☆佐助×幸村☆
□背伸びキス
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『背伸びキス』
「せせせ…接吻んんっ…!?」
幸村は幼さの残る顔を赤面させてどもらせる。
「うむ!!」
片やお館様は大きな顔を存分に上下に揺らした。
今なにをしているかというと…。
『武田流・保健体育塾』
…の時間な訳で…。
大切な事だと言い張ってお館様が直々に旦那に子作りの仕方や男と女の身体の知識を伝授している。
(…いくらなんでも遅すぎやしないかい…?)
佐助は深いため息を着いて金属に包まれた額に手を当てた。
(…て言うか旦那17歳だろ?『接吻』くらいみんなしてるよ)
……ああ、でも。
そうか…。
考えてみれば、前田の旦那の奥さんや、上杉の所のかすがを見て『破廉恥』と絶叫する彼は、普通の17歳よりはだいぶ純粋なのか…。
女の子に縁の無い生活してるしなぁ…。
「接吻とは相手の唇と自分の唇を合わせる事だ!労る様に触れるのだぞ!!」
「…く、唇と唇をでござるか……?」
真田の頭に無数の『?』が浮かんで見える。
まさかと思うが、その行為に対して意味を履き違えていないか心配になる。
「それなら!先日この佐助めとやり申しましたぞ!!」
「はぁっ!?」
「ふむ…佐助とか?」
ちょっとちょっと!!!勘弁してよ旦那!!!お館様の視線は痛いし、旦那は同意を求める無邪気な笑顔だ。
「ちがうよ、旦那。あれは人口呼吸のやり方を練習しただけじゃないかー…」
しかもあれを『接吻』と勘違いしているなんて…一体どこまでお子様なんだ。
ひとたび戦場に出れば、次々に兵をなぎ倒す天才戦国武将だってのに…。
戦いばっかりやってて、大事な部分が欠けている。
純粋で素直だからお館様も俺も大事にしているけども、自分達が居なくなったらどうしていくんだろう。
雇われの身なのに完璧に情が移ってしまった。
お館様の塾は続くが、真田の旦那は全くわからないと言った感じだ。恋だってしたことが無いだろ無垢な心は、自分も他人と同じ様に恋愛出来ると思っていないだろう。
不完全なのに身体や技術ばかりが伸びている。
素直で優しいから良いけれど、悪用されてたら世界は終わっていたのかも…。
つくづく武田に拾われて良かったと思う。
「…お館様の言っている事が全くわからなかった。」
その日の夕刻。
散歩がしたいと屋敷の外をぶらぶらする幸村の口からこぼれた言葉にドキリとした。
まぁ。旦那にはもう少し大人になってからだろうなとは思っていたが。
お館様はひとしきり話終わると『以上!』と言って公務に戻られた。
二人でその背中を見ていたが、隣の気配はずんと落ち込んでいる。お館様の言葉の意味がわからないのはよくある事だが、感覚で話の受け答えをする所がある幸村だから解らなくて余計に困惑しているに違いない。
足元の石をコンッと蹴った。
夕陽のせいで全てが赤い。
「気にすることないさ。もう少し大人になったら分かるよ。」
振り向いて笑いかける、まだまだ世話の掛かる位が丁度良い。
うつむいて、足元の砂利を蹴る姿は子供そのもの。
あまり早く成長されても、ちょっと寂しい位だよ。
見守りながら彼を支えたい気持ちがあるから優しくしてやる。それが俺なりの愛情だから丁度良い。
「…佐助はしたことあるか?接吻。」
顔を上げたらやはり年齢より幼い。あどけない表情に返事に困った。
「んんっ、…まぁ接吻くらいは…」
…なんて嘘。
俺は旦那みたいに純粋でも無垢でもないからだいぶ昔に全部覚えた。
それが仕事だったりするし、…忍って色々あるのよ。
「佐助はもう終えたのか…。そうか…。」
残念そうに肩を落とす、本気の恋をした事があるのかと言われたら自信はないが。少なくとも相手と心を通わす位はあると思う。
この子はそれもないのだから少し可哀想に思えた。それが憧れであったりする訳でもなく、欲しい物でも無いんだろう。だから焦っているのかもしれない…なんて考えてみたりする。
「旦那は恋がしたいのかい?ーーそれとも接吻がしたいだけ?」
西に沈む夕日に鴉の影が溶けている。
頬を撫でる風は柔らかい。
「佐助…、頼みがある。」
「へ?」
真っ直ぐな瞳が自分を捉えた時に胸が高く鳴った、急に真面目な目をするから驚いたのだ。
真っ直ぐな瞳は視線を外さず自分を捉えたままだし、距離を詰める真田から目が離せない。
「某と接吻をしてくれ」
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