6学園テキスト

□木枯らし吹こうが
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「すごい…ベタ誉めだ」


先日ネズミにねだって貰った、劇団ルサルカのパンフレット。
そこには、舞台照明の陰影で顔ははっきりしないが、堂々たる演技を披露する“イヴ”の写真。

その下に、週刊誌に掲載されたという記事の、抜粋文が書かれている。



男も女も年齢も関係なく、見る者すべてを虜にし、誰からも一目置かれる存在の“イヴ”。


ぼくの知っているネズミとは、まるで別人のようだ。
何度読んでも、ピンとこない。


「はーぁ…」


俯いていた顔を上げ、ぼくは宙を見上げた。


吐いた息は白く浮かび、ほどなくして跡形もなく消える。
暑い暑いと嘆いていた日々を昨日のように思い出すことができるのに、季節はいつの間にか移ろいゆくものなんだなあ…。


…なーんて、詩人のように考えながら、ぼくは夜空を仰いでいた。



暦の上ではまだかろうじて秋でも、10月下旬の晴れた夜は冷える。
木枯らしが絶え間なく吹いては、首に巻き付けたマフラーの隙間から入り込み素肌を撫でてゆく。
…うう、寒い。




ぼくの頭上には、漆黒と藍色の中間色の夜空。
日が暮れきってからもう数時間経過しているから、自然の光は今や月と星しかない。


空気が冷たく澄んだ夜は、月や星がいつもより瞬いて見える。


あ。


点々と街灯があるだけなのにやけに明るいと思ったら…

…今日は満月なんだ。



少しの欠けもなく輝く月、その周りを取り巻く星――

時間とタイミングが限られる景色を見ることができて、なんだか得した気分になった。







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