ー宿命ー

□モンスター討伐編・操の涙
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由希が2階の部屋に行ったころには、操は既に気を失ってしまったのだ。「言ってしもたんか?」「さっきの話全部聞かれたみたい…」「そうか、迂闊やったな。どうやら、操ちゃんの記憶の奥底で1番凄惨な記憶が彼女の感情を失わせたんやろな」「そうみたい…」すると、由希は本当のことを言おうとした。しかし、6才の透がこのことを理解するのは難しいので、遠回しにこう言った。「透君のお父さんって何してたん?」「急にどうしたの?由希先生」「ちょっと聞きたいかなぁって思って」「僕のお父さんは…」すると、透は怖い顔をした。「アサシンをしていた。みんなの大事な人の命を簡単に切り捨てた…」「そうか。やっぱり憎いんか?」「はい。僕もいつかそうなるか分からないし。孤児院では、それのせいでいじめられたから…」「お母さんは?」「僕が生まれた時に死んだって、お父さんが言った」「そうか、操ちゃんと同じような境遇なんやね」「はい」「でもな、透君は透君のお父さんみたいにはならへん。それはわいが保証したる」「本当?」「あぁ、ほんまや。だから、ちゃんと最後まで聞いてな」由希はそう言うと、前半部分だけ言うことにした。(後半は酷すぎるしな。大人になったら言おう)「実はな、操ちゃんのお母さんはな、透君のお父さんに…」「僕のお父さんに?」すると、由希は透の目を見てこう言った。「銃殺されたんよ…」「それって本当?」「ほんまや。あの事件で操ちゃんのお母さんの死体を見たら銃を撃たれた跡があった」「僕のお父さんが操の大事なお母さんを…」「そうなんよ。だから、操ちゃんが感情を取り戻すと、透君を殺すかもしれんって言ったんや」「…」「この話は酷すぎたみたいやね。しばらく、考える時間が必要みたいやな」「…」すると、由希は去ってしまった。透は崩れ落ちた。「僕にもお父さんの血が流れてる…このことを操が思い出してしまうと、解散どころじゃなくなっちゃう」すると、操がドアを開けてこう言った。「何をやっている?」「なんでもない」「お前の嘘なんかすぐに分かる」「だからなんでもない」操は少し不安になった。「どうした?いつもと様子が違う」「へ?」「いつもならへらへら笑ってるじゃないか」「少しブルーなんだ」「そうか」「お願いだから、1人にして」「訳ありな発言だな」「何も聞かないで…」すると、由希がやってきた。「少し酷な話を透君にしたんよ。少しまいっているみたいやから、そっとしたり?」「…」操は黙って部屋に戻り、ドアを思いっきり閉めた。「怒ってしもたみたいやな…」「先生…」「どないしたん?」「体が苦しい」「さっきの傷に毒が入ってたんか?」「分からない…寒気がする」すると、由希はリビングに透を寝かせた。そして、暖かい毛布をかけてやった。そして、昼食の用意をした。その間、操は不思議に思って、透の元に駆け付けた。「さっきの傷か?」「うん…」「痛いのか?」「痛いより苦しい」「手は握らなくていいか?」「握ってて?」「分かった」操は透の右手を握った。すると、透の右手はかなり冷たいのだ。そして、生気を失い始めている。操はすぐに回復魔法の『ケアル』を唱えた。しかし、彼は一向に良くならないのだ。操は透のシャツを脱がした。すると、透の胸元がじんま疹みたいにブツブツが出来ているのだ。「どうやら、ベビーモスの毒にやられたみたいだな。しかし、どうして私には効かないんだ?」すると、昼食を持って由希はこう言った。「さあな。でも心臓部分の近くにやられたから、血液中に毒が回ってるんよ」「どうすれば、治りますか」「そやね。いったん、中川医師に聞くわな」すると、由希は雅巳に電話をかけた。「もしもし、戸川ですが」「はい、中川ですがどうかなされましたか?」「実は、お宅の御孫さんがベビーモスの毒にやられたみたいなんです」「分かりました。症状を言ってください」「体温の急激な低下、胸部にじんま疹みたいなものができています」「すぐに行きます。場所はブレムスでいいですね」「はい。なるべく急いで来て下さい」由希はそう言うと電話を切った。そして、しばらくすると雅巳と淳希がやってきた。「透は?」「リビングで眠っています」すると淳希がこう言った。「親父、これはマンドマゴラじゃ治らない」「そうみたいだな」「彼は助かりますか?」由希はそう言うと、雅巳はこう言った。「出来ることはしましょう。ただし完治するかは、この子自身の頑張りにかかってます」雅巳と淳希はすぐに2階のベッドに透を横たわらせた。「親父、例のものを」すると雅巳は何かを鞄から取り出した。「ついにこれを使うときが来てしまったんだな」「それは試薬品だろ?どうして今使うんだよ」「時間が限られているからな。それにこの試薬品は誰にも使ったことがない」「ならなおさら危ないじゃないか。透の身にもしものことがあったら示しが付かなくなるぜ!?」「分かってる。とにかくやらねば、ならんのだ」そう言うと、雅巳は水筒の水をコップに入れた。そして、透の口を開かせて、錠剤と水を飲ませた。すると操がやってきた。「透は?」「今、解毒剤を飲ませたからもう大丈夫だ」「そうか…」「私達はこれで、料金は25000ペルーとなります」「身内でも取るのか?」「一応半額なんだが」すると由希がやってきて、お金を払った。そして、淳希達は去ってしまった。「先生…」「どうしたん?」「透のそばにいても、いい?」「うん。ちゃんと看たってな」「はい」すると由希は何かを操に差し出した。「お腹すいたら食べてな」「ありがとう。由希先生」操はそう言うと、由希は依頼主の話を聞きに行った。(悲しい…透が言ってた悲しいは痛い気持ちだな)操の心がズキズキと痛んだ。操は透の手を握った。相変わらず透の手は冷たかった。操は精一杯透の手を温めるために、自分の両手で擦ってやった。(頼むから1人にしないでくれ…)操はそう思った。すると彼女の腹の虫が鳴った。(透の分は置いておこう)すると操はサンドイッチを半分に分けた。そして、その半分だけを食べた。そして、操は透の顔を見た。(本当、見た時から女だと思っていたが、寝顔はさらにそう思わせるな…。私と正反対な顔立ちをしている)すると、操は透の髪に触れた。(綺麗な漆黒の髪だな。私のは亜麻色だが…)次の瞬間だった。由希の怒鳴り声が聞こえた。「今日は隊員が怪我してんのや!」「それはお宅らのミスでしょ?依頼は受けてもらいますからね」「わいらを何やと思ってはるんか知らんけど、あんたらのロボットやないねんよ!?」「ふん。モンスター討伐するしか価値を見出だせない輩のくせに」すると、頬を叩く音がした。「今日はキャンセルや!!出直してきぃ!」すると、由希は依頼主を追い出したみたいだ。由希は2階に上がった。「すまんな。うるさかったやろ?」「いいえ、でも依頼主と…」「あぁ、今日はキャンセルやって言ってるのに分からんのや」「それとモンスター討伐するしか価値を見出だせないとか言われてたな」「あれは、仕方ないんよ。どうしてもモンスター討伐に関わってる人らは複雑な事情を抱えてるからな」「透も?」「まあな」「でも…なんで断ったのだ」「2人とも本調子やないからよ。無理してまでしてもらいたないからな」「…」「透君は?」「まだ…」「そうか。サンドイッチ残ってるけど…」「透の分」「そか。優しいな」「私は」「優しないって言いたいんか?確かに性格は残酷やけど、優しい性格もあるんとちゃう?」「…」「それに、操ちゃんは透君に出会ったことで何かを得たかもしれん」「…」「今は分からんと思うけど、いつかは分かる。わいはそう信じてるからな」「由希先生は、家庭を持ってる?」「持ってる。美影と美希がおるわ」「似たような名前だな」「でもな、美影はわいの女房やし、美希はわいの娘で冴子ちゃんと同じ年やな」「そうか…幸せなんだな」「そうやね。でも、わいはその幸せはすぐに崩れることも知ってるから」「私達を見て?」「うん。孤児院に行って分かったんよ。みんな不幸そうやしな」「…」「孤児院の話は嫌なんやね」「うん…」「しばらくは、ここにおり」「いいのか?」「いいも悪いもない。操ちゃんがここを出ていくまでいいんやで」「ありがとう」すると、透の手が微かに動いた。「透?」「必死に生きようって思ってるんよ」「こんなに残酷な世界の中で?何に希望を抱いて生きようとするんだ」「こんな世界やから、余計にそう思うんや。操ちゃんは分からんの?」「私は、この世界に絶望している…」「そうやろな。でも、今の操ちゃんは、透君のために必死やったで」「?」「しばらく、わいはモンスター討伐の予約をキャンセルしにいくから、ここにおってな」「あぁ」操はそう言うと、由希はリビングに行ってしまった。「しっかりしろ…」操は透の手を再び握った。「お前、私とパーティー組みたかったんじゃないのか?そうなら、ちゃんと生きてくれよ」操は透の手をギュッと握った。「頼む。感情を取り戻したいんだ。お前がいなければ、私は感情を知らずに一生生きていかなければ、ならんのだぞ」すると、透が操の手を握り返した。「透?」しかし、反応はない。「気のせいか…」操は、透の顔を見た。「透?透…」「…」「頼むから、なんか言え!」「……」「私に感情を教えるって言ったのはお前だろ!?最後まで責任を持てよ!仮にもお前は男だろ?」すると、透が微かな声でこう言った。「操…」「今私の名前を呼んだだろ?そうだろ」「手…」「握ってるぞ?」「操の手、暖かい」その声は驚く程、はっきりとしていた。「お前の手が冷たいからだ」すると、透はゆっくりと目を開けた。「由希先生は?」「モンスター討伐の予約をキャンセルしにリビングに行った」「そうか…」「よく眠っていたな」「そんなに眠ってた?」「約3時間だな」「操…」「心配させやがって!!」「心配してくれたの?」すると、操は透の頬を抓ってこう言った。「当たり前だ。仮にもパートナーなんだろ?私はまだ認めてないけど」「いてて…」「それとな、記憶を取り戻してしまったみたいなんだ」「良かったね」透はそう言いいながら、浮かない顔した。「嫌だったか」「ううん」「まさか、私がお前を殺すかもしれないって言ったから気にしてたのか?」「ううん、気になんかしてないよ」しかし、透の顔は悲しい顔をしていた。「パーティーの解散の話か?」「僕不安だったんだよ!?」「不安?」「せっかく操に会えて、同じパーティーを組めたのに…。操がそう言うから」透はそう言うと、顔を下げた。「…悪かった」「もういい!!パーティーも解散しよう?その方がいいんでしょ!?」すると、操はこう言った。「お前は自分の気持ちしか大切にしない野郎だな。見損なった。お前なんか大嫌いだ!!」操はそう言うと、部屋を出て倉庫部屋に入った。透は病み上がりの体で、操を追った。「操!!」「来るな!お前なんかお前なんか…」「操の気持ち聞かせて?お願いだから!」すると、操はこう言った。「本当は、お前とパーティー組めたの嬉しかった。でもな、お前を許せないとも思った。だからお前を殺さないうちに、勝手にお前から消えようと思った…」「本当なの?」「あぁ。けど、お前が死にそうな顔してた時は悲しかった。悲しい気持ちは分からんが、心がズキズキと痛んだんだよ。それに…お前が感情を教えるって言った言葉が、忘れられなかった。もしかしたら感情を取り戻せるんじゃないかって思った。なのにお前はパーティーを解散するとか言って…正直胸が抉られる気分だった」「ごめん」「もう聞き飽きた」「本当にごめん。もう2度と言わないから」「それも聞き飽きた」すると、透は倉庫部屋のドアを叩いた。 「お願いだから開けて…」「…」「お願いだから…」「今は来ないでほしい」「なんで」透はそう言うと、しばらく沈黙の時間が流れた。そして、沈黙を破いたのは、透だった。「来てはいけない理由を教えて?」すると、操はこう言った。「どうしても聞きたいのか?」「当たり前だよ。ね、教えて?」「…言えない」「どうして?殺気立っているから?」「違う!そんなんじゃない」「じゃあ、何?」「…」「ねぇ、教えてよ。それとお願いだからここを開けて?」「…笑うなよ」「うん」
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