ー宿命ー

□つかの間の休日・操の過去
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朝が来た。操は、早めに起きて窓を見た。しかし黄砂で視界が全く見えないのだ。

(これでは、行けないじゃないか)

すると、透も起き出した。

「この調子だと、1日ここでとどまらないといけないかな」

「起きてたのか」

「おはよう、操」

「あぁ」

「昨日さ、俺のおでこにキスしなかったか?」

すると、操は何事も無かった様に、無視した。

「おかしいな」

透がそう言うと、操はやけになって、こう言った。

「した。したとも。して何が悪い」

「悪くないさ。むしろ嬉しかった」

「なら、いい」

操は、そう言うとカーテンを閉めた。

「あれ?服は?」

「さあね」

すると、メイドがやってきた。

「みなさんの衣類はすべて洗濯しましたよ。着替えはクローゼットの中にあります」

そう言うと、メイドは去っていった。

「仕方ない。着替えるか。お前は外で待っていろ」

「分かったよ」

透はそう言うと、和室の外に行った。その間に操は下着の上に服に着替えた。

(足が妙にスースーするな。ワンピースなんか何年かぶりだ)

「いいぞ」

操がそう言うと透が和室に入った。

「どうだ?」

「ワンピース姿なんて珍しいね。でも亜麻色の長い髪によく栄えるね。似合ってるよ」

透は笑顔でそう言うと、操は照れ笑いした。

「お前も着替えろよ」

「そんな格好なんだから、男言葉やめろよ」

「…うん」

そう言うと、操は和室の外に行った。透も衣服に着替えた。

(ブラウスか。着心地いいな)

そして、着替え終わった透は寝癖を櫛で直して、操を呼んだ。

「透、ブラウス着たことない?」

「へ?」

「ボタンが1つずれてる」

鏡を見るとまさしくその通りだった。透が慌ててボタンを外した。

「たくっ本当にしょうがないな」

操は、透のブラウスのボタンを手早くとめた。

「よし」

「操?外で化粧してたの?」

「手洗い場で」

「初めてしたから慣れてないんだ」

確かに操ほどの年の女の子なら、ほとんど化粧したことがあるだろう。しかし、彼女の場合モンスター退治という激務があったため、どうしても出来なかったのだ。

「お前に渡したいものがある。昨日渡しそびれたやつだ」

操はそう言うと、小さな袋を透に渡した。

「開けていい?」

「もちろん」

透は、袋を開けた。すると懐中時計が中に入ってた。

「お前の好みは、分からん。とりあえずそれにした」

「ありがとう。すごく綺麗な時計だ」

「気に入ったか?」

「とてもね」

「そうか」

「それより、みんなはどうしてるのかな」

そう言うと、透は懐中時計を首にかけた。

「行こうか」

2人は布団を押し入れに片付けて、王室に向かった。すると、由希と美影が待っていた。

「2人ともおはようさん」

「おはようございます」

「あの、この服は…」

「美影が見立ててくれたやつや。昨日のお詫びらしんやて」

「昨日はごめんなさいね」

「いえ、もう気にしていませんから」

すると、美希とマリアがやってきた。

「操さん綺麗」

「そうか?ありがとう。2人とも可愛い」

美希は、ヒラヒラのワンピースを着ていて、マリアは、白いスマートなワンピースを着ていた。

「冴子達はまだ寝てるのか?」

「起きたんですけど、そこから喧嘩が勃発してしまったんです」

「なんで?」

「冴子さんが言うには、どうしてハルクと同室なのかと」

「それでハルクは?」

「『昨日は、何も言わなかったじゃないですか』って」

「どっちともなく、喧嘩が始まったわけだな」

「俺が止めに行く。操はここにいろ」

「でも…」

「せっかく綺麗なワンピース着てるし、綺麗な顔してるんだから、台無しにしたくないんだよ」

そう言うと、透は真ん中の部屋に行った。すると、ハルクが彼に助けを求めた。

「ざえござぁんにごろざれるぅ〜」

つまり、ハルクは冴子に首を絞められているのだ。透は失笑した。

「てめぇが同じ部屋私と寝るからだー!!1000年早いわ」

「冴子。落ち着け」

透がそう言うと、我に返ったのか冴子は、ハルクから離れた。

「同じ部屋になったのは、成り行きだろ?それを嫌がるのは、いけないと思うよ」

透がそう言うと、冴子がこう言った。

「でもこんなボンクラ野郎と寝てたなんて、身の毛もよだつような感じですよ」

「何か、されたのか?」

透が、そう言うと冴子は彼の耳元でこう言った。

「ボンクラ野郎が、寝言で『冴子ぉ〜好きだぁー』って言ってきやがったんですよ」

(あちゃー寝言で告白されたのか。気の毒に)

「まぁ、それはお気の毒に。とにかく着替えなよ。みんな王室で待ってるし」

「分かりました」

そう言うと、ハルクと透は外に出た。

「なんでハルクまで外に出るんだよ」

「あいつ、着替えてる時に俺が一緒の空間にいると、有無を言わさず『地獄の鉄拳制裁』をするんですよ。1度受けた時は、三途の川が見えそうでした」

(恐るべし冴子…。操より数倍恐ろしいやつだ)

透は内心そう思った。

「出来たぞ」

すると、ハルクが中に入った。

「それ男もんじゃないですか」

「確認してみたが、どちらも男もんだったぞ。まあ女もんよりは動きやすいが」

「着替えますから、先行ってて下さい」

「分かった。1分以内に着替えて、王室に来なければ、無理矢理覗くからな」

「分かりましたよ」

(なんて横暴な女なんだよ)

ハルクは死んでもそんなことは、口に出来なかった。そして、冴子は王室に行った。ハルクは、急いで衣服に着替えた。そして、ダッシュで王室に行った。

「ちっ。間に合いやがったか」

冴子は舌打ちしながら言った。

「当たり前でしょ」

「ふんっ」

すると、由希が料理を持ってきた。

「さて、今日は冷やしそうめんや」

「冷やしそうめん?」

操が不思議そうな顔をして言うと、美希が説明した。

「ジパングで、夏によく食べる麺類の1つです。太さは、様々ですが、スパゲティよりは細いですね。そして、そうめんを麺つゆにつけて食べるんです」

「なるほど」

「じゃあ、いただきます」

7人は、そうめんを食べ始めた。

「ジパングにはこんな冷たい麺があるんだな」

「他にもな、ジパングにはうどんや蕎麦やきしめん、中華麺があるんよ」

「そうなんですか。ところで今日は、どうして黄砂が吹いてるんですか?」

「それはな、定期的に起こることなんよ。今日は視界が悪いさかい、外には出たらあかんよ」

「はい」

そうめんを食べ終えた美希は、美影の寝室に向かった。

「おかん、春代おばちゃんの調子はどうなん」

「昨日の火山で、火山灰を沢山吸ってしまったらしいの。しばらくは安静が必要ね」

「そうか…」

「それに、精神的にもかなり傷ついているからね。可哀相に、大切な人を2人も失って…」

「まだ失ったわけちゃうやん。そら、ミスティに奪われたかもしれへん。でもな、私らがちゃんと奪い返すから」

「ありがとう。美希。でも無理しないでね」

「分かっとる」

すると、美影があるものを美希に渡した。

「これは?」

「彼女の、旦那様の似顔絵よ。すごく忠実に描けてるでしょ」

美希は、俊也の絵が描かれた画用紙を見た。彼の目は、海の様に深い碧色をしていて、どこか哀愁に満ちた表情をしていた。

「この人が、漣のおとんなん?」

「そうよ。本当にミステリアスな人だったわ」

「おかんは、この人んこと知ってんのか?」

「えぇ、彼とは同じ大学だったからね。今クリスタルキャッスルにいる純平君に似た顔をしてるわ」

「純平さんは、もっと明るい顔してるし、この人の様な碧色の目ちゃう」

「そうね…」

すると、春代が起きた。

「おばちゃん大丈夫か?」

美希がそう言うと、春代は咳込んだ。

「ゴホッゴホッ」

「まだ灰が体の中に残ってるみたいね」

「美希ちゃん…」

「どうしたん?おばちゃん」

「漣とあの人を助けてあげて…。生憎私は、動けないの」

春代はそう言うと、美希は彼女の手を両手で握ってこう言った。

「分かっとる。もちろん助けたる。だから、おばちゃんもはよう元気になりや」

「ありがとう」

「そうや。朝ご飯そうめんやったから、食べるか?」

「そうめん?」

「うん。今作ってきてあげるから」

美影がそう言うと、キッチンにあった残りのそうめんを茹でた。その間、春代は美希にオルゴールを渡した。

「私が、持って来れたのは、これだけなの。あとのは、全部火山によって焼けてしまったわ」

「開けてみてもええか?」

「うん。随分古ぼけたオルゴールだから、音が少しなくなってるかもしれないけど」

春代はそう言うと、美希はオルゴールの箱の蓋を開けた。すると切ないメロディが流れた。

「この曲何て言うん?」

「『初恋の歌』よ。昔、リリアンじいちゃんと樹里ばあちゃんが、映画で臣下と王女を演じた時に、主題歌として作られた曲なの。じいちゃんが大変この曲を気に入って、オルゴールをつくっちゃったの」

「でも、どうしてこんな切ないん?もっと明るいのにしたらええのに…」

「だって、臣下と王女は結ばれてはいけない関係だったからだよ。この曲調は、王女の切ない恋心を元にして作られたの」

「そうなんか」

「だからさ、美希ちゃんも誰かに恋したときは、これを聞いてほしいの」

「分かった」

すると、美希がそうめんを持ってこう言った。

「後は、私が看病するから、美希はみんなの所に行きなさい」

美希は頷いて王室に行った。

「何、その紙」

マリアがそう言うと、美希はこう言った。

「漣のおとんの似顔絵や」

美希はみんなにその紙を見せた。

「かなり美形ですね〜」

「漣は完全にお母さん似だな」

「こっちに似てたら、モテモテだっただろうな」

「今でも、充分彼はモテているぞ。それに、これは何年か前の似顔絵だろ?」

「そうですね。しかもどうしてこんなに、哀愁が漂っている顔なんか描いたんでしょうね」

「それは、描き手が、相手の表情をありのままに写し取ったからじゃないか?」

「奥が深いんだな」

「これを参考にして探せばいいんだな」

「そうだな」

6人は、画用紙に書かれてる2つの名前を、発見した。

「ローマ字の筆記体で書かれてるな。えっと上の方は『Haruyo.T』下の方は『Syunya.T』か。多分描き手の方が、春代さんだな。でも『しゅんや』って誰のことなんだ?」

「漣の父親の名前です」

「名字は?」

「春代おばちゃん曰く『田所俊也』です」

「田所俊也?あの稀代のダークナイトの本名じゃないか」

「知ってるのか?透」

「俺の父親が1回彼を見たんだよ。かつてない程、冷酷で鋭利なまなざしをしていた男だと聞いた」

「それが蓮の父親だと!?」

操がそう言うと、美希は頷いた。

「漣の性格はどちらかと言うと、父親似です。冷酷さはないですが、冷めてるんです」

「もしかしたら、ミスティよりも厄介な存在になるな」

「それはどうしてですか?」

「封印された期間が長いと本来の力が、トランス状態のままになるんだ。もし、封印を解けば、13年前の悲劇が起こるかもしれない」

透が深刻な顔をして言った。

「パーティーの中で敵うやつは、いるのか?」

操はそう言うと、透は顔を横に振る。

「正直みんなで力を合わせても、敵わない。何故なら彼は『ダークナイト』かつジョブレベルは70を超えるからだ」

「ななななな70!?」

操は驚きのあまりそう言ってしまった。他の4人は絶句してしまった。

「しかも『ダークナイト』は『パラディン』と同じ最高階級のジョブだ。そのジョブでレベル70を越すことは、即ち並のジョブのレベルが100に達したとして、束になってかかっても、倒せる確率は低い。ましてや俺達なんかじゃ無理なんだよ」

「彼を倒せる奴はいないのか?」

「今の時点では、誰も彼を倒せはしない」

それを聞いた5人は、愕然とする。

「あるとすれば、クリスタルの持ち主ぐらいだろう」

「私!?」

「美希は、無理だ。昏きクリスタルでは敵わない。それに彼は確実に紅きクリスタルを持っている」

すると、美希がこう言った。

「残りのクリスタルの持ち主が、唯一敵う相手ですか?」

「そうだ。白きクリスタルの持ち主だけだ」
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