お題テキスト

□『Q』 queen
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『Q』


「あ、あぁっ」


いつものように、貫かれ。


「や、ぁ、んぅ」


いつものように、引き抜かれ。


「ひ、っ」


いつものように、毎夜のように、繰り返しきみに満たされる。


快楽にたえず揉まれる、自意識を保てない獣じみた時間。
きみの顔も、きみの声も、余裕がないのを感じる。
その度に、心も満たされる。

ただ、いつもと違ったのは、そんな気持ちを現実に引き戻す、電子音。


「……誰だよ、こんな、時に」


更には、ディスプレイを見たきみが、それを受けたこと。


「……はい」




ぼくときみは、今まさに繋がり合っている。
そんな行為の真っ最中に、電話に出るなんて。
ぼくもきみも高ぶっていて、少しの振動で声を漏らしてしまうのに。

そんなぼくの言い分などお見通しなのか、ネズミは苦笑を浮かべ、受話音量を最大にした。
くぐもった、野太い声が、ネズミの携帯から聞こえてくる。


『イヴか? お疲れさん』
「お疲れ様、です」
『夜分に悪ぃな。明日の打ち合わせの時間だが』


仕事の話か。
でも、だからといって、はいそうですかと割り切ることもできない。
こんな時に、まともな思考が働くわけない。
ネズミが腰を引いたところで行為を中断している為、なんともいえず最奥が疼く。
早く、欲しいのに。
早く、いってしまいたいのに。
自分のやましい考えに浸っていたせいで。突然のネズミの行動に気付けなかった。


「ひっ」


電話中にも関わらず、ネズミは突然律動を再開させた。
いきなり腰を進められ、堪えられず声が漏れる。


『なんだ、イヴ、おまえもしかして、今お楽しみ中か? そいつぁ悪いことしたなぁ』
「本当、タイミング悪すぎ。狙ってんの?」


羞恥で慌てて口元を押さえ、声を殺す。
けれど、そんなことお構いなしに、ネズミは動きを早めてきた。


『お盛んだねぇ。そんなにいい女なのか』
「枯れたあんたとは、違う。女なら、毎回まわして、るだろ。あいにく今、恋人を抱いてるんで」


世間話はいいから、早く電話を切ってくれ。
そうしてまたぼくに、溺れてくれ。


『ああ、例のしあんだったか? おまえがはまるなんて、余程すげぇんだろうな。今度おれにも貸してくれや』
「調子のんないで。笑えないから。紫苑に手ぇ出したら、あんたでも締める」


よく言うよ。
なら殺す前にその電話を切って。
ぼくを抱いてる時に、他のことを考えないでくれ。
ぼくは、きみ以外のことを考える余裕すらないのに。
悔しくて悔しくて、ぼくはきみの髪に手を伸ばし、癖のある黒髪を力任せに引っ張った。


「いった」
『ああ? きつくて食いちぎられそうにでもなったか』
「かわいい恋人がご立腹だ。よそ見しないで、だと」
『はいはい、ごちそうさ』


最後まで話を聞かず、ネズミは電話を切り、そのまま適当に放り投げた。
そして、よそ見の埋め合わせをするように、ぼくを抱きしめると、一気に奥まで捩込んだ。




―――

queen

女王・女帝



――――


08.06.15





 

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