一次創作(オリジナル)小説
□ダークナイト 第1楽章
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「確かにオヒメサマと関わっていない私なら、その結界は突破出来るね。
――いいよ、手伝ってあげる」
考える余地も無く、青年は淡々と承諾の言葉を放った。
「ほ、本当ですか!?」
一同が息を詰める中で亀は興奮気味に青年に再度訊く。
彼はニコリと笑って亀の小さな顔を長い指で撫でた。
「こんな美味しい料理をご馳走されたお礼に、ね。それに――」
言葉を続けようとした青年の顔に一瞬悲愴の色が滲む。
親に置き去りにされた幼子のような居た堪れなさを垣間見る。
「こうした団欒を、私は今まで味わえなかったから……」
消えるような声で呟かれた言葉を何とか拾い上げることが出来たが、
彼の言葉と雰囲気が問い返すことを拒んだ。
亀は黙したまま、もう一度静かに頭を下げた。
+ + + + +
7匹――2匹死んで、今や5匹の動物達が住む屋敷は森の中にあった。
とはいえ、王城を抱える街のすぐ隣に位置するので行くのは容易だ。
自分ならば、尚更。
彼――ラーズは昨日の夜にこの世界に呼び出された。
いらぬ招待状を投げ捨てようかと思ったが、
彼らの屋敷に備わっている鏡を見て愕然とした。
「……やっぱり、成長してる……」
大きな湖を覗き込めば澄んだ水が三日月を浮かべた夜空と共に彼の顔も映し出す。
鼻目立ちが整った面立ちに過去の面影は無い。
邪悪に淀んでいた瞳も、今はただ底なしの闇を浮かべているだけだった。
呼び出される前は少年だった自分の姿が、
今は通常の成長を果たして二十歳の容姿をしている。
ラーズは生まれる前に遺伝子の欠落による成長停止が予知されていた。
父は己が技術の粋を掻き集めて手術を施すが虚しくも失敗に終わり、
誕生して間もなく愛していた筈の息子を惜しみなく捨てた。
そうして独りで20年間を生き続けたラーズだが、彼の成長は10歳の時に止まった。
精神だけ着実に時間を過ごしているのにも関わらず、体は子供のままだった。
恐らくは召喚術のおかげだろう。
無事に通常通りの成長を果たし、大人の自分が確かに存在していた。
「ふふふ……たぶん、元の世界に帰ったらまた元に戻るだろうね」
自嘲気味に笑うラーズの足元で何かが蠢く。
獣の毛並みが、少し大きめのズボン越しに伝わる。
ラーズは水面に写る自分の顔を見ながら、
自分の半身というべき影の色をした獣の頭を撫でた。