ー宿命ー

□それぞれの想い
1ページ/3ページ

一方、操と透は白ユリの花畑にいた。

「あれを渡して良かったのか?」

「いいんだよ。私はもう銃を使うことはないんだから。それに、あの銃はちと軽すぎた」

「ふうん」

「それにモンスター討伐もやめるし、ジパングに行くんだからな」

「そうだな。明日で本当にすべてが終わるんだな」

「いや、これからそれぞれの人生が始まるんだ。それに、私はお前の妻になる」

「婚姻届けを出すまでは、俺達恋人同士のままだろ?」

「そうだな。ジパングで出すんだろ?」

「もちろん」

「その時から私の名前は、『中川操』になるんだな」

「そうなるな。冴子には言っておけよ」

「分かってる。あいつなら賛成してくれるはずだ」

すると、淳希と操がやってきた。

「起きてたの?伯父さん」

「あぁ、すべて聞いた」

「やっぱり、だめ?」

すると、淳希は頭を掻いた。

「せめて、聖クリスタルスクールを卒業してからにしてくれないか。それに、もう過去のことは気にしていないしな」

「ありがとう。伯父さん」

「操さん、透をよろしくお願いします。頼りないかもしれませんが、幸せにしてやって下さい」

「いいえ、透は充分頼り甲斐のある男です。それに、幸せにしてもらうのは私の方ですから」

冴子がやってきた。

「良かったな。姉貴」

「あぁ」

操はこれまでにないとびっきりの笑顔を見せた。

「後は2人で話しててくれ。冴子さん、俺達はお邪魔虫だから、もう帰ろう」

「うん。姉貴、透さんおめでとう」

そう言うと淳希と冴子は洞窟の中に入ってしまった。

「良かった…。淳希さんに許してもらえて」

「あぁ」

すると、操は座り込んだ。

「ここまでくるのに相当長かったなぁ」

「初対面からは考えられなかったよな。こんなこと」

「そうだな。あの時は完全に敵だと思ってしな。今思うと、すまない気持ちになる…」

風が操の髪を揺らした。

「気にしてなんかいないよ。いつだっけな。操が俺に対して『最高のパートナー』って言ってくれたのは」

「多分、聖クリスタルスクールに入ってからの話じゃないか?あの時はまだ恋愛対象としては、見てなかったからな」

「俺は見てたさ…」


透はそう言うと、操の隣りに座り込んだ。

「いつからだよ!?」

「入学して、お前が女だと分かった時から…。一目惚れとは言わないけど、改めて見たらドキドキした」

「そんなこと言われると調子狂うなぁ…」

「そうなのか?たまにモンスター討伐に身が入らない時もあった」

「スランプ時だろ?まさか、私に恋して身が入らなかったなんて言うなよ」

「図星なんだ…」

「馬鹿じゃねぇの…?」

操は顔を赤らませて顔を反らす。そして、2人は黙り込んでしまった。静寂の中で2人の姿だけを月明りが照らした。そして、切り出したのは透だった。

「じゃあ、いつから俺を恋愛対象として見たの?」

「3年生のダンス大会でパートナーとなった時だよ」

「けっこう最近のことだな」

「あの頃から、お前の背が高くなって男らしくなったんだよ。もうその時はとてもじゃないが言葉交わすのさえ、ドキドキしてたんだからな」

「そういえば、その時妙にぎこちなかったよな」

「あぁ…。それからだんだん恋愛感情が芽生え出してきて、授業にお前がいると集中出来なかった」

「俺も授業中に操がいると、気が気でなかった」

「そうなのか?その時はお互いに気まずかったし、モンスター退治の時だって最低限のことしか、話せなかったしな」

「その2年後の文化祭の後夜祭で告白してきたんだよな?」

「その時私は、浴衣姿だったな」

「『好きだから、付き合え。エセ紳士』だったな」

「まだ覚えてたのかよ、恥ずかしい…」

「強引だけど、嬉しかったよ。エセ紳士さえ言わなかったら」

「仕方ないだろ?私の中では、お前は変態野郎だったんだから」

「どこが変態だったんだよ!?」

「腰に手を回したりしたからだよ。あの時は過剰なスキンシップをとりやがって!クラス中の男女から冷やかされたんだぞ」

「知ってる知ってる。『ラブラブ逆転カップル』だろ?」

「あんときは、死ぬ程恥ずかしい思いしたんだからな!!」

「なら告白しなきゃ良かったじゃん」

「自分の気持ちを隠せる程、大人じゃなかった…。好きなものは好きだから…」

「お前が言わなきゃ、俺が告白してた」

「なんて?」

「『俺の恋人になれ!』かな」

「なんで命令口調なんだよ!?私が告白して正解だったな。もしそんな告白されていたら、お前の命はなかったぞ?」

「そんなに嫌?」

「いやだ。お前のくせに命令口調なんて…」

「たまには命令口調で言いたい時もあるさ」

「そうか…」

すると、透は操の手を握った。

「透…」

操は明らかに照れている。

「操、お前といられて本当に幸せだよ」

「またそんなこと言う!!このエセ紳士」

「本心なんだけどな」

「こっちが恥ずかしい…」

「この傷だらけな操の小さな手さえ、愛しく思うよ」

透は普段より、低い声で言ったので、操はドキドキした。

「それに、好きだと言うとすぐに照れるお前がかわいい」

「他の女にも言ってんのかよ…」

「操でなきゃ言わないさ」

「馬鹿…」

「いつもの乱暴な言葉遣いや、行動さえも愛を感じるから…」

すると、透は操の頬に触れた。

「俺をよく見て?」

操は、ゆっくりと透を見た。操の心臓の鼓動が速まった。

「何?透」

「俺の名前はね、透き通った心を持つようにと、母さんが名付けてくれたんだ。だから嘘もつけないし、うまいお世辞も言えない」

「じゃあ、今のは本心か?」

「あぁ。操はどうして操って名前なの?」

「淑女らしい名前にしたかったんだってさ。まあ私はまるっきり逆に生きてきたけどな」

「本当は、女らしいと思う。けどいままで、自分の身を守るため敢えて乱暴な言動をしてきたと思う」

透に心を見透かされた操はこう言った。

「そうかもな」

「もうその心配はないよ。だから本当のお前を見せてくれ…」

「でも、この私も本当の私なんだ。やっぱり女らしいほうがいいか?」

「お前が嫌なら、無理強いはさせない」

「透…」

「どうしたんだ?」

すると、操は糸が切れたように泣き出した。

「本当の私は、泣き虫なんだぁ…。お母さんが死んだ時も泣きたかった。でも、殺されるのが怖くて泣けなかった」

「そうか…」

「モンスター討伐の時だって、他人に涙を見せたら、軽蔑されると思って泣けなかった」

「なら、ここで泣きなよ」

すると、操はさめざめと泣いた。透はただ彼女の体を抱き締めることしか出来なかった。そして、操は泣きやんだ。

「恥ずかしいなぁ。泣いたの何年振りだろう…」

透はタオルで操の涙を拭った。

「ちゃんと本心言ったね。やっと聞けた…」

透がそう言うと操は頷いた。

「透…やっぱり、好きなんだよ」

「分かってる。俺も好きだよ。ううん愛してる」

「ばあさんになっても?」

「もちろん、そんときは俺はじいさんだな」

そう言うと2人は笑った。

「それまでずっといられるかな」

「もちろん」

「なら、嬉しい」

操はそう言った。すると、透は操のおでこに自分の唇をあてた。

「ん?」

「動かないで」

透はそう言うと、次に彼女の頬にキスをした。そして、操は目を閉じてこう言った。

「唇にはしないのか?」

「するさ」

そう言うと、透はいきなり操の唇に自分の唇を押し付けた。

「んんっ!?」

操は驚きのあまり、声を上げそうになった。しかし、体中の力が抜けてしまった。透はきつく操を抱き締めた。そして、唇を離した。操は半ば放心状態のままだった。

「さっきので惚けたの?」

「いきなり唇を押しつけるからだろ?この変態野郎!!」

「にしては、心地いい顔してたよ?完全に女の顔だった」

「なんか力が抜けてしまった」

「ふうん。いままでそういうことならなかったのにね」

「安心したからだ…」

「そうか…。多分、その先をするともっと惚けるのかな?」

すると、操は透の腹部に鉄拳制裁を見舞った。

「うぐっ」

「てめぇは、本当にどうしようもない変態野郎だな。その先なんてな、双方の合意の上ですんだよ。馬鹿」

「合意してくれる?」

「20まではしてやらない。一応、この意味での操を捧げるのは20からだと決めてるからな」

「そうか。仕方ないな。無理矢理はしたくないからな」

「そうだぞ?あんな、神聖な行為を軽々しくされたくないからな」

「アレのことを『神聖な行為』って言ってんの?」

「お母さんが昔言ってたんだよ」

「ふうん。それまではキスまでだな」

「そうだよ。頼むから寝込みに襲うなよ」

「するわけないだろ?」

「さて、どうだか。お前相当変態だしな」

「本当にしない」

「まぁ、信じてやるよ。ただし、未遂でもしかけたら今度は、股間に鉄拳制裁だからな」

(やっぱり恐ろしい…花嶋姉妹)

透はそう思いながら、頷いた。すると、操はこう言った。

「股間はやばいな。ハルクの時もそうだったけど。まあ、みぞおちぐらいに妥協するか」

(妥協してないし…)

すると、透は話題を変えた。

「先の話だけど、子どもが出来たらなんて名前にするんだ?」

「出来てからにしろよ」

「出来てからだと慌てふためくよ。だから今のうちに…」

「そうだな。男なら『涼』だな。女なら『棗』だな。渋い名前だろ?」

「すごく渋いな。俺なら、男は『彬』、女は『奈津』だな」

「私のより渋いぞ?可愛かったらどうするんだよ」

「俺みたいに?」

「お前なぁ…」

「冗談だよ。可愛くても大人になればそれなりになるんだ。だから、どうこうしなくてもいいんじゃないか?」

「そうか、そうだよな」

「どっち似なんだろう」

「私に似たら男らしくて、お前に似たら、もれなく変態だな」

「もれなく変態!?やんなるなぁ」

「本当のことだろ?」

「否定できないのが、悲しい…」

「まぁ、無理矢理にでも、私似の男にしてやる」

「そうなったら、二重に鉄拳制裁されるな」

「そうだな。大きくなったら、たくましい男になるんだろうな」

「だろうな」

すると、誰かが、2人に駆け寄った。

「誰だ!?」

操は立ち上がって身構えた。だが相手に戦闘の意思はない。

「はじめまして…かな。漣の伯父の徳川純平だよ。だから警戒しないでくれ」

「漣のおじさん?」

「そ。由希さんから連絡が来たんだよ。だから、この笛を渡しにしたんだ。漣は起きてる?」

「はい。今トニー王女と会議してますよ」

「美希ちゃんとだね」

「だから、しばらく待ってみてはいかがですか?」

「そうだな」

操はそう言うと、3人は洞窟の手前の部屋に入った。

「へぇ、なかなか住み心地よさそうなとこだな」

「えぇ。ただ湿気ぽいところが難点ですか…」

「ふうん」

「みんな寝てますから、静かに…」

透はそう言うと、純平は頷いた。

「女王のお兄さんですか?」

「弟だよ。双子の」

「似てないですね」

「むしろ、俊也に似てるからね」

「確かに」

春代が描いた似顔絵も、純平と間違えたぐらいだ。

「姉さん達は?」

2人は顔を曇らせた。

「何かあったの?」

「2人はミスティの手で石化状態に…」

「そうか…。やはりミスティの仕業か?」

「ご存じなんですね」

「あぁ、13年前に一回戦ったんだけどな」

「そうなんですか!?」

「確か浄化されたはずだったけど、本体が生きてたのか」

「…」

すると、漣がやってきた。

「会議は済んだのか?」

透がそう言うと、漣は頷いた。

「純平伯父様!!」

「漣!助かったのか?」

「はい。心配かけてごめんなさい」

「まぁ、無事だったから良かったよ。それより、これを受け取ってくれ」

純平は、そう言うとホーリーフルートを漣に手渡した。

「これは?」

「新しいホーリーフルートだ。俺のは、古いからな。誕生日に渡したかったが、こんなことがあったからな」

「でも、俺吹けません…」

「なら、美希ちゃんに渡してくれ。あの子なら使える筈だから」

「なら、渡しておきます。伯父様、今日はここで休んで下さい」

「ありがとう」

すると、純平は疲れたのかすぐに眠った。

「美希は?」

「今、合成弾を作ってます。『漣の足手まといになりとうない』って言ってましたから」

「健気だな…美希」

「へ?」

「いやなんでもない」

操がそう言うと、透はこう言った。

「じゃあ俺達も寝るよ」

「寝ずの番変わりますね」

「ありがとう」

「おやすみなさい、2人とも」

漣はそう言うと、洞窟の外に出た。

(静かだなぁ)

すると、美希がやってきた。

「終わったの?」

「うん。なんとか終わらしたで」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ