☆佐助×幸村☆
□背伸びキス
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ーーー何を言い出すかと思ったら…。
「無理、駄目。」
「なぜだ、佐助っ」
意味無いことだから。
と答えたら幸村は悲しそうに眉を下げる。
甘えても駄目。
それは俺許さないよ。
絶対に駄目。
静かに諭すのは佐助が本気で怒っているからだ。
怒っているというか…教育しているというか…。
「なぜだ、佐助!頼むからしてみてくれ!!!」
胸元を掴んでせがまれる。駄々をこねるようじゃやっぱり唯の餓鬼だ。
「気持ちが入ってなきゃ意味がないんだよ、接吻っていうのは愛情表現の一つなんだから…。」
愛情…。
幸村にとってそれは何だろう。思いやる気持ちの中に、嫉妬や執着のある気持ちを、彼は持つことが出来るのだろうか。
いつまでもごねて見上げてくる幸村に苛立ち、佐助の声は低くなる。
「好きでも無い奴としちゃ駄目なんだよ。本当に欲しいって思わないと、意味が無いんだ。」
それが分からない内は接吻は愚か、恋愛だって程遠い。身体を離すように幸村の腕を掴むが離れてはくれない。
「…某は。佐助が好きぞ。」
佐助は眉を寄せて困り果てる。
せがむ表情は本物でも、幸村の心はどんなものか…。
「少しでいい、やってみてくれ。」
お互いに想いあってなきゃ意味が無いんだよ。
「某にはよく分からぬのだ、そなたが教えてくれればあるいは…っ」
やりたいだけの餓鬼になっちまったのか?単純で単細胞が治らなきゃ、相手に好かれやしないってのに…。
「頼む、お前にしかお願い出来ぬのだ!」
「………はぁー…。」
「………佐助?」
ため息が出る。
馬鹿らし過ぎてやってられない。
佐助の目は据わってしまい、冷たいとも思わせる光を帯びていた。様子が変わった佐助をの顔を覗きこんだ幸村の顔を両手で包むと低い声色でつぶやく。
「ーーいいよ。わかった。してやるよ。」
「まことか!?」
パァッと明るくなる幸村だが、佐助但し…と付け加える
「もう二度としないからね」
え、と幸村が考えるよりも前に佐助が唇を塞いだ。
驚いて暴れたが腰と頭の後ろを押さえつけられ動けない。
もがけばもがくほど息がつまった、何をどうしていいか分からない。
「落ち着いて旦那」
佐助が喋ると弾力のある皮膚が下唇を挟まれる、思わず唇を噤むと追いかける様にして唇を押し付けられる。
「ちゃんと俺の唇の感触を感じるんだよ、口に集中してみて…」
幸村は佐助を押しのけようとした手を徐々に緩める、息が上がった幸村に苦笑が漏れた。もう一度唇の表面を押し付ける。重なる胸の鼓動が早くて身体が熱い。腰の腕を伸ばして強張った身体を引き寄せて密着させた。
角度を変えて噛まれる唇の感触に慣れて、たどたどしくはあるが唇を重ねる行為に溺れて行く。
『…ん…っ、』
甘い吐息に唇を舐めなれる、慣れない濡れた暖かさに肩が跳ねる。
「落ち着いて」
小さな呟きがよく聞こえて、自分たちの距離を直に感じた。後頭部を撫でられて堪らない。唇の動きと共に気持ち良くさせられる。
脱力感のある感覚。
力が抜ける錯覚。
どれもが心地よく、何より佐助の労りが伝わってきた。
安心させようと身体を撫でられる。追いかけてくる唇に翻弄される感覚。
いつの間にか佐助の首元に手を回していた。
離れ難く。
柔らかな唇は離れてゆく。
……ちゅ……
最後に軽く吸われて、水っぽい音が二人の間に響いた。
「……あ」
名残惜しげに見上げられる、初めて知った感覚に陶酔したのか。頬は朱らんで目は潤んでいる。初めて主のこんな顔を見て、佐助の中に罪悪感と凶暴な気持ちが生まれる。
やってはいけない事をしたという罪悪感と、もっと色々仕込んでみたいという凶暴な感情。
まだ乳臭い餓鬼相手に。
大人気なかった。
だが満足もしている。誰が幸村の唇を一番に奪うのか。
わかっているだけ安心する。
「大丈夫?」
「……ん。」
「旦那には早かったかな?」
幸村にしては背伸びの行為だっただろう。労りなでた頬は暖かく赤く色ずんでいた。
赤いのは夕刻のせい。潤んだ眼差しに余韻がまだ消えない。
「お館様には内緒だぜ?」
知られたらどんなお仕置きをされるか想像するだけで背筋が凍る。
幸村が頷くと佐助は普段の彼に戻っていた。穏やかに微笑む顔は普段通りなのに心が落ち着かない。確かに感じた、重圧にも似ている『愛情』の波。それがまだ体の奥で疼いている。
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