風シリーズ

□ほんの一瞬
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今日も何時もと同じ様に獄寺くんと山本と共に帰宅中。最近じゃ群れるのを嫌うヒバリさんまで一緒だ。まぁこの人の場合姉さん目当てで俺の家に来るんだけど、姉さんにはれっきとした彼氏がいる訳で。いい加減諦めればいいものをしつこく追い掛けるから姉さんから結構酷い仕打ちを受けて泣かされたり、彼氏に痛い目に遭わされてもめげないヒバリさんってある意味バカだと俺は思う。家の前まであと少しと言う所まで来た時、全員その場で足を止めて近くの電柱へと身を潜めた。姉さんも学校から帰って来たみたいで隣には俺の母さん公認、姉さん自慢の彼氏の風さんがいた(父さんが知ったらどうなる事やら)どうやら姉さんを家まで送ってきてくれたらしいけど様子がおかしい。


「何か揉めてないっスか?」

「やっぱり?俺もそう思った」


獄寺くんが小さな声でそう言ったので俺も思ったままの言葉を返すと山本とヒバリさんも頷いた。キス事件から2週間、ようやく正常に戻った風さんとの間に何かあったのだろうか。


『風さん私の事好きじゃないんだ』


ないないない。どう考えたってそれはないよ。誰の目から見ても風さんが姉さんにベタ惚れなのは偶数通り過ぎる通行人にもバレバレなんだから。


「そんな訳ありません。愛してます」


風さん、お願いだからそんなこっ恥ずかしい事を言わないで…!!姉さんも赤くなってる場合かよ!!何か揉めてたんじゃなかったの!?このバカップルなんなの本当に!!と思っていたら姉さんが風さんを睨み上げて言った。


『じゃあちゅうして』


この……バカ姉!!!まだそんな事言ってんの!?つーかこの間自分からしたじゃん!!放心してるのをいい事に俺達の目の前で風さんの服に手を掛けた時はさすがに焦った。そして誰よりも早く止めに入ったヒバリさんと骸に心の底から感謝した。て、言うか…もしかしてあれから一度もキスしてないのこの人達。風さん、いくらなんでもヘタレ過ぎます。


「こんな道端で…?」

『だめ…?』

「うッ…」


押されてる押されてる。風さん、姉さんの上目遣いでのお願いに弱い。これはひょっとして風さんから姉さんにキスしたりする歴史的瞬間に立ち会えるかもしれない。


「刹那からするにジュース1本」

「お。んじゃ俺は風からするにジュース1本な」

「お姉様からするにジュース1本だ」


なに賭けとかしちゃってんの!?しかも獄寺くん、笑顔で10代目はどっちにします?とか聞いてくんな!!


「邪魔が入って出来ないにジュース3本…」


って、俺までなに賭けちゃってんの!?姉さんに知られたら怖いって!!でも風さんって凄いよな、なんて俺は思う。弟の俺が言うのもなんだけど、姉さん美人だし可愛いしよくモテるしスタイルだっていいし…そんな姉さんを落とした風さんってやっぱり凄いよな。優しいし人柄だっていいしいつも姉さんを一番に考えてるし、何よりも姉さんを大切にしてくれてる。母さんが安心して公認するのにも俺は納得。まぁ母さんの場合、相手が誰であろうと公認なんだろうけど。


『早く…』


急かす様に姉さんがそう言って目を閉じた。風さんも覚悟を決めたのか姉さんを抱き寄せて赤い顔を近付ける。おぉッ…風さん頑張れ!!と思った瞬間、食い入る様に見ていたヒバリさんが身を乗り出して山本が騒ぎ出す。


「ヒバリッ…お前ちょっと乗り掛かるなって…!!」

「うるさいな、咬み殺すよ」

「ちょっと退けって…!!」

「なに騒いでやがるテメェ等ッ」

「わっ、獄寺くんちょ…」


ばたばたばたばたッ!!と、四人分の倒れた音に慌てて前を見る。


「あ、はは…こんにちは風さん…」

「こ、んにち…は、」


もう笑うしか出来ない。風さんは真っ赤な顔を片手で隠す。もう片手はしっかりと姉さんの腰を抱いているけれど。本当ごめんなさい、折角のチャンスを潰してごめんなさい!!そう風さんに謝れば姉さんがゆっくりと振り向いて物凄い綺麗に笑った。俺達四人は冷や汗と共に顔の血の気が引いていくのを一瞬にして感じた。


「あらぁ残念。あと少しだったのに」


姉さんが俺達に向かって拳を振り上げた瞬間、我が母親の呑気な声が聞こえた。その声を聞いて姉さんと風さんは勢いよく振り返る。


『か、母さん…』

「もうちょっとで刹那ちゃんと風さんのキスシーンが見れたのに」


まさか母さんまで見ていたとは…姉さんと風さんはお互い真っ赤になりながら顔を見合わせて苦笑い。


「つーか母さん!!娘のキスシーン見て何が楽しいんだよ!!」

「いいじゃない別に」

「よくないだろ!!」


俺が母さんにギャーギャーと文句を言い、獄寺くんと山本がそれを止め様とする。


「刹那さん、」

『ん?』


俺達は騒いでいて風さんが小さく姉さんを呼んだ声にも気付かない。


「思い出すわぁ〜母さんも父さんとあんな時が……あら」

「え?」


突然赤い顔をした母さんの言葉に振り向いた時は既に遅かった。










ほんの一瞬
(照れる姉さんを見て風さんからキスした瞬間を見逃した事に気付いた)



誰よりも貴女が大好きです、そう姉さんの耳元で言った風さんは俺達の存在等無視してもう一度姉さんにキスをした。
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