少年志向

□欺瞞と傲慢に依る認識の差異
2ページ/2ページ

閑静な住宅街の、一際小さなアパートの一室。
数年間暮らした部屋で、黙々と荷物を鞄に詰める少年が一人。
築三十年を超えるアパートは生活感を感じさせるけれど、子供が何年も暮らしたにしてはものがなく、どこか単調で、淡々として冷たい。
古い箪笥から衣服を取り出して鞄に詰める。

服は箪笥いっぱいにきっちり入っていたはずなのに、必要なものを考えるとどんどん減っていく。
服は箪笥いっぱいにきっちり入っていたはずなのに、必要なものを考えるとどんどん減っていく。彼は少し焦って、必要なものを探そうとする。

箪笥の一番小さな
引き出しの奥に、小さなビー玉が入っていた。それは少年がさらに幼かった頃、近所の駄菓子屋で買ってもらったものだった。
彼の家は貧しく、そのことは幼い少年がさらに幼かった時に、すでに彼の常識だった。
彼が実用性のないものをねだることは、タブーだった。
そうすれば母は、怒るでもなく、困ったように目尻を下げるから。

そのビー玉の、何が魅力的だったのか、彼はもう覚えていない。
ただ、小さなそれを控え目にねだる彼に、申し訳なさそうに首を振る母。新しいおもちゃを自慢するクラスメートの無邪気な笑顔。
それだけがひたすらに鮮明で、それで遊んだ記憶さえ、もうない。

襖が開かれる音がした。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ