☆佐助×幸村☆

愛しのダンディズム
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頭にシャツを被せようとした時、キッチンの方から甲高い音が響く。
火にかけたお湯が沸いたんだろう。伊達ちゃんは『ああ…』と唸って幸村とキッチンを交互に見る。

オレは立ち上がり二人に近づく、反射的に動いていた。


「オレ様がやってあげるから、伊達ちゃんキッチンをお願い」


「…あ。ああ、悪い」



手渡されたシャツには見覚えがある、伊達ちゃんが着ていたのを何度か見たことがある。


デニムのパンツも伊達ちゃんがよく履いていた物だった。


幸村は相変わらず何が何なのか分からないだろう。見上げる瞳には特に感情が浮かんでいない、子供みたいに瞳はオレをじっと見つめてくる。


オレは小さな子供に教えるみたいにシャツの裾を開いてみせた。


「いいか?これが『シャツ』だ。」


「しゃつ」


「そう、『シャツ』。この狭くて白いタグが付いてる方を頭を通すんだよ」


そう言ってシャツの首にあるタグを見せる。


「タグが付いてる方が首の後ろになるように着るんだ」



幸村はじっとシャツのタグを見つめている。多分頭の中ではオレの言っている事を沢山の回線が幸村の情報を司る機械に伝えているんだろう。


そして広げたシャツの裾を幸村に被せ、教えた通りにタグのある方を後ろに回す。


幸村が持っていたデニムのパンツを床に置き、肩にかかったシャツを脱がす。裸体になった状態で袖に両手を通す様に教え、次にデニムに片足を突っ込ませてなんとか着付ける事に成功する。


デニムのホックの留め方を説明して、幸村にやってみるように言うと、幸村が眉をしかめはじめる。ボタンを留めようと手は動くが途中で止めてしまうのだ。


「……どうしたの?」


幸村は悲しそうな顔をして自分の手元を見つめている。


「…い…」


「え?なに?」


小さい声が聞こえたが聞き取れなかった。
どうした。ともう一度聞く。



「…またがあたっていたい」



「んんっ?」



何の事かと幸村が見つめる先を見た。幸村は目下の開いたジッパーの奥を見詰めている。マジマジと観察して……やっと理解した。








ああ…







なる程。






そういえば男の子だもんね。






大事な事を忘れていた。






「えーと、『それ』はどっちかに納めるんだよ」


「どっちか?」




「うん」



幸村を悩ませていたのは股関のゾウさんの長いお鼻だった。



股下にぶつかって痛かったらしい。



舌っ足らずで何を言ったのかよく分からなかったけど、よーく分かった。

確かにそれはちょっと窮屈だし痛いよね。



幸村はオレが言った通り、ゾウさんのお鼻を右の方向に納めてみる。



「…どう?大丈夫そう?」



背の低い幸村の顔を覗きこむ、幸村はまだ納得していないらしく。あまるい瞳は不服そうに揺らいでる。


「…反対にしてみたら?」


オレの提案に従って今度は左側に納めてみた。



「…今度はどう?」



幸村の手つきはたどたどしいものの、オレが教えた通りジッパーを引き上げ最後にボタンを留めた。


顔を上げた幸村は満足気に微笑む。つられてオレもはにかんだ。


「よくや…」



「良かったな。幸村」



幸村を誉めようとしたが伊達ちゃんの一声に掻き消されてしまう、自分のセリフを取られてしまってなんとなく気後れした。


伊達ちゃんはお湯を入れたポットを持ってリビングの中央に進む。幸村がその後ろについて行き、オレが言いたかった言葉は口の中で右往左往し諦めたように掻き消えた。


「…次からは一人で着れるかな」


「多分な。」



伊達ちゃんは無駄のない手つきで紅茶を煎れる。


「…上手く着せたじゃねえか。お前こうゆうの上手いんだな」


伊達ちゃんの隣にちょこんと座った幸村の服を上から下へと視線を落とす。その横顔を見詰め、誉められたのに何故か余り嬉しくない。


特に苦じゃなかったし、オレは苦笑いして誤魔化す。


伊達ちゃんはオレの過去を知らないからな。



友達にも余り明かしたくないオレの過去、少しばかりの後ろめたさを煎れたばかりの紅茶を飲んで濁した。



「……俺の洋服も少しデカいのか?」


伊達ちゃんは幸村のシャツの袖を引っ張る。確かに、伊達ちゃんが着ていた時は体のラインが出るシャツだった。

幸村が着ると普通のTシャツに見える。デニムのパンツも裾を踏んで歩いていて腰辺りも緩そう。


「もっとズボン上げろよ」


伊達ちゃんが親切のつもりでパンツのウエストを持ち上げる。



「あ!伊達ちゃん駄…っ」

「いたいっ!!」



案の定、下着もつけずでデニムのパンツを身に付けているから幸村の『ゾウさんの鼻』が当たったみたい。可哀想に幸村はピーピー泣き始めた。
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