一次創作(オリジナル)小説


□ダークナイト 第1楽章
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 厳かな声を言葉に乗せて説明しながら鶴が、
客人の前に自ら腕をふるって創り上げた料理を差し出す。

とはいえ、草食動物達が暮らす屋敷には野菜・果物や穀物しか無いので
食パンに彩りのジャムを添え、前菜はサラダが定番なのだ。


「美味しそうだね。
アナタが作ったんだ、凄く器用なんだね」


 目前に並ぶ料理を見て文句を言わず、寧ろ賞賛の言葉を並べる。

思わず頬を染めた鶴はくるっと踵を返した途端、
部屋の隅で頭を抱えながら座り込んでしまった。

青年は予知せぬ鶴の行動に軽く瞠目する。
視線を亀に向けながら、しなやかな指を鶴に向けて訪ねる。

「どうしたの、あれ」


「ああ見えて鶴は、性格は温厚で優しいんですが、
極度な小心者で初心(うぶ)なのです」

 加えて男女問わず美麗な者から与えられる賞賛の言葉を聞くと、
本人を直視出来なくなるという困った癖がある。

そろそろ直して貰いたいものだ、とひっそりと呟く。

「で、姫が姫じゃなかったという話は?」


「エルジュノエル姫様は数年前に町外れの森で発見されたそうです。
それはもう酷い怪我をしていたそうで、
隣国を視察しに帰って来た国王に拾われて一命を取り留めました」


「成る程、つまりはそのオヒメサマと国王サマ達は血が繋がっていないって訳だね。
で、国王サマの実の子供は悪い悪い王子サマだけ。
下手に隣国からお嫁さんを貰うよりも、
助けたオヒメサマをお嫁さんにしたほうが手っ取り早い」


 青年は一通り自分で考えた推理を述べてから、
いただきまーす、と一言断って鶴が作ったパンに齧り付く。

美味しそうに笑みを浮かべる青年の顔は一瞬だけ少年のあどけなさを思わせる。


 その一瞬後、指に付いたイチゴジャムを舐め取りながら、
漆黒の双眸に妖しい光を宿す。

「私をここに呼び出したのは、そのオヒメサマを助けて貰いたいから?」


 はい、と亀は嘘偽り無く素直な態度で頭を下げた。

「この屋敷に住んでいるのは7匹の動物達でした」

「7匹……」
 呟いて、青年は自分が見える範囲で現在姿を現している動物達を見た。


「あと2匹は……?」

「…………」
 亀は返答に迷った。


 視界の端で仲間達を見遣れば、
それぞれが悲痛な面持ちを浮かべて視線を逸らそうとする。

白ウサギに至っては涙腺が無いにも関わらず泣きそうな顔をしていた。


 意を決して、亀は口を開く。


「……死にました……。
残る2匹……牛とサルは、姫様を助けようとして城に乗り込みました。
しかし、城には結界が施されてあったのです」


「……オヒメサマを助けようとすると発動するもの?
結界は条件がなきゃ成り立たないからね」


「エルジュノエル姫に関わった我々に対する防壁です。
最初に触れたサルが一瞬で焼け焦げ、
次に触れた牛が何とか頑張りましたが、塵すら残さないまま無に帰したのです……」


 今思い出すだけでも、おぞましさに背筋が凍る。

顔が分からないほどに焼け爛れたサルの顔に、
苦悶の叫びを必死に耐えた牛の姿。

エルジュノエル姫を心から愛していた2匹の勇姿は
未だ胸の中で色あせることなく存在している。




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