一次創作(オリジナル)小説
□冥府の魔女と狼の執事 2
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冥府の魔女と狼の執事
‐2.山羊庭師の保護
魔女の屋敷は神聖な雰囲気を漂わせて山の麓に静かに座していた。
屋敷と言ってもヘルは狭いほうが落ち着くと言って、
個室が連なって部屋を直接移動できる構造にしている。
設けた二階も狭く、部屋というよりは景色を眺めるテラス専用のスペースだ。
魔女が育てるラプンツェルは、そんな屋敷の裏庭に小さな畑を作っていた。
ラプンツェルは別名・ノヂシャと呼ばれる植物の一種。]
若葉が主に食用として扱われ、妊婦が食べるのに良いという噂もある。
若葉から育てば小さな蕾から青白い花が咲く。
紅い華しか咲かない冥府においては、ラプンツェルは珍しい植物だ。
ヘルは一目で惚れた。
こちら側に来て早々、ラプンツェルの種を買って裏庭に植えた。
冥府の仕事を放置してからは全てにおいて怠慢になっていたが、
ラプンツェルの水遣りだけば自分の手でやり、絶対に怠らなかった。
「今年はまともな収穫が期待出来るな」
茨の棘に気をつけながら、
茨の茎や雑草を掻き分けてラプンツェルの若葉を丁寧に採る。
「ヘル様、やはり私が――!」
「お前だと我が可愛いラプンツェルを乱暴に採りかねん。
今回は絶対に譲らんからな」
リゥルはヘルの隣にちょこんと座り、ラプンツェルの若葉を入れる籠を持つ。
主人に怒られ、犬宜しくしゅんとうな垂れるリゥル。
先ほどとは打って変わり、落胆的な雰囲気の中に確固たる反省の色が出ていた。
「なら、このラプンツェルで我が空腹を満足させられる最高の料理を作れ。
我はお前以外が作った料理など食べたくはないからな」
ぶっきらぼうに告げ、次々とラプンツェルの若葉を籠の中に放る。
弾かれたように顔を上げたリゥルが驚いたように瞠目するのが見えた。
すぐに嬉しそうに微笑み、はい、と大きく頷く。
「というか、お前料理しか出来ないんだから、執事よりも料理長でいいんじゃないか?」
すると嬉しそうに微笑んでいたリゥルの顔色が、一瞬にして険しいものへと変わる。
「絶対に嫌です! 私は四六時中、ヘル様の傍にいたいのです!」
「ストーカーか、お前は」
「酷い! それほど、ヘル様を慕っているのです!
ヘル様の後をつけ、ヘル様の芳しい香りを嗅ぎながらベッドの整理をしたり、
他は――」
「もう言うな。今度は茨でその首を絞めるぞ、この変態ストーカーが」
予想だにしていなかったリゥルの返答に身の毛がよだつ。
ぞわりと嫌な寒気が背筋を中心に全身に走った。軽く身震いがする。
まったく、と口の中で文句を並べながらラプンツェルの若葉を刈り取る。
――ふと、手にした若葉に何気なく視線を落とす。
途端にその若葉を落としそうになった。
大きな若葉は端が欠けていた。
自然的な欠け方ではなく、微かに歯形らしき痕が見える。