☆佐助×幸村☆

不意打ちキス
2ページ/2ページ




夕飯までは時間があるため夕方前まで腹の虫が大人しくしてはいないだろうと思い、みたらし団子と熱い緑茶を準備しておいた。

やや茶色がかった瞳が一層見開かれて幸村は佐助に抱き付く勢いで喜ぶ。まぁ…ゆっくりしていられるのも今の内だろう。世は乱世でいつ戦があるかわからない、今は嵐の前の静けさといった所か…。勝った後の飯は美味いが負け戦やしんがりなどでは何を食べても味がしないものだ。今はどちらでもないので何を食べようと普通に美味い。これほどの贅沢はありはしないと佐助は思う。

軒下で陽向に当たりながら茶をすする。爺臭いのは承知だが本当にのんびりとしている気がした。


「…佐助は食わぬのか?」


自分よりも美味しそうに団子を食べる青年に、いいから食べなさいと促す。本当に美味しそうに食べるので見ている方が楽しい位だ。あっという間に皿が空いて互いに軒下でお茶をすする。他愛もない会話をしてると段々と佐助に眠気が襲ってきた。ここ数日間は夜昼無く地方に出向いては大名達の動きを偵察していた。結果はそれぞれに良く働いていて良好。近々戦があるだろうと察して準備を始めている所もあった、気が早いというかなんというかだ。
それを今日の早朝に武田信玄公に報告し、つかの間の休憩だった。その疲れからか暖かい陽向の下に居て穏やかな会話をしていれば眠くもなる。沸き立つ欠伸をかみ殺していると気付いた幸村がつられて欠伸を掻く。


「そなたのが移る」


と笑う幸村は穏やかそのもので、戦場での凶暴ぶりがまるで嘘のようだと思う。


「…ん、あれ?旦那、口の端に団子の蜜が着いてるよ」



幸村はどこだ?と口の周りを撫でるがまるで見当違いな場所に指が行く。


「違う違う…もっと右…あー、違うって。もう俺様取るからじっとしてていいよ。」


苦笑いする佐助だが嫌そうな所は一つもない。端正な顔立ちが笑顔になると爽やかな印象が強まると幸村は感じた。自分よりも年上であろう男は兄のように甲斐甲斐しく尽くしてくれる。大切な家族だと思う反面…、優しくされると少し胸が騒ぐのだ。


騒ぐ理由を見つけられず昨日は我が儘を通す形で接吻をしてもらった。まさかあんなに苦しく恥ずかしいものとは思わず腰を抜かしそうになったのは誰にも言えない自分だけの秘密だ。
今も佐助の指が唇を触れるのが怖くて少し体が引けてしまう。佐助は気付いているかもしれない。そう思うと緊張とか興奮とか不思議な心持ちになるから不思議だった。


「はい。取れたよ」


「かたじけない」


交わす言葉は普通なのに顔に熱が集まった。聡い佐助の事だ、自分の考えている事を見抜いているかも知れないと思う。ちらっ、と佐助を見れば呑気にまた欠伸をしている。
佐助は何を考えているだろう、昨日の事をどう思っているだろう。自分の事をどう思っているだろう。

―――…考えれば考える程頭が混乱してくる。


幸村は廊下に手を付いて体を伸ばす。傾く体は佐助の体にギリギリ触れない。












―…気配を感じた。頬に柔らかな物が当たる。

柔らかくて暖かくて、同時にみたらし団子の蜜の甘い香り。トンッと軽やかにそれは離れた。何かが触れた感覚に目を見張る。側に幸村の丸い大きな目が熱の籠もった瞳があり、その目と目が合うと一瞬視線が離せなくなった。






「…………っ!」


何をされたのか瞬時に悟る。柔らかな感触は紛れもなく昨日触れあった幸村の唇。佐助は柄にもなく赤面し、その表情に幸村は破顔した。







「…ふふっ、油断したな佐助」






(―――嬉しそうに笑うんじゃないよ、…それこそめちゃくちゃ可愛い顔してさ。)








腹立たしいが恥ずかしい。




嬉しいが複雑な気持ちだ。





喜んでいいのか。





怒った方がいいのか。








……よくわからないけど本人はご満悦の様子だ。そりゃあそうだろうさ。




天気はいいし。



腹は一杯だし。




俺の事をからかったし。






最後の方は気に入らないけど。楽しそうだし水を挟む事もないかと思って押し黙る。ただし釘は差しておこう。


なんだか今ので味をしめられたら誰にでも仕掛けそうな気がする――…。





「――旦那、」




「なんだ?」








そうやって。




無邪気な振りをしていられる時間も少ないだろうけど。




これからどんどん大人になって色々知っていくのだろうけど。











「俺以外にこんな事しないでよね――…。」










――…これが俺の精一杯だよ…。







END.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ