alleアレグロgro
□刻まれる時間
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私の隣に誰かが近寄って来て私の冷たくなった頬を優しく撫でた…
『いえ…、こんなところをお見せして恥ずかしいですわ…』
心が弱っているせいか、見知らぬ人にそんなことをされても私は何も抵抗しなかった…
「よろしければ、私と踊って頂けませんか?」
その申し出に、うつ向いていた私は顔を上げてその人を見ると…
友人と踊っていた黒い髪の彼だった。
『はい…』
その私の返事に彼はニコッと微笑む…
彼の手のひらに私の手を重ねるとギュッと握りしめ強く私の腕を引っ張っりフロアーとは反対の薄暗い庭に出た。
「ここなら、私達を邪魔する者はいません」
遠くの屋敷から…
微かに聞こえるメロディ…
それに合わせて彼は私をリードする…
何曲を共にしただろうか…
屋敷の方から演奏が聞こえなくなりパラパラと人が外に出てくる。
彼は私から離れ…
「そろそろお開きの時間ですね…」
『また、また私と踊って下さいませんか?』
私の願いに目を細めて微笑む彼…
「勿論です」
「貴女にこれを…私を忘れないで下さい」
彼は胸ポケットから銀色に輝く物を取りだし、私の髪にそれをつけた…
それはシルバーに宝石をあしらった髪飾りだった…
『はい』
楽しい時間とは速く過ぎてしまうもの…
私達はお互いの名前も聞かず、また一緒に踊る約束をして別れた…
それから私はダンスの催しがある度に彼からもらった髪飾りをつけ、一目で分かるようにしている…
しかし…
彼はあれ以来私の前に現れる事は無かった。