6学園テキスト
□季節外れの肝試し
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「あ、教室に忘れ物しちゃった」
夕飯の後片付けをしていた時、紫苑が不意にそう言った。
時刻は、午後八時十五分。
拭き終えた食器を重ねながら、おれはなんとなく素っ気ない態度で返事を返す。
「何? なんか大事なもの?」
「うん。明日提出期限の、専門科目の課題……」
あーあ、やっちまったな。
「あんたが提出期限の近い課題を置き忘れるなんて、一体どういうこと? 珍しい。というより、初めてなんじゃないか?」
「ううーん、多分そうかも。自分でも驚いてる。帰ってから調べようって思ってたんだけど……。まぁ、仕方ない。ぼく、これから取りに行ってくる」
これから?
席を立つ紫苑を、軽い気持ちで茶化した。
――本当に、軽い気持ちだったんだ。
それが、どんな結末をもたらすか、まったく予想していなかった。
我ながら、浅はかだった。
「一人で大丈夫か? 途中、お化けが怖いーなんて泣き出すんじゃないの?」
「む。何言ってるんだよ、もうそんなことで、泣き出す年じゃない」
“もう”ってことは、昔は泣き出したことがあるってことか。
くす。可愛いじゃないの。
そんな風に言い返す可愛い紫苑をいじりたくて、おれは更に続ける。
「さあ、どうだか? 夜の暗さの、人気のない校舎……なんてシュチュエーション、過去を恐怖を振り返るにはもってこいだろう。課題なんて、この際ひとつくらい見送ったら? 提出しなくても、少し評価が下がるだけで死ぬもんじゃないし。そんなことよりさ、」
おれと遊ぼうぜ。
そう言おうとしたおれの口を、紫苑の声が遮った。
有無を言わせないような、強い口調で。
「じゃあ、行こうよ」
「へ」
「もう、お化けなんて怖くない。それを、証明するから。一緒に行こうよ、ネズミ」
うわ。紫苑の奴、目が座っている。
こうなった紫苑は、目的が遂行されるまで二度と意見を覆さない。それを、おれは知っていた。
たく、こんな子供っぽいやりとりに夢中になるなよ。
まあ、おれがふっかけたんだけど。
怒るでもなく、泣くでもなく、ただただ無表情でおれを睨む紫苑。
これも面白いし、可愛いけどね。
まったく、仕方のない子だこと。
「はいはい。じゃあ、付き合って差し上げますよ、王子」
紫苑と暗闇で一緒に居られるのを断る気もなく、おれは軽い気持ちで腰を上げた。
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