアンニュイな顔をしている。

「お互い救われたんだな」
「そうね」
「でなきゃ、漣も棗も生まれなかった」

夜風が私達のの髪をそよぐ。

「いままで、ごめんなさい」

私達はほとんど同時にそう言った。

「え?」
「・・・」
「お前、俺に何か謝らないといけないことしたのか?」

私は、顔を上げられなかった。

「どうした?」
「私・・・見合いを・・・」
「したのか?」

俊也は彼特有の低い声でそう聞いた。

「した。世間体にも悪いって何度もしたわ」
「お前・・・」
「だから・・・ごめんなさい」
「・・・」
「・・・」

それきり私達は口を聞かなかった。

それまで優しく感じられた夜風が急に冷たく感じてしまった。

すると、純平がバルコニーにやってきた。

「今の話聞いてたけど、駄目だったかな」
「・・・」
「大いにな」
「でもさ、姉さんは片っ端からその人たちを振ったんだ」
「なんだって?」

俊也は、目を見開きながらそう言った。

「だって、俊也達は俺達に内緒で結婚を交わしたらしいじゃない?姉さんはその約束を守りきるために断り続けた」
「春代、本当なのか?」
「約束を破るのはいけないから・・・」
「姉さんって本当に俊也を愛してるんだ」
「・・・・」
「・・・・」
「悪い。今の余計だった?俺邪魔みたいだし、帰るわ」

そう言うと、純平はバルコニーから王室に帰って行った。

「あいつ・・・」

すると、私は崩れ落ちたように座り込んだ。

「春代?」
「ごめん・・・」

私はふとあの頃を思い出してしまった。
すぐに俊也は私を地下室に連れて行った。

『記憶退行・・・』

私はどうやら13年前の悲劇を思い出してしまったのだ。
そのせいで、13年前の記憶に退行してしまったのだ。

「ねえ、俊也くん・・・」
「違う。俺の呼び名は『俊也』だと言った筈だ」
「だって、それを言ったら殺すって言ったのはあなたでしょ?」
「どうして・・・」

俊也ははっとした。

「春代!!」
「え?」
「今は何歳だ?お前」
「20歳よ。それがどうしたのだ」
「やっぱり」

俊也は、私を椅子に座らせた。

「さっきからなに?」
「うん。とにかく一から話しても無理だから、ちょっと我慢しろよ」
「え?」

すると、俊也は私をビンタした。
その拍子で私の記憶が戻った。

「俊也・・・」
「純平から、聞いた。見合いの話になるとすぐに記憶が退行するらしいな」
「え?」
「それと、聖なる湖に1人では行くな」
「淳希から聞いたのね?」
「これは俺の罪なんだと思う」
「違うわ。私が弱かったの!!」
「春代!!」

俊也は私をきつく抱きしめた。

「お前が、そこまで苦しんでいたなんて知らなかったんだ」
「・・・え」
「俺のことで苦しませたなんて・・・」
「・・・」
「俺以上に・・・」
「え?」
「この世に絶望して、お前は・・・」


そっか・・・私、あのころ本当に死にたかったんだ。


「何度も何度も、いるはずのない俺を呼び続けて・・・」
「・・・」
「自分を慰めていた」
「・・・うん」
「だから、もう過去に振り返らないようにしよ?」
「・・・」
「もう、1人で苦しむのはやめて・・・」

治まりかけていた涙が自然と流れ落ちた。

「だから、俺はそれを謝りたかった。決して許されないことだと分かってるけど」
「ううん。もういい・・・もういいから」

私の肩に暖かいものが落ちてきた。
俊也も泣いているのだ。

抱きしめられるたび、安心するのだ。
昔よりもずっとずっと・・・

だから、過去ばかり振り返って悲しまないようにするよ。
だから、今日は一緒に泣こう?

しばらく泣いたあと、私達はお互いを見た。

俊也は涙を流すとよりいっそう綺麗で、惹かれる。
あの時だってそうだった。

「春代・・・」
「どうしたの?」
「ごめんなさい」
「らしくない」
「そうか?」
「うん・・・泣き疲れたしもう寝ようか?俊也」
「あぁ、そうだな」

私達は、ベットに2人で眠った。


俊也、本当に再会できたことを感謝してるよ。
それと、ありがとう。

もう、あの過去には戻らないから・・・

もう、過去ばかり追いかけないからね?

だから・・・
俊也も心配しないでね?
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