☆佐助×幸村☆
□逆らえない
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幼少時代。
オレ様は血の繋がっていない叔父さんと暮らしていた。
本当の家族は妹と母が居たんだが、母には二人の子供を育てる経済力がなかったため、男という理由で武田の叔父さんと暮らす事になった。
武田の叔父さんは体も声もデカくて、近所の子供を集めて剣道の道場を営んでいる。
だから必然的にオレ様も剣道をやってる訳だけど、これが結構キツイ。
「佐助!踏み込みが甘いわ!!」
「いでっ!!」
道場に響く心地よい音。
胴着をつけているのに叔父さんの一撃は体中に痛みが響く。
今回は面をとられた。
やはりまだまだ叔父さんにはかなわない。
「痛ぇ〜、今のマジだったでしょ!?」
「問答無用!!!」
ああ…。
身から出た錆とはこうゆうのを差すのだろうか。
今日は新しい漫画の発売日とあって学校帰りに本屋に寄ったのが運の尽きだ。
結局時間を忘れて立ち読みし、夕飯の当番をすっぽかしてしまった。
罰として夕飯後にはスパルタ稽古が始まり、オレは叔父さんにメッタ打ちにされてしまっている訳で…。
「お館様…、マジで勘弁して…」
息切れし、竹刀を床に突いてボロボロになった体を支えて許しを乞う。
絶対体中痣だらけだ。胴着なんて叔父さんの一撃には殆ど意味が無い。
ただし、胴着を着てなかったら青あざや打ち身は免れないだろうけど。
「たるんどるぞ、佐助。」
「…すんません。」
最終的に叔父さんは道場の掃除を一人でするように告げて許してくれた。
オレ様は叔父さんを『お館様』と呼んでいる。
…というか、うちの道場の門下生は殆どお館様って呼んでいるので、オレ様もそうしていた。
なんでも、叔父さんは良い所の血筋の末裔らしい。確かに、家の敷地もでかいし、時折名のある著名人とか作家とか記者とかが来るから有名人っぽいけど。
オレ様的には『有名人なんだろうなー』と漠然としか思っていない。
血も繋がっていないみたいだし。
あんまり自分の置かれた環境に興味をもてなかった。
叔父さんが自分とは遠くかけ離れた存在だって事を思い知りたくないかなかもしれない。血が繋がってない上に、叔父さんが本当は雲の上に居るような人物だったらきっとオレ様は萎縮しそうだから。
「…ぐあー、疲れた!!」
モップ掛けを終え、道場の端に座り込む。胴着を着たままだし、叔父さんお手製の重りのついたリストバンドを手足に付けての稽古は本当につらい。
だが剣道を辞めようとは思わない。
特に頭がいい訳ではないオレ様だから、運動だけは負けない自信が欲しいので、剣道だけは意地になって続けている。
「あー腹減った…」
時計を見ると針は夜の8時を差している。さっさと着替えて飯を食おうと重たい尻を上げた。
「ごめんください」
道場に澄んだ声が響いて、佐助は道場の入り口へ振り向く。そこに立っていたのは同じ年に見えないくらい大人びた正装をした伊達と、相変わらず気の抜けた顔をした幸村だった。
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「……幸村をうちで?」
着替えて伊達と幸村を屋敷に連れて行き、居間に通してお茶を出した時だ。
思いがけない申し出に、佐助は目を丸くする。
「本当に勝手なんだが、どうしてもうちじゃあ世話が出来ないんだ。ロスから帰ってきたら必ず迎えにくるから、それまで幸村を預かってはくれませんか?」
伊達は自分達の向かいにちょこんと座る高性能人型ロボットを神妙な顔つきで観察している武田に向けて言ったのだ。
伊達も昔は武田の道場の門下生の一人で、類い希な頭脳の持ち主と分かり、飛び級で大学に行くまでの数年間を武田の道場で稽古した仲間であった。
故に、伊達の来訪を喜んでいたのだが、伊達の説明を聞いている内に伊達の横に座った青年をまじまじと見入っている。
「彼はロボットとな?」
「はい、見た目は人間ですが、れっきとした高性能人型ロボットです。」
今までの過程を一通り喋り終えると益々武田は興味深そうに幸村を見た。
「どうみても人間にしか見えんがなぁ…」
「そうですよねぇ」
武田の隣に腰を下ろした佐助も、幸村が人間以外の何者にも見えないと思う。
頭は足りないが、動きも容姿も人の腹から生まれた一人の人間にしか見えないのだ。