☆佐助×幸村☆

逆らえない
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「れっきとしたアンドロイドです。証拠に―…、幸村。後ろを向け」


幸村は緩慢な動きで伊達に背中を向けた。何をするのかと思いきや、伊達は幸村の後頭部、首の付け根辺りの髪の毛を掻き分ける。そこには確かに生身の人間にはない、金属が埋め込まれているのが見て取れる。


佐助達の息を呑む音が聞こえる。それは間違いなく金属で出来た何かを差し込む入り口の様に見える。
丸い輪っかが白い頭皮と栗色の髪の毛の間に埋め込まれて、蛍光灯の光に反射していた。



「これはうちのメインコンピューターと幸村を繋ぐプラグの差し込み口になっていて、普段は使用しないけど、彼の頭脳や見たもの、聞いたものの情報収集や、……まぁ。難しい事は置いといても二人とも分かったよな?」



お館様はもちろん、オレ様も初めて見るそれに言葉が出ない。


改めて幸村が人間ではない事を思い知った。畳の上に小さく纏まる様に座り込む幸村と、彼の生態についてトツトツと喋る伊達が、異様な光景に見えて。二人はひたすら閉口するしかなかった。



「…普通に暮らしていれば生身の人間と一緒です。食事も排泄もするし、出来ないのは子孫を残す事くらいで。」



(…いや、だから。その機能は必要ないだろって)



内心毒づきながら佐助は武田の顔色を伺う、岩の様な顔をさらに難しそうな表情のままだ。


武田は世話好きな性分で、近所の子供や門下生に食事をさせたり、預かったりして広い屋敷を合宿所に使ったりなどしているし、普通だったら即OKするんだろうが…それはあくまでも『普通の人間なら』という事が付いてくるだろう。


屋敷の中には武田以外入ってはいけない部屋もあるし、今居る居間の壁に飾ってある掛け軸や皿はきっと高価な物に違いない。


昔、佐助がやんちゃをして、飾ってあった骨董品の壺を割った事がある。
その時住み込みをしていた武田の弟子が顔を青ざめて意味不明な奇声を上げたのが忘れられない。


武田の弟子にはしこたま説教をくらい、その晩はこってり3時間。書き取り問題を武田が目の前で見張られながら永遠とやらされて半泣きしまくったのは、佐助の複数残る忌まわしい記憶の一つだ。



以来、家の中にある古臭い物にはなるべく近づかないよう意識していた。


そんな環境下に、得体の知れないアンドロイドなど武田が引き取るだろうか。
以前、伊達の話では幸村はトラックなら持ち上げられるという話があったし。


使い方を間違えればとんでもない事になる。改めて、自分より小柄な青年が普通の人間とかけ離れている事を考えさせられた。


だが佐助の懸念に反し、武田は暫く唸った後、なんと幸村を暫く預かる事を承諾したので驚く。


「お館様、本気なの!?」


懐が深い武田信玄と言えど、その返事は余りにも安易過ぎるのではないか。
佐助はやや青ざめかけるが、武田は快活な笑顔を幸村に向けている。



「なに。多少他とは違えどお前と同じ子供には変わりあるまい、」


「普通の子供だったらいいけど、幸村はロボットだよ?!まだ知識も低いし、力だって強いんだし…」


言いながらな佐助は自分の気持ちがだいぶ矛盾している事に気づく、
伊達の家にいる時は可愛いと思っていたのに、武田の家に住むとなるとやけに反対している自分がおかしかった。



幸村といえば、今自分の置かれた状況が分からないみたいで、佐助と武田と伊達のやり取りをただ黙って聞いていた。
幸村が自分達の会話の内容をどこまで理解しているか…佐助にはわからない。


一つだけ言えるのは、
これから色々と面倒が起こるんだろうなぁ。と漠然とした不安が、胸の中にもやを巻いて漂っているという事だけだった。


「まかせよ、お主が戻るまで幸村はこの武田と佐助できちんと預かろう」


「ありがとうございます。助かります」



武田は満面の笑みで自分のたくましい脚を手のひらでパンッと音を立てて叩く。武田の心が一つ決まった時にする所作に、佐助の脳裏に『諦め』という風が吹いた。



「幸村か、よろしく頼むわい。わしは武田信玄じゃ。」


「某は幸村と申す」


「自分の名前を言えるとは真に天晴れなロボットじゃ、気に入ったわい!」


幸村は小さな頭を下げて礼をすると、武田はアンドロイドの態度に気をよくして笑った。これはもう止める事は出来ないだろう。


意気投合し始める二人を見つめて佐助はこれからどうなる事やらと不安にならずにはいられなかった。








END.
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