6学園テキスト

□6 犬とひだまりとはじまりの一歩
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「しーおんっ。今日は久しぶりにご飯一緒に食べない? 学食で新しく発売するパンの試作品、貰ったんだ。その名も“ミルクバターパン”! 学食自慢のコッペパンに、特製ミルクバターを挟んだ自信作だって。パン屋さんの息子の意見を是非聞きたいって、学食長直々のお願いで。ほら、紫苑と私の分と。ふ・た・つ」

「ミルクバター? へーうまそう。おれにもちょうだいよ、会長」

「あんた人の話聞きなさいよね。紫苑と! 私! の分! って言ってるでしょう」

「会長ー? ケチケチしないで、もう一つくらい貰ってきてくれればいいのに。そんなの容易いでしょ。あなたが紫苑を誘うとなれば、必然的に三人での昼食になるって分かってるくせにぃ」

「必然なんかじゃないわよ。その“必然的”とか平気で言えちゃう偏った神仏的考えに、ちゃんと意見を述べる権利を与えてあげるから。残念ながら、拒否権のみだけど」

「なにそれ。拒否だけだなんて、一体どんな主義掲げた国家ですか、沙布王? 拒否権があるなら、ちゃんと反意見も言わせてほしいものですけど? まぁ、手っ取り早く結論を出すのなら。おれがいる限り、紫苑と二人きりなんかにさせませんよ?」

「う、うるさいわね、あんたの賛否なんて聞いてないわよ! 大体ね、いつもいつもいつもいつも紫苑にまとわりつくの、やめなさいよ! いちいち私に微笑むのもやめて。それに、沙布王って。……笑えないわ」

「沙布王について説明してほしい? くす。
沙布王はねー、独裁国家の象徴といっても過言ではない程の、一方的な力を振りかざす人物なの。たった一匹のかわいーい小ネズミの存在すら許せずに、無情で配下に排除を命じるような御方なの。あっ沙布王、この卵ちょーだい」

「あっ! こ、こんの……馬鹿っ!」

「いった! ちょっと沙布王、暴力反対」

「最後に食べようと思って残しておいたのにぃ。意地汚いドブネズミが!」


もくもく。
ぱらり。


「だって卵好きなんだもーん。いいじゃん、別に。明日もサラダ、注文すれば」

「可愛子ぶんじゃないわよ気色悪い。そういやあんた、昨日もそう言って、私のサラダの卵かっさらったじゃない。あー悔しい! こんなことなら、卵に山ほどコショウ振り掛けてネズミ除けしとくんだった。……なによ。また、笑ってるし。私、あんたのその笑顔が嫌いなのよ。私の前で、ニヤニヤ笑わないで」

「へー。珍しい女性がいたもんだ。おれの笑顔を自ら拒むなんて。この世には、望んでも希っても、おれの笑みを受けることができない女性も大勢いるというのに。この世の中に女性は大勢いようとも、おれは一人しかいないから。会長、結構わがままなんですね。くすっ」

「何がわがままよ。自意識過剰にも程があるんじゃないの? 嫌な男。こんな、紙に穴が開くくらい真っ黒に塗りつぶされた奴と、真っ白で他の色を知らない紫苑が一緒に生活してるなんて、何度考えてもおかしいわ。……やっぱりおかしいわよ。理事長に抗議の一つでもして」

「あ、それ。むだむだ。理事長先生はおれのお願いなんでも聞いてくれちゃうんだから。
撫で声出せば、簡単に。抗議なんて、聞き入れるわけないない」

「……あんた、誰彼構わず無節操に誘いをかけてるわけ? そんな軽い気持ちで紫苑にまでちょっかい出してるんでしょう、そうかわかったわ」

「ノンノンノン。何がわかったのやら。会長、おれをなんだと思ってるの。無節操に誘いをかけてるわけじゃないんだぜ。紫苑だけだよ。特別なの」

「ふーん、あっそ。言っときますけど、“何がどう特別なの?”なんて聞いてあげな」

「え? 何がどう特別かって? ふふ、話すと長くなるけど、聞きたいのなら仕方ない」

「ちょっと! あんた、人の話は最後まで聞きなさいよ!」





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