一次創作(オリジナル)小説


□冥府の魔女と狼の執事 5
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冥府の魔女と狼の執事
‐5.子守唄の御伽噺



 ――子守唄代わりの、御伽噺なんていかがでしょうか?




 ある時、冥府を司る神様がいました。


 神様は、妹君である『ハートの女王』に仕事を押し付けて、
自分は人間の世界にやって来ました。

 今まで死んだ人間しか見たことが無い神様にとって、
生きた人間の生活というものはとても新鮮に感じたのです。

 神様は山に自分の家を建てました。
広くはないけれど、神様が大好きな物が沢山詰まった家です。


 でも、神様には一つ困ったことがあったのです。

 神様は人間には無い魔法で、色んなものに命を宿すことが出来ます。
しかし、生きていく上で必要な心が無いのです。
神様が何をしても、何の反応を返さない……。


 神様は困りました。
やっと自由を得ても孤独のままでは冥府にいた方がマシだと思っていました。


 月日が流れて、神様は人間達に魔女と呼ばれるようになりました。
魔女となった神様は、魔女は魔女でも良い魔女と悪い魔女を演じて、
多くのお姫様を助けることにしました。


 そんな時です。神様は一頭の狼と出会いました。


 神様はそんな狼を大層気に入り、自分の物にしました。

 狼もまた、神様のことが好きになり、神様に仕えることを快く思っているのです









「リゥル……」

 神様の呼びかけに応じて、狼の執事が物音を立てずにそっと歩み寄る。
彼女が体を休めるベッドに跪き、差し伸べられた手を優しく握る。

「ここに居ますよ、ヘル様。いかがなされましたか?」

「眠れん。何かしろ」


「何かと申されましても……」

 執事は思考回路を全開に活用しても良案など思い浮かばない。
どうしたものかと困惑して、暫く首を傾げる。


 漸うと執事はあぁ、と言葉を漏らす。

「ご安心下さい。安眠できる方法がありましたよ」


「本当か?」
 訝しげに聞き返す神様に、執事はハイ、と笑顔で頷く。

 それでも暗闇の中で見える彼女の表情は、未だ信じられないと語っていた。



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