風シリーズ
□外を見てごらん、可愛いお嬢さん
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(風視点)
遠い意識の底から小さな電子音が聞こえてくる。目を開ければ画面が明るく光って着信を知らせている。いつの間にか寝てしまっていた様だ。この電話はまた仕事の依頼、ですか?今日はそんな気分ではない、とまだ半分しか起きていない頭で落としたままの携帯を拾い上げ画面を見る。
「!、」
画面に表示された名前を見て意識が完全に覚醒する。見間違いでなければ表示される文字は彼女の名前。慌てて通話ボタンを押して携帯を耳へと当てる。
「もしも《風さん大好き!!》は、い?」
突然の大声でそれだけ聞こえたと思えば、後に聞こえるのは通話の途絶えた事を知らせる音のみ。時間にして僅か2秒の会話。…嫌がらせかそれとも悪戯か、どちらにしても紛れもない彼女の声での叫びに私の口元は自然と緩んだ。
「嬉しい悪戯電話、ですね…」
もう二度と彼女の口からは聞けないと思っていた言葉。それにしても、突然とは言え彼女の言葉に"私もです"と答えられなかった私は余程気の利かない男だとつくづく思う。そしてあんな思いをさせて泣かせてしまったのにも関わらず彼女は私を大好き、だと言ってくれた。
「全く…私を泣かせる天才ですね、貴女は…」
既に灯の消えた画面に水滴が落ちる。
…会いに行こう。今から、だ。明日では遅過ぎる。大好き、と言ってくれた彼女に私も言わなければならない。
貴女が大好きです、と
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(雲雀視点)
『バカバカバカ…私の超バカ…』
「本当だね。返す言葉もないよ」
元サヤに収まるかと思って扉の前で聞き耳を立てていたら、風さん大好き。その後少しの間があったと思えば叫び声。驚いてもう一度部屋に入れば携帯を握ったまま僕に顔を向けて涙目でこのバカは言った。
"どうしよう…切っちゃった…"
バカだと思った。本物のバカだと思った。助けて、と言われたけど僕にどうしろって言うの。この僕が他人の恋愛事情に首を突っ込む事自体が有り得ない事なのに、この女はこれ以上僕に何をさせるつもりだ。だけど後で煩そうなので当たり前の事を一つ提言してあげた。
「もう一度かければいいだけでしょ」
『ムリ無理むりッ!!絶ッ対無理!!』
「…なんで」
『だって…は、恥ずかしい、じゃん…』
咬み殺してやろうかこのバカ。あんな大声で愛の告白しておいて何が今更恥ずかしいって言うんだこの大バカ。
「じゃあメール」
『何て送ったらいい?』
「そのままでいい。好きだ、愛してる、とかそんな感じでいいでしょ」
『無理むりムリッ!!文字を打つのが恥ずかしい!!』
「歯ぁ食いしばれこのバカ」
臨界点突破。刹那なら咬み殺してもすり傷程度で済むでしょ。ちょっと待った!!、待った無しだよ、私に怪我させたら風さんが黙ってないよ?、別れたんでしょ?それも君から、う"ッ…。言葉に詰まった刹那を見てにやり。トンファーを振り上げたらまるで見計らったかの様にタイミング良く刹那の手の中の携帯が鳴った。
「…」
ちなみに聞こえた着信音はルパン三世サブタイトル音。なかなかいい趣味をしてる。
『メ、メール着信音ね…』
苦笑いでそう言った刹那を見て咬み殺す気が失せた。いや、萎えたと言った方が正しい。ただの一度でさえ刹那に勝てた事がない僕がようやく勝てるかもしれないチャンスをぶち壊してくれた奴は誰だ。
『え…、』
メールを見た刹那が部屋のカーテンを開けて外を見る。かと思えば携帯を放り投げて慌てて部屋を出て行った。騒がしい女だ、そう溜め息を吐いて部屋に一人残された僕は、彼女のベッドに投げ出された開いたままの携帯を手に取り画面を見る。
「へぇ…」
そして携帯をベッドに放り投げ、彼女と同じ様に少しだけカーテンを開いて外を見た。視界に入ってきたのは僕によく似た赤いチャイナ服をその身に纏う三つ編みの中国人の男。
外を見てごらん、可愛いお嬢さん
(何処にでもありそうな展開。今時三流恋愛ドラマでもこんなベタな演出はしない)
それでも玄関から飛び出して首に抱き着いた彼女をしっかりと受け止めて抱き締めた彼を見て、三流ドラマも捨てたもんじゃない、と口元を緩めた。
(ヒバリさん、獄寺くんと山本は今日泊まるみたいですけどヒバリさんも泊まっていきます?)
(そうするよ。徹底的に邪魔してあげたくなったから)
(なにを…?)
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