6学園テキスト

□2 遠回りの巡り道
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中学卒業後。ぼくは、全国でも有数の進学校に進学した。
文学、薬学、生物学、医学、理数、運動、芸術と、マルチな方向性が人気の公立高校だ。
そんな人気高校の卒業生は、在学中に養った能力を発揮し、各業界の第一線で活躍している。そんな話をよく教師から聞かされる。我が校の誇るべき実績なのだろう。


ぼくはその中で、生態学部門を選択している。一日一時間、専門分野の授業があり、毎日課題が出される。
それ以外は普通の学校と同じような授業内容だ。クラス編成、学校行事等も、他高校とそう大差はない。


生徒数は一〇〇三人。約千人だ。一学年十クラスで形成される。男女比はちょうど半々。
教師数は八十四人と若干多めではあるが、専門分野の授業があるのでそれ相応といえる。


部活動はそれなりに盛んだ。だが主立った経歴を残す部はない。
大体全国大会予選敗退、良くて全国出場二戦目敗退だ。
しかし部員は、勝ち負けにはこだわらないらしい。
試合や大会の為にみんなで一致団結した記憶と、その後残る堅い結束で結ばれた信頼関係。それを得られただけでも充分なのだという。
なんというか。我が校ながら平和的主義者が揃ったものだ。


有名進学校と同じくらいに売り出し文句にしているのが、『充実した校内設備』。
そういうだけあって、校内の施設には最新式の設備や機器が取り揃えてある。そして、広い。
校内はドア、窓、すべてにおいてオートロック。エレベーター完備。
空調システムや自動電気管理システム、緊急災害システムや防犯システムは完璧。
あまりに何もかもが完璧な為、夜間に見回る警備や周囲を管理する人員が必要ないらしい。
……なんだか、便利なんだか物騒なんだか。
もちろん万が一に備え、異常報告時には契約している警備員が飛んでくることになってはいるが。


在学中の生徒には、自宅通学者と寮通学者がいる。
ぼくは寮生活者。自宅から通うには片道三時間はかかるため、高校入学と同時に寮生活を始めた。
寮内も勿論最新式のシステム満載だ。しかし、多少立地の位置が悪い。
無駄に広い校舎、なぜか五つもある体育館、
だだっ広いグラウンド、それに併設されているテニスコート・温水プール・道場……。
真っ正面に校門を見た場合、それらはすべて縦に並んでいる。その最奥に、校舎に劣らない程の寮があるのだ。
上記の学校施設は繋がった高い塀に囲まれている。
寮から校舎までは約一キロ。塀の外側を回り込んで校門に辿りつかないといけない。
遅刻しそうになった時の為に、歴代使われている抜け道があるとは聞いている。
でもぼくは、残念ながらその場所を知らない。毎朝、一キロの距離をのんびり歩いて通学している。
……寮を作るのなら、もう少し校舎に近付けて建てて欲しかったな。
その距離の為、寮生活を送る生徒にも自転車通学が許可されている。


その、校舎から離れすぎていると不評の寮の形は十字。本当に、『十』という漢字の形をしている。
上空から見て、あまりに綺麗なそれは、病院に間違われることもあるそうだ。
建物は三階建て。『十』の形をした寮の、
真ん中に食堂、風呂、医療施設、会議室、購買がある。
それらから放射上に、各生徒の部屋が並んでいる。前述の通り、設備は最新。
落ち着いた配色、寮にしては洒落た建築デザインを使用している。よく、ホテルのようだと称される。
ただぼくは、同じ形の部屋が四方向に果てしなく伸びていて、それぞれに個性も何もないこの建物を、病院か独房のようだと感じていた。


各部屋の総称だが、十字の方向から東西南北で記されている。
生徒達はそれをブロックと呼び、それぞれを東ブロック〜北ブロックと呼んでいた。
各部屋二人一組で、ルームメイトと生活することになる。
ルームメイトの割り振りは実に単純。各自報告制だ。
同室になりたい者同士が希望し、同意書を提出すれば、それで完了。好きな人と自由にルームメイトになれるというわけだ。
もちろん男女は別だけど。
ただし更新期間は一年間。その間にいざこざが生じても、部屋を変えることはできない。それは、同意書に記されている。
同室になりたい生徒がいない場合。その時はランダムで組まされる。
そういう場合、同意書の規制は適応されない。






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