一次創作(オリジナル)小説


□ダークナイト 第2楽章
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   第2楽章 遊戯の円舞曲



 ――肩透かしをくらったとは、まさにこの事だと思う。


(やっぱり異界とはいえ、この程度か……)

 王城を護っていた結界はシャドルクが牙を立てただけで脆く崩壊した。
一部分だけとはいえ軽く走った亀裂が崩壊の切っ掛けになったのだ。


「やあ、おはよう」
「あら、おはようございます」

 すれ違う兵士達に愛嬌のある笑顔を向けて朝の挨拶を交わす。


 難なく王城に侵入したラーズは変装術を用いて侍女に成りきっていた。

10歳の頃は元々高い声だった為に成人男性に化けない限りは声色を変えなかったが、
20歳の体となっている今は声帯に意識しなければならない程低くなっていた。

面持ちはどちらかと言えば女性向けに整っているので、あまり手を加えずに済む。
華奢な体格と長身は、すらっとした女性像という効果を生み出してくれる。


 そして上手い具合に侵入して間もなく、
朝食作りに取り掛かっていた料理長から声が掛かった。


『すまないが、この料理を王子に届けてくれないか?』


 綺麗に盛り付けられた豪奢な料理が乗った台車を指し、
そう言った料理長の言葉をラーズは考える間もなくすぐさま了承した。

 新人なので王子の部屋が分からないんです、と
行き交う兵士達に声を掛ければ彼らは親切に教えてくれた。

 王城は上階に行くにつれて、位の高い者達が住む部屋が並んでいる。
何層にも分けられて作られた階上は次第に部屋の個数が減る。
最上階に関しては展望台を抱えた王子の部屋が一室あるだけだ。

 ただ、地上1階から王子の部屋がある13階の最上階まで
階段を用いて台車を運ぶことは出来ないので、階段の傍らに台車用の昇降機があった。

魔術製とはいえ、ここまでの技能はあるらしい。



 最上階の13階に着き、予め昇降機に乗せてあった台車を引き出す。

「それにしても妙だね……」

 訝しげな顔をして呟く彼の影が微かに動く。
彼の影に身を潜めるシャドルクが、何がだ、と問いかけて来た。


「ここにはそれ程強い魔力を持った人間はいなさそうだ。
あの結界を施した術者が王子自身だというならば、
破った時点で何かしら仕掛けてくるかと思ったんだけど……」

 城を徘徊する兵士達が活発に動き出す時間帯ではあるが、
彼らからは警戒心が感じられなかった。

逆にのんびりとした様子に虚を衝かれたぐらいだ。
一目だけで、この世界がいかに平和なのか理解出来た。


「単純に気付いていないのか。または、あえて誘っているのか……」

 明らかに後者だと考える。

常人より少しでも力がある人間ならばその力を嫌がるか、
堂々としているかのどちらかが多い。

――そういう人間ほど鼻っ柱をへし折って、地べたに這いずらせたい。





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