6テキスト
□刹那の愛を
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きみが今日まで生きて来た、長いようで短い十数年間。
その中で、なにも一番の愛をくれなんて言わない。
けれど、きみがぼくを抱いているこの刹那。この一時だけでいい。
きみの心が、少しでも多くぼくに傾きますように。
「っあ、ん、ぁ……」
この行為を何度か経験して、気付いたことがある。それは、
「あっ……ネ、ズミ、ぃ」
ぼくを掻き抱くとき、決まってきみは泣きそうな顔で、何かを求めているということ。
「も、いやだ……あ! 触らない、で」
きみが求めているものが、快楽なのか、暇潰しなのか、愛なのか。
きみの考えていることなんて、ぼくにわかるわけもない。
「い、いい……もう、いい、から……だから」
きみの愛をぼくが得られるなんて、到底夢物語。
誰の愛であっても、望めば簡単に手に入れられるであろうきみだから。
それをぼくが欲しがるなんて、おこがましい。そんなぼくの姿は、きみの目には滑稽に映るかもしれない。
「ネズミ……」
ネズミ。それでも、請わずにはいられないんだ。
ぼくは、
「っ、きみが、欲しい」
きみが、欲しい。
この行為を繰り返すことで、きみの心が少しずつでもぼくに傾きますように。
毎夜の戯れの時だけでも構わない。きみの心に、ぼくが浮かびますように。
end
08.04.20
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