お題テキスト

□演技
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『え』




夢を、見たんだ。
遠く、果てない夢を。


笑わない、きみの夢。
話さない、きみの夢。
遠ざかる、きみの夢。

冷え切った、きみの夢。


とても怖かった。
でもその中で、一番怖かったのが。
きみに、告白される夢。







あんたは今まで何を見てきた。
おれをしっかり見ていたか?


切り捨てようとしても、突き放そうとしても、どうしていつまでも、尻尾を振ってついてくる。
廃れたところだから、こんなおれが、あんたに優しくする、神のようにでも見えていたのか?

あんた、おれを誰だと思ってる?
小さな傾いた劇場だけど、その舞台に上がる役者だぜ。
あんたに接していたおれなんて、全部全部偽り。
一から十まで嘘。
演技だったんだよ、残念ながら。


あんたを利用する、ただそれだけの為に。







ぼくは跳ねるような勢いで起き上がった。
真っ暗な、明かりひとつない地下室。
動悸が激しい。吐き気がする。
ネズミ、今のは夢、だよな?

縋るように隣で眠るきみを見下ろす。
きみはぼくに背を向けて、丸くなって眠っている。
きみの顔が、見えない。
それはどうしようもなくぼくの不安を煽る。
今見た夢が事実だと裏付けしされているような気がして。


なぁネズミ。
そんなことはないよな?
あれは、ただの悪夢だよな?
何を言われようと、どう虐げられようと構わないから。
だから、こっちを向いて。
笑って。話して。息が触れる程に近付いて。

生きて。

そして、一から十まで、すべてが誠だと告げてくれ。




―――

演技〔えんぎ〕

本心を隠して見せかけの態度をとること。


―――


08.05.31





 

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