お題テキスト
□演技
1ページ/1ページ
『え』
夢を、見たんだ。
遠く、果てない夢を。
笑わない、きみの夢。
話さない、きみの夢。
遠ざかる、きみの夢。
冷え切った、きみの夢。
とても怖かった。
でもその中で、一番怖かったのが。
きみに、告白される夢。
*
あんたは今まで何を見てきた。
おれをしっかり見ていたか?
切り捨てようとしても、突き放そうとしても、どうしていつまでも、尻尾を振ってついてくる。
廃れたところだから、こんなおれが、あんたに優しくする、神のようにでも見えていたのか?
あんた、おれを誰だと思ってる?
小さな傾いた劇場だけど、その舞台に上がる役者だぜ。
あんたに接していたおれなんて、全部全部偽り。
一から十まで嘘。
演技だったんだよ、残念ながら。
あんたを利用する、ただそれだけの為に。
*
ぼくは跳ねるような勢いで起き上がった。
真っ暗な、明かりひとつない地下室。
動悸が激しい。吐き気がする。
ネズミ、今のは夢、だよな?
縋るように隣で眠るきみを見下ろす。
きみはぼくに背を向けて、丸くなって眠っている。
きみの顔が、見えない。
それはどうしようもなくぼくの不安を煽る。
今見た夢が事実だと裏付けしされているような気がして。
なぁネズミ。
そんなことはないよな?
あれは、ただの悪夢だよな?
何を言われようと、どう虐げられようと構わないから。
だから、こっちを向いて。
笑って。話して。息が触れる程に近付いて。
生きて。
そして、一から十まで、すべてが誠だと告げてくれ。
―――
演技〔えんぎ〕
本心を隠して見せかけの態度をとること。
―――
08.05.31
*