☆佐助×幸村☆

不意打ちキス
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「…………っ!」




「…ふふっ、油断したな佐助」



嬉しそうに笑うんじゃないよ、それこそめちゃくちゃ可愛い顔してさ。







◇不意打ちキス◇










その日は真夏日で空からの日差しに肌を焦がしながらの試合であった。

先日の『接吻騒動』など嘘の様で、引きずるかと不安だったが幸村は元気に槍を振り回している。真夏日に拍車をかけて暑苦しい性格の幸村に、佐助はやれやれと肩を落とすのであった。


「次!!!」


「はいっ!!!」


歩兵相手に容赦なく突き出す、薙ぎ倒すを繰り返して真田幸村は計25人目の家臣を叩きのめす。
それでもみんな幸村との試合には慣れた物で、それなりに打ち返したり避けたりしながら必死になってやり合いを続ける。


「ぐあっ!!」


欠伸をかみ殺しながらも26人目の兵が幸村の槍によって倒れる。もちろん、彼は生きていて痛むであろう打たれた腕をさすりながら一列して戻っていった。


「まだまだ!詰めが甘いぞ!!次ぃ!!」


汗が滴り落ちて太陽に反射する肌は若さに輝いている。この若武者の真っ直ぐな性格と持直さ、戦の才能には感服するのは自分だけではあるまい。
厳しい訓練の中にも部下達は真剣に幸村の太刀を観察していた。


「やあああ!!」


計28人目の兵が剣を振り上げる。



(―――お、やるなあ…。)



今まで見て来た中でもなかなか良い太刀筋をしている。若いが動きや太刀振るまいの切れが良い。幸村も目付きを変えて間合いを取った。


笑っている。


骨のあるやつが出てきたと喜々しているに違いない。見れば口元が仄かに微笑している、持つ槍を構えて突き出す。相手は身体を捻り次の手を繰り出す。ひゅん、と風を切る音が肌をかすめたがまだ甘い。槍を横に振って近づいた者を薙ぎ倒そうとする。だが相手も馬鹿ではない、幸村との手合わせで何度か受けたのだろう。反応よく槍を避けると身体を回転させて木刀で弾き返した。


「いいぞ!!そなたの太刀振るまい、なかなか切れがよい!」


(…あーあ、嬉しそうに。)



屋敷の屋根の上から高みの見物をしていた佐助もなかなかどうしてのめり込む試合風景であった。

控えている家臣達もやんやと二人を応援していた。
穏やかで暑苦しい風景だが武田の屋敷では日常的な風景だ。最初はあまりの暑苦しさに目をむく思いであったが今はそれに溶け込み、日常の物として受け入れていた。



「ぐっ……っ!!」



ついに決着が付いたと思いこれで28勝目…かと思いきや、呻いたのはなんと真田幸村の方であった。


「幸村様!!」


慌てた家臣が木刀を投げ捨てて幸村に駆け寄るのが見え、佐助も屋根から降りてその群に近寄る。


「……血が!幸村様!!」


部下の上げた悲鳴に佐助は強引に人だかりを割って入った。


「スマン、ちょいと通るよ!!」


幸村を囲み、心配そうに駆け寄る兵士達を掻き分けて佐助は幸村の側に駆け寄った。幸村は顔の右半分を片手で押さえている。


「旦那、どうした!?顔でも怪我したのか?」


覗きこむと額の右を怪我している。みせろ、と言って怪我の様子を見てみるが深い傷ではないようだ。


「申し訳ございません、幸村様…私が…」


「いや、お前のせいではない。長く打ち合いをしていて槍が痛んだ事に気付かなかったのだ。」


気にするなと笑顔で言えば、囲んでいた兵士も安堵の息をつく。若い兵士はまだ自分を許し切れないのか折れた槍を抱えて泣きそうな表情を浮かべていた。


「とりあえず手当てしなきゃね、今日の訓練はここまでってことで。」


佐助は腰を上げると幸村を連れて部屋に戻った。手当てを終えた頃には幸村の額に赤い鉢巻ではなく白い布が丁寧に巻かれていた。


「今日はとんだ厄日だったね、旦那。」

佐助は笑いながら薬が入った箱を棚にしまう。何時もなら最強無敵の幸村だが、連勝続きの試合の為に使っていた槍が痛んでいたのに気付かなかった事がなんとも皮肉であった。当人もまったくだと照れ臭そうに笑っている、この屈託ない性格が可愛いらしい。飾り気もなく裏表の無い性格が佐助は気に入っていた。


「これが戦であったら首を取られていたであろう。…拙者もまだまだ未熟よ。」


「まぁ、戦で使う槍は特別な造りになっているから途中で折れたりするもんじゃないけどね」


それでも槍が痛んでいる事には気付かないと。と付け足すと何度も言われてばつが悪いのか仄かに顔を赤らめて『わかっておる』と顔を背けた。そろそろ機嫌を取ろうかな、と佐助は笑った。
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