パラレルメルヘン

□いたずら王子と子犬と教師<前>
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「なぁ紫苑。……本当に行くのか? 相手はあの、悪名高い馬鹿王子だぜ? 今まで受け持った、近所のガキなんかとは違う。相当に手ごわいって噂だぞ?」


お城の高い門の前に、二人の若者が並んでいました。
背が低く髪の長い若者は、紫苑、と呼んだ髪の白い男にぐちぐちと説教をしています。


「引き返すなら今のうちだぜ。城の中に入っちまったら、もう後戻りはできねぇ。馬鹿王子共を受け持ったら最後、お前さんは国王の期待に応えないといけないんだ。一国の主である国王の期待に、だぜ? そんなの、荷が重すぎるだろ。考え直してみねぇか。今まで通り、質素に生活していこうぜ。な? 紫苑」


呼ばれた白い髪で細身の紫苑は、自信のなさそうな声とは裏腹にきっと真っ直ぐに顔を上げて答えました。


「そんなこと言っても、イヌカシ。もうここまで来たんだ、今更おめおめと後戻りするわけにはいかないよ。第一きみだって、最初は『きゃっほう、いい金づる!』って喜んでいたじゃないか」
「しーっ! 城を前にそんな話を、でけぇ声で言うんじゃねぇ! ……それに……それは、だな。……お前さんがその話を断るって、そう思ったからだ。まさか本当に、真面目な顔して受けるとは……」
「……いじわるな奴」


先に進もうとする紫苑と、必死で引き止めようとするイヌカシ。
二人が門の前で押し問答をしているのを見つけて、お城の兵士が険しい面持ちで近寄ってきました。


「おい! さっきから何をこそこそしている! ここをどこだと思っているんだ! 国王の城の前だぞ!」
「あちゃ〜……。もう逃げらんねぇ……」


誇らしげに怒声を上げる兵士に顔を背けて、苦渋の面を浮かべるイヌカシ。
それを横目に見ながら、紫苑は槍を片手に持つ兵士に怯むことなく深々と一礼しました。


「失礼致しました。私は、城下街に住む紫苑と申します。こちらは助手のイヌカシ。王さまの命を受けて、王子さま方の教育を担当する為に参りました」


にこやかに話す紫苑に続いて、イヌカシも慌ててぺこりとお辞儀をします。


「(ああああ…もうだめだ、逃げらんねぇ…)」


その話を聞いて、最初は訝しそうに二人を見ていた兵士も、しゃきっと背筋を正しました。


「は、はっ! そうでしたか! 王子さま方の先生さまとはつゆ知らず、大変失礼なことを……。お許し下さい。ささ、それではこちらへどうぞ。改めまして、場内をご案内させて頂きます!」


兵士は、相方の兵士に槍を渡し家庭教師の先生が来たと告げてから、城内を行進するように二人の前を歩き出します。
紫苑とイヌカシも、荷物を抱え直して兵士に続いて城内へ入っていきました。











城門前のその様子を、城の最上にある渡り廊下から見下ろしている二つの影がありました。
黒髪を風に泳がせて楽しそうな顔をするのは、問題の二人の王子さま。
一人は腕組みをして、一人は手すりに腰かけ、王子は顔を見合わせ笑い合いました。
二人は鏡に写したように、まったく同じ美しい顔をしています。
紫苑とイヌカシが城内に入って行くのを見届けて、一人の王子さまが面白そうに言いました。


「…見たかネズミ。新しい教育係が来たぜ」
「ああ、見たぜイヴ。あれが、親父が言ってた新しい教師なのか?まったく、今回は弱そうな奴らが来たもんだ」
「親父の奴、遂におれたちを教育するのを諦めたか?わざわざ城内に、あんな奴らを招くなんて」
「つまんねぇ。いじめ甲斐がなさそうだ」
「でも、肉体派の教師には散々いたずらしただろ?扉を開けたら斧が倒れてくるようなからくりを仕掛けたり」
「追いかけてきた教師を、二手に別れて拡散して、城内20周させたりしたな」
「ふん。体力教師はもう飽きた」
「でもあいつらなら好都合。どう見ても運動が得意そうには見えなかったしな」
「さぁ、今までとはちょっと違った、楽しい遊びを始めようぜ。さぁて今度は…」
「どうやっていじめてやるかな」
「…ふふっ」
「…くくくっ」








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