風シリーズ

□大成功
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「本日はお日柄も良く〜」


嵐のアルコバレーノに睨まれながら見合いの挨拶をする青い顔の跳ね馬ディーノ。刹那をここ、見合いが開催されるホテルへ連れて来るのは彼の役目。ここに来るまでの間に何があったのかは想像もしたくないが、おおよそ嵐のアルコバレーノに痛い思いでもさせられたのだろう。二人の間にはしっかりとした上下関係なる図式が見えない文字によって描かれている。そしてその主役の席に座って目の前の男を見据える彼女。マフィアの集うこの場所で一体どんな面白い事をしでかしてくれるだろうか、と僕の胸は淡い期待に包まれる。僕の第一希望としてはやはり嵐のアルコバレーノによる花嫁(仮)連れ去り、第二希望は刹那の手による見合いのぶっ潰し。どちらにしても大規模な争いに発展しそうな予感がする。上手くいけばこのままボンゴレ壊滅、なんて事も有り得るのだから笑いを堪えるのに必死だ。


「おい」


もう一人の主役、ザンザスが彼女に無遠慮に声を掛ける。彼女は満面の笑顔ではい、と慎ましく返事をする。そんな彼女の笑顔を見て僕の隣で身悶える嵐のアルコバレーノ。…彼はあれでしょうか、バカなのでしょうか?


「そんなに見つめんな。照れるだろーが」


ぽ。効果音をつけるとしたらまさにそれがぴったりくる。ザンザスが頬を赤らめながら刹那にそう言ったのだ。気持ち悪い。吐き気がしてきた。


『すみません。その羽根が気になって…』


羽根?…あぁ、あの羽根ですか。別に気にする程の事でもない気がするのですが。彼なりの精一杯のお洒落、でしょう?(骸お前…消されるぞ)


「あ?この羽根か…何の鳥の羽根か気になるか?」

『凄く』


そんな事言われたら僕も気になってきました。何の鳥でしょう。何処かの山鳩が落とした羽根だったりしたら面白いんですが。


「実は俺にも何の鳥かは解らねぇ。だが凄ぇ鳥なんじゃないかと思ってる」

『例えば?』

「コウノトリとか…」


ぽ。またザンザスが頬を赤らめた。全然凄くありませんから。しかも何ですか、俺と結婚して早く子供産んでくれをうまい事言ってやったみたいなその顔。痛々しいんですが。と言うより何か腕が痛いんですが。…え、腕?


「ははは…殺したくなってきました」

「…」


嵐のアルコバレーノが怒りに任せて僕の腕を抓っている。ザンザスも痛々しいがこっちはこっちでまた痛々しい。


『あの…』


沈黙に耐え切れず彼女がザンザスに話掛けた。


『私を選んで下さって日本まで来て頂いたのに申し訳ないんですが…私、恋人がいるので貴方と結婚出来ません。つーかするかこのバカ』

「…」

『大体ね、何で私があんたみたいな暴君と結婚しなきゃならない訳?私も暴君だからとか言ったら螺旋丸だよマジで』

「螺旋丸!?姉さんなに言ってんの!?」

『私は風さんが好き。彼が嵐のアルコバレーノだろうが何者だろうが好きなのは風さんだけなの。お呼びじゃないわよザンザス。帰れ今すぐ』


彼女はそう言うとホテルの出入り口を指差す。突然の彼女の告白にその場は静まり返る。気温も心無しか少し下がっている様だ。…僕の隣では気温が上昇していますが。


「…ふっ」

『…』

「ぶはーっはっは!!この俺にそんな口を聞くかこのカス女ッ。随分と生意気になったもんだな刹那ッ」


笑ったかと思えばザンザスがセッティングされたテーブルを横へと倒した。がしゃん、ばりん、と食器が音を立てて破壊されていく。その場に緊張が走る。だが刹那は身動き一つ、眉一つ動かさずそのまま座り続けていた。こんな状況、女ならば怯えて震えるのが普通だ。それ所か椅子から立ち上がり自分へと歩いてくるザンザスを睨みつけていた。


「気に入った」


刹那の頬を掴み上げてザンザスがそう言った。緊張が走る。隣からはとんでもない殺気と怒気が伝わってくる。


「施しだ」

「刹那さんッ!!」


不敵に笑うザンザスが自慢の銃を刹那に向ける。彼女の名を叫んで飛び出すアルコバレーノ。ぎゅっと強く目を閉じる刹那。そしてにやり、と笑ったザンザスが銃の弾き金を引いた。




パンッ…




『…?、』

「え、」

「は…?」


煙と共に刹那の頭上を舞う色彩鮮やかな紙。ボンゴレとヴァリアーの紋章が描かれた旗。そして何故か飛び出す鳩。紋章と一緒に書かれた文字を見て刹那と嵐のアルコバレーノと沢田綱吉。そして僕を含めた守護者達はぴしっと音を立てて固まった。










大成功
(今日はエイプリルフールだカス女。俺との婚約はドッキリだぶはーッ)



「ク…ハハハハッ!!そういう事でしたか、クフフ…クハハハッ!!!」

『騙された…しかもザンザスにッ…屈辱…!!』


悔しそうに床に拳を叩きつける刹那を見て9代目が豪快に笑いながら謝った。そして彼はとても穏やかな顔で言った。ザンザスと刹那ちゃんは小さい頃からの友人だよ、と。嵐のアルコバレーノは渇いた笑いを零すと"良かった…"と一言だけ呟いた。



(もう一つ施しだ。食らえ水鉄砲ッ!!ぶはーッ)
(テメェあんま調子乗るなよザンザス!!)
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