6テキスト

□夢の延長戦
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「異次元?」


とりあえずこのまま立ちすくんでいても埒があかないので、ぼくとネズミとぼくとネズミ(なんか変だ)はベッドに腰掛けた。
ぼくとネズミが降り立ったのは、まさにこのベッドの上らしかった。
ふわふわした感触。柔らかな弾み。
うん、確かにこんなようなところに着地した。
…因みに、天井を仰いでも穴なんて開いていない。
え?どうして?
ぼくたちが落ちてきた穴は…?
それがないと、ぼくたちは一体どうやってここに来たのかわからないじゃないか…。
ぼくはネズミに、鏡のぼくは鏡のネズミに寄り添う体勢で、お互いにこの不気味な状況を必死に把握しようとしていた(ネズミはすました顔で、飄々としていた)。
そんな中、ネズミが突拍子もないことを言い出した。
――これは、異次元の話なのだ――と。


「ああ、そうだ。ここはおれたちにとって、異次元の世界」
「…どういう、こと……?」
「部屋にあったカルト誌で読んだことがある。
おれたちが生きて生活している世界の対極に、おれたちと同じ人間が生存している…なんて説。
おれたちと同じ姿をしている人間が、おれたちとはまったく異なる世界に存在している、っていうこと。
…意味、わかる?紫苑。
今のこの状況、まさにそれなんじゃないか」


はあ?この世界以外に、人間が存在している、だって…?
同じ姿の人間が、違う世界で生きている…。
そんなこと判明したら、世界の常識がひっくりかえるじゃないか。
…ネズミの話はいつも難しくてよくわからないけれど…今回のはことのほか意味がわからない。
得体の知れない、ぼくたちとまったく同じ姿をしている存在と、今対峙している。
ぼくはうろんげに、向き合っている二人のぼくたちを見つめてみた。
…どうやらネズミはネズミ同士、なんとなく…何か通じるものがあるらしい…。
その証拠に、鏡のネズミは《ああなるほど》なんて頷いている。
鏡のぼくは…今のぼくと同じく、《意味がわからない》と言いたげな顔をしている。
そうだよな。その反応が正しいんだ。なにが、《ああなるほど》なんだよ。
何気なく視線を下げてみると、姿形は同じぼくたちだけれど、着ているものがまったく違うことに気がついた。
ぼくはいつものシャツ、ネズミは超繊維布をまとっている。
かたや鏡のぼくたちは、二人そろって同じ服を着ていた。
白いYシャツに、紺色のブレザー。
…なんだか懐かしい…ぼくも、似たような服を着て学校に通ったっけ…。
それは紛れもなく制服だった。


「あ、あの…。ち、ちょっと、聞いてもいいかな…?…その、ぼくに」
《ぼく、って…ぼく?》
「…うん」


おずおずとぼくは、鏡のぼくを指した。
…今ぼくは、ぼく自身と向かい合っている。自分と会話している。
…うーん、なんだかわけがわからなくなりそうだ…。


「きみ、たち…それ、制服だよね…?…学校とか、あるんだ?」
《え…うん。ぼくもネズミも、同じ高校に通ってる。今、二年生》
「こ、こうこう…?」


…ぼくにはわからない単位だ…。
こうこうって?そう聞こうとしたところで。


《あのさあ》
「…!」
《あんたたち、どっから降ってきたんだ?せっかく落ちてきたところ悪いけど、早く出て行ってもらえる?
…こっちはあいにく取り込み中でね。…いや、これから取り込むところ、か》


なんだか不機嫌そうな顔をして、鏡のネズミが鏡のぼくの肩を抱き寄せ言う。
うわ、うわ。そういうの、なんだか客観的に見ると…すごく恥ずかしいんだけど…。
鏡のネズミは…当たり前なのかもしれないけど、さすがネズミだ。
ぼくの隣に居るネズミとなんら変わらずにいい男っぷりを発揮している。
…異次元でも、こんなにかっこいいのか。…学校に通ってるなんて、どのくらい人気があるのか想像もできない…。
そんなおかしな感動を受けているぼくをよそに、ネズミはにやりと鏡のネズミに笑いかけた。


「…はぁ。環境は違っても、さすがおれだな。あんた、ちゃんと紫苑掴まえてるんだ」
《…ああ、まあね。誰もが羨む、磁石みたいな恋人同士》
《…へへ》
「へぇ。それで、この部屋か」
《そっちこそ、さすがおれ。勘が鋭いな。…というより、考えてることが同じなのか》


なんだ、なんだ。
ネズミに肩を抱かれて嬉しそうに笑っている鏡のぼくに、顔を見合わせて笑う二人のネズミ。
…あの。ぼくはまったくついて行けてないんだけど。
なぜか分かち合ったような顔で笑い合うネズミに、ぼくは置いていかれたような気になる。


「なあ。なんだよ、二人して。ぼくにも分かるように説明してくれ。
なにが鋭くて、なにがこの部屋なんだ?」







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