ー宿命ー
□それぞれの想い
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一方、操と透は白ユリの花畑にいた。
「あれを渡して良かったのか?」
「いいんだよ。私はもう銃を使うことはないんだから。それに、あの銃はちと軽すぎた」
「ふうん」
「それにモンスター討伐もやめるし、ジパングに行くんだからな」
「そうだな。明日で本当にすべてが終わるんだな」
「いや、これからそれぞれの人生が始まるんだ。それに、私はお前の妻になる」
「婚姻届けを出すまでは、俺達恋人同士のままだろ?」
「そうだな。ジパングで出すんだろ?」
「もちろん」
「その時から私の名前は、『中川操』になるんだな」
「そうなるな。冴子には言っておけよ」
「分かってる。あいつなら賛成してくれるはずだ」
すると、淳希と操がやってきた。
「起きてたの?伯父さん」
「あぁ、すべて聞いた」
「やっぱり、だめ?」
すると、淳希は頭を掻いた。
「せめて、聖クリスタルスクールを卒業してからにしてくれないか。それに、もう過去のことは気にしていないしな」
「ありがとう。伯父さん」
「操さん、透をよろしくお願いします。頼りないかもしれませんが、幸せにしてやって下さい」
「いいえ、透は充分頼り甲斐のある男です。それに、幸せにしてもらうのは私の方ですから」
冴子がやってきた。
「良かったな。姉貴」
「あぁ」
操はこれまでにないとびっきりの笑顔を見せた。
「後は2人で話しててくれ。冴子さん、俺達はお邪魔虫だから、もう帰ろう」
「うん。姉貴、透さんおめでとう」
そう言うと淳希と冴子は洞窟の中に入ってしまった。
「良かった…。淳希さんに許してもらえて」
「あぁ」
すると、操は座り込んだ。
「ここまでくるのに相当長かったなぁ」
「初対面からは考えられなかったよな。こんなこと」
「そうだな。あの時は完全に敵だと思ってしな。今思うと、すまない気持ちになる…」
風が操の髪を揺らした。
「気にしてなんかいないよ。いつだっけな。操が俺に対して『最高のパートナー』って言ってくれたのは」
「多分、聖クリスタルスクールに入ってからの話じゃないか?あの時はまだ恋愛対象としては、見てなかったからな」
「俺は見てたさ…」
透はそう言うと、操の隣りに座り込んだ。
「いつからだよ!?」
「入学して、お前が女だと分かった時から…。一目惚れとは言わないけど、改めて見たらドキドキした」
「そんなこと言われると調子狂うなぁ…」
「そうなのか?たまにモンスター討伐に身が入らない時もあった」
「スランプ時だろ?まさか、私に恋して身が入らなかったなんて言うなよ」
「図星なんだ…」
「馬鹿じゃねぇの…?」
操は顔を赤らませて顔を反らす。そして、2人は黙り込んでしまった。静寂の中で2人の姿だけを月明りが照らした。そして、切り出したのは透だった。
「じゃあ、いつから俺を恋愛対象として見たの?」
「3年生のダンス大会でパートナーとなった時だよ」
「けっこう最近のことだな」
「あの頃から、お前の背が高くなって男らしくなったんだよ。もうその時はとてもじゃないが言葉交わすのさえ、ドキドキしてたんだからな」
「そういえば、その時妙にぎこちなかったよな」
「あぁ…。それからだんだん恋愛感情が芽生え出してきて、授業にお前がいると集中出来なかった」
「俺も授業中に操がいると、気が気でなかった」
「そうなのか?その時はお互いに気まずかったし、モンスター退治の時だって最低限のことしか、話せなかったしな」
「その2年後の文化祭の後夜祭で告白してきたんだよな?」
「その時私は、浴衣姿だったな」
「『好きだから、付き合え。エセ紳士』だったな」
「まだ覚えてたのかよ、恥ずかしい…」
「強引だけど、嬉しかったよ。エセ紳士さえ言わなかったら」
「仕方ないだろ?私の中では、お前は変態野郎だったんだから」
「どこが変態だったんだよ!?」
「腰に手を回したりしたからだよ。あの時は過剰なスキンシップをとりやがって!クラス中の男女から冷やかされたんだぞ」
「知ってる知ってる。『ラブラブ逆転カップル』だろ?」
「あんときは、死ぬ程恥ずかしい思いしたんだからな!!」
「なら告白しなきゃ良かったじゃん」
「自分の気持ちを隠せる程、大人じゃなかった…。好きなものは好きだから…」
「お前が言わなきゃ、俺が告白してた」
「なんて?」
「『俺の恋人になれ!』かな」
「なんで命令口調なんだよ!?私が告白して正解だったな。もしそんな告白されていたら、お前の命はなかったぞ?」
「そんなに嫌?」
「いやだ。お前のくせに命令口調なんて…」
「たまには命令口調で言いたい時もあるさ」
「そうか…」
すると、透は操の手を握った。
「透…」
操は明らかに照れている。
「操、お前といられて本当に幸せだよ」
「またそんなこと言う!!このエセ紳士」
「本心なんだけどな」
「こっちが恥ずかしい…」
「この傷だらけな操の小さな手さえ、愛しく思うよ」
透は普段より、低い声で言ったので、操はドキドキした。
「それに、好きだと言うとすぐに照れるお前がかわいい」
「他の女にも言ってんのかよ…」
「操でなきゃ言わないさ」
「馬鹿…」
「いつもの乱暴な言葉遣いや、行動さえも愛を感じるから…」
すると、透は操の頬に触れた。
「俺をよく見て?」
操は、ゆっくりと透を見た。操の心臓の鼓動が速まった。
「何?透」
「俺の名前はね、透き通った心を持つようにと、母さんが名付けてくれたんだ。だから嘘もつけないし、うまいお世辞も言えない」
「じゃあ、今のは本心か?」
「あぁ。操はどうして操って名前なの?」
「淑女らしい名前にしたかったんだってさ。まあ私はまるっきり逆に生きてきたけどな」
「本当は、女らしいと思う。けどいままで、自分の身を守るため敢えて乱暴な言動をしてきたと思う」
透に心を見透かされた操はこう言った。
「そうかもな」
「もうその心配はないよ。だから本当のお前を見せてくれ…」
「でも、この私も本当の私なんだ。やっぱり女らしいほうがいいか?」
「お前が嫌なら、無理強いはさせない」
「透…」
「どうしたんだ?」
すると、操は糸が切れたように泣き出した。
「本当の私は、泣き虫なんだぁ…。お母さんが死んだ時も泣きたかった。でも、殺されるのが怖くて泣けなかった」
「そうか…」
「モンスター討伐の時だって、他人に涙を見せたら、軽蔑されると思って泣けなかった」
「なら、ここで泣きなよ」
すると、操はさめざめと泣いた。透はただ彼女の体を抱き締めることしか出来なかった。そして、操は泣きやんだ。
「恥ずかしいなぁ。泣いたの何年振りだろう…」
透はタオルで操の涙を拭った。
「ちゃんと本心言ったね。やっと聞けた…」
透がそう言うと操は頷いた。
「透…やっぱり、好きなんだよ」
「分かってる。俺も好きだよ。ううん愛してる」
「ばあさんになっても?」
「もちろん、そんときは俺はじいさんだな」
そう言うと2人は笑った。
「それまでずっといられるかな」
「もちろん」
「なら、嬉しい」
操はそう言った。すると、透は操のおでこに自分の唇をあてた。
「ん?」
「動かないで」
透はそう言うと、次に彼女の頬にキスをした。そして、操は目を閉じてこう言った。
「唇にはしないのか?」
「するさ」
そう言うと、透はいきなり操の唇に自分の唇を押し付けた。
「んんっ!?」
操は驚きのあまり、声を上げそうになった。しかし、体中の力が抜けてしまった。透はきつく操を抱き締めた。そして、唇を離した。操は半ば放心状態のままだった。
「さっきので惚けたの?」
「いきなり唇を押しつけるからだろ?この変態野郎!!」
「にしては、心地いい顔してたよ?完全に女の顔だった」
「なんか力が抜けてしまった」
「ふうん。いままでそういうことならなかったのにね」
「安心したからだ…」
「そうか…。多分、その先をするともっと惚けるのかな?」
すると、操は透の腹部に鉄拳制裁を見舞った。
「うぐっ」
「てめぇは、本当にどうしようもない変態野郎だな。その先なんてな、双方の合意の上ですんだよ。馬鹿」
「合意してくれる?」
「20まではしてやらない。一応、この意味での操を捧げるのは20からだと決めてるからな」
「そうか。仕方ないな。無理矢理はしたくないからな」
「そうだぞ?あんな、神聖な行為を軽々しくされたくないからな」
「アレのことを『神聖な行為』って言ってんの?」
「お母さんが昔言ってたんだよ」
「ふうん。それまではキスまでだな」
「そうだよ。頼むから寝込みに襲うなよ」
「するわけないだろ?」
「さて、どうだか。お前相当変態だしな」
「本当にしない」
「まぁ、信じてやるよ。ただし、未遂でもしかけたら今度は、股間に鉄拳制裁だからな」
(やっぱり恐ろしい…花嶋姉妹)
透はそう思いながら、頷いた。すると、操はこう言った。
「股間はやばいな。ハルクの時もそうだったけど。まあ、みぞおちぐらいに妥協するか」
(妥協してないし…)
すると、透は話題を変えた。
「先の話だけど、子どもが出来たらなんて名前にするんだ?」
「出来てからにしろよ」
「出来てからだと慌てふためくよ。だから今のうちに…」
「そうだな。男なら『涼』だな。女なら『棗』だな。渋い名前だろ?」
「すごく渋いな。俺なら、男は『彬』、女は『奈津』だな」
「私のより渋いぞ?可愛かったらどうするんだよ」
「俺みたいに?」
「お前なぁ…」
「冗談だよ。可愛くても大人になればそれなりになるんだ。だから、どうこうしなくてもいいんじゃないか?」
「そうか、そうだよな」
「どっち似なんだろう」
「私に似たら男らしくて、お前に似たら、もれなく変態だな」
「もれなく変態!?やんなるなぁ」
「本当のことだろ?」
「否定できないのが、悲しい…」
「まぁ、無理矢理にでも、私似の男にしてやる」
「そうなったら、二重に鉄拳制裁されるな」
「そうだな。大きくなったら、たくましい男になるんだろうな」
「だろうな」
すると、誰かが、2人に駆け寄った。
「誰だ!?」
操は立ち上がって身構えた。だが相手に戦闘の意思はない。
「はじめまして…かな。漣の伯父の徳川純平だよ。だから警戒しないでくれ」
「漣のおじさん?」
「そ。由希さんから連絡が来たんだよ。だから、この笛を渡しにしたんだ。漣は起きてる?」
「はい。今トニー王女と会議してますよ」
「美希ちゃんとだね」
「だから、しばらく待ってみてはいかがですか?」
「そうだな」
操はそう言うと、3人は洞窟の手前の部屋に入った。
「へぇ、なかなか住み心地よさそうなとこだな」
「えぇ。ただ湿気ぽいところが難点ですか…」
「ふうん」
「みんな寝てますから、静かに…」
透はそう言うと、純平は頷いた。
「女王のお兄さんですか?」
「弟だよ。双子の」
「似てないですね」
「むしろ、俊也に似てるからね」
「確かに」
春代が描いた似顔絵も、純平と間違えたぐらいだ。
「姉さん達は?」
2人は顔を曇らせた。
「何かあったの?」
「2人はミスティの手で石化状態に…」
「そうか…。やはりミスティの仕業か?」
「ご存じなんですね」
「あぁ、13年前に一回戦ったんだけどな」
「そうなんですか!?」
「確か浄化されたはずだったけど、本体が生きてたのか」
「…」
すると、漣がやってきた。
「会議は済んだのか?」
透がそう言うと、漣は頷いた。
「純平伯父様!!」
「漣!助かったのか?」
「はい。心配かけてごめんなさい」
「まぁ、無事だったから良かったよ。それより、これを受け取ってくれ」
純平は、そう言うとホーリーフルートを漣に手渡した。
「これは?」
「新しいホーリーフルートだ。俺のは、古いからな。誕生日に渡したかったが、こんなことがあったからな」
「でも、俺吹けません…」
「なら、美希ちゃんに渡してくれ。あの子なら使える筈だから」
「なら、渡しておきます。伯父様、今日はここで休んで下さい」
「ありがとう」
すると、純平は疲れたのかすぐに眠った。
「美希は?」
「今、合成弾を作ってます。『漣の足手まといになりとうない』って言ってましたから」
「健気だな…美希」
「へ?」
「いやなんでもない」
操がそう言うと、透はこう言った。
「じゃあ俺達も寝るよ」
「寝ずの番変わりますね」
「ありがとう」
「おやすみなさい、2人とも」
漣はそう言うと、洞窟の外に出た。
(静かだなぁ)
すると、美希がやってきた。
「終わったの?」
「うん。なんとか終わらしたで」