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『U』
軋むベッド。
揺れる視界。
絶え間無い水音。
無意識の、声。
自分から、こんな声が出るなんて。
きみに会わなければ、知らずにいられただろう。
きみと関係をもって間もない頃、行為の最中に「女の子みたいだな」とからかわれたことがある。
女の子との経験のないぼくは、普通の喘ぎ声を知らない。
少し前、ラブホテルに行った時に見たテレビ。
そこで初めて耳にした、女性のよがり、高く甘い嬌声。
それを見ながら興奮してしまったぼくを押し倒しながらきみは、「おれがいるのに他の女で勃てないでくれる?」と言った。
「言っておくけど、あんたの喘ぎはもっとすごい。色っぽくて、たまらないんだ。もう、抱く度夢中になるくらい」、とも。
他の女で勃てるな、だって。
人を女の子扱いしたくせに、自分だって女の子みたいなこと言うじゃないか。
ぼくは、女の子じゃないのに、きみの手で、どんどん女の子にされていく。
着ている衣類を剥がされていくように。
一枚一枚花びらを散らされていく。
けれども、それが嫌だとか、気持ち悪いとか、マイナスに思ったことはない。
言葉ではうまく表せないけれど、ぼくにとってきみの存在は一縷の帯、唯一の光だから。
きみかぼくが女の子で異性同士だったのなら、これはよくある恋物語になっていただろう。
それが、同性同士だったというだけ。
ただ、それだけのこと。
だから、この交わりも、互いを求める当たり前のもの。
性別を越えて。
ぼくはきみを、きみはぼくを欲している。
だから、ぼくは。
今夜も、きみの下で。
―――
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はずす
脱ぐ
ほどく
ゆるめる
―――
08.06.10
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