風シリーズ
□決意
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「婚約者とは言ってもまだ正式に決まった訳じゃない。今週の日曜日にザンザスが来日する。9代目やヴァリアー幹部、跳ね馬や俺達門外顧問も立ち会う、お前にはザンザスとお見合いしてもらう。それからツナ、10代目ボスとその守護者達も立ち会いが決定している」
どうやら問題は俺が考えていたよりも深刻になりそうな予感がした。
〓日曜日〓
「お姉様、心配無用です。この獄寺隼人、奴等が妙な真似をしたらすぐに吹っ飛ばしますので!!」
「獄寺くん、もっとダイナマイト用意していいよ。俺が許す」
「はい!10代目!!」
今回ばかりは獄寺くんのダイナマイトもヒバリさんが暴れるのも骸が何か企むのも俺は文句を言わない。…あの話の後から姉さんと風さんは何となく気まずくなっている。姉さんも風さんも突然の事にどうしていいのか解らずお互いに苛々として顔を会わせれば喧嘩ばかりしている。あんなに仲が良かった二人の関係はここ数日で不穏なものに変わってしまった。俺は二人がボンゴレのせいで別れるのは嫌だし、何よりもザンザスと義理の兄弟になるのはもっと嫌だ。リボーンの一言でアルコバレーノもお見合いに立ち会う事になったのはいいけれど、風さんの気持ちを考えるととてもじゃないけどその場になんていたくないだろうな、と思う。
『ツナ、グローブ貸せ』
「…はい?」
部屋で獄寺くんにネクタイを締めて貰っていると姉さんが部屋の扉を荒々しく開けてそう言ったので俺は思わず聞き返してしまう。昨日も風さんと喧嘩していた姉さんは泣き腫らした赤い目をしていた。
「グローブって…何するつもり?」
『私にもブラッド・オブ・ボンゴレがあるんだから零地点突破出来るはず…』
「え………えッ!?」
『二度と目覚めない様にしてやるわあの御曹司め…!!』
「落ち着いて下さいお姉様!!」
『放さんか隼人!!この私が…私がボンゴレをぶっ壊してやる!!!』
「何処でそんなセリフを!?」
やっぱり姉さんは普通じゃない、俺はそう思って溜め息を吐くと仕方ありませんよ、と骸がネクタイを締めながら姉さんに向かって言った。
「ザンザス自身が貴女を選んだのだから」
『…………』
「哀れな女だ。ボンゴレ10代目の姉と言うだけで嫌でもこんな事に巻き込まれる」
だからマフィアは嫌いなんです、と骸は言うと俯く姉さんの前まで行くと続けて言った。
「貴女もそうは思いませんか?本当なら愛する男とこれからも何気ない出来事で笑っていられたはずなのに……あぁ、その愛する男も嵐のアルコバレーノとあっては平凡な人生は望めそうにはありませんけどね」
「骸ッ、いい加減に、」
骸を止めようとした時、姉さんが骸に掴み掛かりすぐ後ろの本棚へと骸を押し付ける。棚からは本がばさばさと音を立てて落ち、いつの間に奪ったのか姉さんの手にはヒバリさんのトンファーが握られ、それは骸の首へとあてがわれていた。
『死にたいの?』
「クフフ…怖い女だ…さすがはかつてボンゴレ10代目候補に名前が上がっただけの事はある」
『黙れ』
「それは命令ですか?ならば聞けませんね。僕はマフィアの言いなりになるつもりはない」
『私はマフィアじゃない』
「いいえ、貴女はマフィアの娘であり姉でありボス候補にも上がった女だ。貴女がそう思っていなくても周りは貴女をマフィアだと思っている。お似合いですよ、ザンザスとねッ!!」
骸はそう言うと姉さんの腕を掴んで逆に姉さんを本棚へと押し付ける。
「やめろ骸!!」
「どうした!コラ!!」
騒ぎを聞き付けたアルコバレーノ達が俺の部屋に集まって来た。その中には勿論風さんもいて…風さんは骸の腕を強く掴むと殺気立ちながら骸に言った。
「放しなさい。怪我をさせるつもりですか?」
「怪我?ならば僕のしている事は可愛いものですね。貴方は彼女をマフィアの暗殺部隊の巣に放り込むつもりですか?」
「……ッ!?」
骸の言葉に風さんが肩を揺らす。そんな風さんを見て骸は嘲笑うかの様にまた言い放った。
「最強の七人と呼ばれるアルコバレーノの一人でありながら愛する女一人守れないとは笑い話ですね。彼女を守って今回の話が流れたとしても同盟ファミリーのボスが新しい婚約者として名を連ねるだけですよ」
その中には跳ね馬も入るでしょうね、と骸は風さんを挑発する。
「貴方達は遅かれ早かれボンゴレの手によって引き離される運命だ。抗っても無駄…ですよ。だから嫌いなんですよ、マフィアはね」
そうでしょう、刹那。と骸は姉さんに問い掛ける。風さんは掴んでいた骸の腕を放すと何も言わずに俯いた。
『ふざけるな』
ずっと俯いて骸の言葉を聞いていた姉さんが顔を上げて骸を真っ直ぐ見つめた。
『ボンゴレなんかに私の運命は決めさせない。私の運命は私が決める』
そう言うと骸の手を振り払い、風さんを一度も見ずに部屋から出て行った。俺は姉さんのあの前を見据える様な目をよく知っている。
決意
(姉さんがああいう目をする時は何かを決意した時だ)
やはり彼女とは契約しておくべきだった、そう言って笑った骸を一睨みすると、風さんは姉さんの後を追い掛ける様に部屋を出て行った。
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