6学園テキスト

□僕だけ見てて
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《僕だけ見てて》


***





ある初夏の夜。


風呂に入り歯を磨き、あとは寝るだけの状況で。

おれはベッド(もちろん紫苑の)で雑誌をめくり。
あんたは机で明日の予習なんてしていた。


まったく、授業時間以外にまで勉強だなんて、よっぽど学ぶのが好きなんだなこいつは。
おれはまっぴらごめん。
だから紫苑が終わるまで、こうしてたいして面白くもない雑誌をめくっている。



先日の公演の時に支配人から貰った(自分が読み飽きて、捨てるのが面倒だからおれに回したらしい。しかし、人のプレゼントが入ってる袋に忍ばせるなんて、迷惑・失礼・うざい以外の何物でもない)、お盛んな親父が好むような内容の雑誌。

表紙には、堂々と裸体を晒す女。
中身では、この辺りで評判のキャバクラ、風俗、その他夜を主に営業している店を取り上げている。
付録として、袋閉じのヌード写真。
イチ押し・新人のAV女優の特集。
…などなど。


別に、つまらなくはないけどさ。
でもハニーがいるのに、こんなの見て役立つとは思えない。


一枚ページをめくると、豊満な胸をあらわにしているグラビアが出た。
物足りないような表情を浮かべ、こちらを見つめている。
ふーん、随分立派なもんだな。
推定Fってとこ


「ネズミ!!!」

「ぅわっ!」


ぼんやりしていたらいきなり耳元で叫ばれた。
こんなの、身構えでもしてなきゃ誰だってびびる。



「び、びびった…。
なんだよ紫苑。
お勉強はおしまいか?」



「まだ。
ていうか、まだまだ終わらせたくなくなった。

…ネズミ。
何それ」




何それ。
指差す先には推定Fカップの女。




「いや何それもなにも。

巨乳のグラビア?」



「じゃあ、何。その雑誌」



「この間の公演の後、支配人に無理矢理持たされた。

…くす。
あんた、こういうのに面識ないだろう?
コンビニとかにある、未成年立入禁止コーナー。
あーいうとこにある、風俗雑誌。

ほら、この女。
いい乳してねー?」




そのページを大きく開いて目の前に突き出すと、紫苑は焦って目を逸らした。
…別に、照れることないのに。
男同士なんだから。




「やっ、そんな、見たくないから!!

っ、ネズミの馬鹿っ!

ぼ、ぼくが言いたいのはっ!」




突然雑誌を裏手で叩き落とされた。
予期せぬ行動にぽかんとしていると、勢いよく紫苑がおれの胸倉を掴み上げてきた。


な、なんだ。
どうした紫苑。




「ぼくが言いたいのは…っ、

なんですぐ隣にぼくがいるのに、こんなっ、あからさまな女眺めてるんだ!…っていうこと!
暇潰しでもっ、嫌なんだよ!

はっ、ハニーって、呼んでるくせに…
結局、最終的には女がいいんだ!」




…は?




「ぼ、ぼくが、こんなにまで想っても、やっぱり最後は女を好きになるんだ…。

ぼくは…ぼくは、本気できみを必要としてるのに…




嫌だよ、ネズミ…。

置いて…いかないで…」




…ああ。
だんだん小さくなる声を聞きながら、おれは理解した。
これは、紫苑なりのヤキモチと不安なのか。
こんな紙上の女にまで。
ありもしない未来を勝手に想像して、勝手に不安になって。



おいおい、紫苑。
やばいってやばいって。
そんなこと言われたら、おれ。




「ああーーーもうっ!」




溜息混じりで語尾を荒げた。
怒ってるんじゃなくて、むしろ。
嬉しくて。




「女に戻るなんてありえないっつーの!
こんな、可愛いヤキモチ焼いてくれちゃって」




胸倉を掴んでいる手を優しく覆い、目を細めて紫苑を見た。




「今更女になんて、戻れないんだよ、ハニー。
こんなにおれのこと考えてくれて、愛してくれて、色っぽくて官能的で相性のいい奴を、手放すもんか」


「た、多少ひっかかるけど…。

…でも。




信じてる…。


ずっと…ぼくだけを見てくれ」



「もちろん?

I love you forever honey.

ずっと、離さない」




計算してやってない辺り、さすがというかなんというか。


あの雑誌の巻末にあった色んなラブホ特集、しっかり読んで、今度連れていってやろう。
しっかりと、身体に刻んでやろう。
おれだって、頭がおかしくなる程、あんたを欲しているってこと。









08.09.10*
 

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