Novel
□姫条まどかルート
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振り向くと姫条まどかがいました。
逆光でよく顔が見えず表情が良くわかりませんでしたが、教会ということもあり声はよく響きました。
「俺、心の中に本当はむちゃくちゃ寂しがりな子供の自分がおんねん。
でもそういう弱い自分に負けそうになった時、ふと浮かぶのがお前の顔やった」
彼は、親に反抗して家を出てバイトで暮らすうちに一人で生きていける自分を見つけることが出来たけれど
それと同時にまだ親に甘えたかった自分と決裂せねばならなかったのでしょう。
人は自分の弱さや恐怖心、寂しさや怠惰や劣等感等の悪い部分を否定こそすれ
完全に切り捨ててしまうことは決して出来ません。
姫条まどかはもともと弱さを持って生まれ、そしてそれを克服しようという思いから成る強い人間なのでしょう。
そんな彼に「俺とつきおうてくれ!」と言われても私には断る理由がありません。
どうも難しく考えてしまう性質なのですが、つまりはこれからも今まで通りずっと一緒にいるということです。
ようやく戻ってきた思考力で、ここで過ごした三年間の日々の記憶と
これからも変わらず続くであろうこの町での営みと
そこで姫条まどかとこれからもずっと一緒に過ごしていくことをいっぺんに考えてみました。
それはうっとりするほどに穏やかで、体中が心から安堵できる暖かなもので飽和しました。
これを人は幸せと言うのかもしれないなぁ、とぽわぽわする頭で辛うじて認識しながら
四肢の先から溢れてしまう位の幸せの中で彼の言葉に「はい」と返事をしたのでした。
姫条まどかは自分の会社を一から設立するという夢を叶えるための社会勉強として毎日バイトに明け暮れています。
あれほど憎んで嫌っていたのに父親と同じ職業を選択するところが意地っ張りで彼らしいです。
卒業式の日に想像したほど私たちの生活は簡単ではなかったけれど
それでも自分なりに精一杯悩んだり考えたりしてなんとかやれています。
時々、ふと目を閉じてあの時のことを思い出すと今でも体を暖かいものが流れている様な気がします。
これはきっと私の心の中にずっとあるのだろうなと思うと、くすぐったくて一人でクスクス笑ってしまいます。
〜END〜