6学園テキスト

□4 盲目だけど妄執で
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二年生としての生活が始まる前、突然編入生の受け入れが決まったと、春休みが始まる前、理事長に告げられた。
名前はネズミ。男子。学年は私と同じ、二年生。
新しい生徒が増えるのは一向に構わない。私の口出しできる範疇を越えているから。
特に興味をそそられる事もなく分かりましたと頭を下げようとしたところ、聞き捨てならない言葉を聞いた。
その編入生は、入寮予定で。同学年の紫苑との相部屋を希望している、と。
新しく編入するのに、指名があるの?しかも。あろうことか指名された生徒。
それは、私の愛する人、紫苑。
誰が何をしようと誰に何を言われようと眼中にない私だけれど。
紫苑のこととなれば話は別。
一体どういうこと? 紫苑と面識があるというの?……まさか、ね。
私の知る限りで、そんな謎の男が紫苑に接触したなんてことは聞いていない。
ではなぜ? 何が目的? わからない。
考えてもわからないことは。調べるしかないわね。











「なん、なのよ…これ」


あの手この手を駆使して入手した、ネズミという男の素性。それは私の予想を遥かに上回るものだった。
残念ながら、悪い意味で。


「ここからうちの学校に編入なんて、なんのメリットがあるっていうのよ……」


誰もいない春休みの校内。静まり返った生徒会室で呟く。自分一人の言葉が、やけに大きく感じた。
調べ上げた書類には有名私立校の校名。私の通うこの学園も有名校とはいえ、紙上の学校とは桁違いだ。
何が桁違いって、在籍時にかかる費用が。一般の家庭で支払える高校の授業料の限度額を、軽く跳び越えている。
そのため、私立校に通う生徒は、親が資産家・大手会社社長の令嬢や著名人の御曹子だけだと聞いている。
現に私も、その私立校の年間学費を見て唖然とした。こんな額を支払って高校に通う意味があるのか、とすら思ってしまった。
なんにせよ、同じ高校生だとしても私達とは天地の差。違う世界の人間なのだろうから、関わることはないだろうと。
そう思っていた。……というのに。
こんな形で、関わることになるなんて。一体誰が予想できたというの。
校名以外にも、至るところが目につく。
幼少の境遇、小学生にしては目に余る暴挙、中学時代の激変に高一……昨年の経歴。
その中でも特に気になったのが、「劇団『ルサルカ』の花形役者」というところ。
確かルサルカって……。記憶を辿り、その単語に絡み付く糸を手繰り寄せ意味を思い出す。




劇団ルサルカ。
メディアには一切登場せず、劇場で販売されるパンフレットにも口元から下を写した写真しか載せない、秘密めいた方針をもつ舞台専門の劇団。
その魅力は見た者にしかわからないというが、一度見たら病み付きになってしまう程の力をもつと聞く。
舞台に詳しい人で知らない者はいないという。
なぜかいつも小さな劇場でしか公演をせず、マイペースな日程を組むことでも有名。
しかもルサルカの舞台には、年齢制限がかかっていて未成年者は立ち入ることができないらしい。
そんな謎に包まれた劇団の、花形役者。
舞台名は、イヴ。……天地創造の母神にあやかってなのかしら。一瞬そんな問いが頭を掠めたが、今は関係ないので放っておくことにした。
でも、未成年の立入を禁じているのに、目玉役者が高校生だなんて。
一体なんなの? この、ネズミという男。




調べ物をし終えてからも悩むなんて、生まれて初めてのことだった。
悔しい。こんな、不可解な人が。紫苑のルームメイトになるというの?
そんなの嫌。不安だし、得体が知れない。嫉妬に狂いそうだわ。
今までも、紫苑に近付く危険人物はいつだって排斥してきた。
だから、今回だって。食い止める。
だって私は、この学校の生徒会長。新しく増えた素性の知れない生徒を、放っておくことなんてできない。
でもそれ以前に、私は紫苑のことが好きな、ごく普通の女の子。
恋する乙女にルールなんてないわ。相手にしっかり釘を刺して、紫苑が傷つかないようにする。
……負けるわけにはいかない。


理事長に編入の日程などの詳細を聞くため、私は立ち上がって生徒会室をあとにした。






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